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イギリスのサー・マーク・プレスコット調教師は、女傑でドイツのG1レースを勝つ “術” を熟知している。

土曜日、その名伯楽がタタソールズ・ディセンバーセール前の最後の一戦として、ティファニーをG1・バイエルン大賞の一戦に送り出す。

「我々にとって相性の良いレースです。アルバノヴァとアルピニスタで勝ちましたから」と、プレスコット師はIdol Horseに話す。

アルピニスタは翌年、G1・凱旋門賞を制して世界的名声を確立。アルバノヴァの勝利は、この2400m戦が旧称『ラインラントポカル』だった時代のものだ。

ティファニーは英国でも一線級の実績があり、昨年アスコットのG1・英チャンピオンズフィリーズ&メアズステークスではカルパナの3着。ドイツ遠征には慣れており、同地でリステッド2勝、G2も制覇。昨季はこのレースで僅差の2着で締めくくった。

今季は10か月ぶりに復帰し、前走のG1・オイロパ賞(ケルン)で2着に入っている。

「長期休養明けとしては上々の内容だったと思います」とプレスコット師。「春に椎骨に微細なヒビが見つかって長めの休みになりましたが、よく走ってくれました」

「ここは上積みが見込めます。前走との間隔も十分取りました。今回はアスコット遠征を見送り、間隔を延ばす選択をしました。その結果、G1挑戦は3戦ではなく2戦に絞る形になりましたが、間隔を重視したのです。ただ、今年のバイエルン大賞は彼女が2着だった昨年よりもレベルが高い一戦です」

今年のレースには強力な顔ぶれが揃った。カール・バーク厩舎のG1・独ダービー2着馬で、前走G2・コンセイユドパリ賞を制したコンバージェントを筆頭に、昨年のG1・香港ヴァーズを制したジュンコもこのレースに参戦する。

アンドレ・ファーブル師がジュンコを遠征させてきたことについて、プレスコット師は一言、「がっかりしましたね」とユーモアを交えながら言及。「今年は昨年より一段レベルアップしています」と見解を語った。

もっとも、今季の最重要目標は、繁殖牝馬候補のティファニーでG1タイトルを獲得することだ。

ティファニーはエリートレーシングクラブの自家生産で、名牝ソヴィエトソングの半姉を母に持つ良血牝馬。プレスコット厩舎で短距離G1を2勝し、2017年12月の繁殖牝馬セールでクールモアへ600万ギニーで売却されたマーシャも、祖母にソヴィエトソングの半妹を持つ血統だ。

「彼女にとって非常に重要な一戦です。G1勝ちはまだありませんが、G1で3度の入着があります」

「エリートレーシングはマーシャも託してくれた方々です。あの時は素晴らしい金額の売却が実現しました。ティファニーも12月にセールへ向かいます。タタソールズで同じ結果を期待しているわけではありませんが、もし土曜日に勝てれば評価は確実に上がるでしょう」

より成熟した今、昨年のパフォーマンスを上回れるだろうか。

「それは分かりませんが、良い復帰戦でした。間隔をしっかりとっていますから、いわゆる反動は出ないはずです。やれることはやりました。あとは彼女が勝ち切るだけの力があるかどうかですね」

ティファニーがドイツへ向かう同週末、同じくニューマーケット拠点のウィリアム・ハガス師は豪州で2頭を送り出す。フレミントン競馬場のG1・チャンピオンズマイルにレイクフォレスト、ローズヒル競馬場のファイブダイヤモンズにブレットポイントだ。

先週土曜日、フォーエバーヤングはデルマー競馬場のG1・BCクラシックを制したことで、真のワールドチャンピオン、そして日本発のダート王者に上り詰めた。しかし、その類い希な海外実績は、日本の年度表彰で然るべき評価を得られるのだろうか。

誰もが認める名伯楽、矢作芳人調教師はその行方に確信を持てずにいる。

リアルスティール産駒のフォーエバーヤングは、2000mの北米頂上決戦だけでなく、昨年のG1・ケンタッキーダービーでは頂点にあと一歩まで迫り、今年2月のG1・サウジカップでは香港のロマンティックウォリアーを撃破する歴史的勝利を積み重ねてきた。

ただし、通算13戦のうち国内出走は6戦に過ぎず、JRAの競馬場で走ったのは2023年10月、京都競馬場での新馬戦勝利の一度だけ。今年9月には船橋競馬場の日本テレビ盃を圧勝したが、今年国内でのレースはそれが唯一だった。

フォーエバーヤングが歴史的快挙を達成した直後、デルマーで報道陣に語った矢作氏の言葉からは、日本メディアの国内重視や、年度代表馬投票で芝馬が優位になりがちな風潮を、例年の傾向として念頭に置いている様子が窺えた。

「(周りの方は)凄いと言うけども、日本で本当に凄いと評価してくれるかですよね」

「本当にマスコミの皆さんに言っておきたいですが、そうなったら面白いですから、日本で年度代表馬を逃してエクリプス賞(アメリカの年度表彰)の年度代表馬を取れたらいいのになと思っています」

Forever Young wins Breeders' Cup Classic
FOREVER YOUNG, RYUSEI SAKAI / G1 Breeders’ Cup Classic // Del Mar /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

1990年11月6日、G1・メルボルンカップ史上最速の決着が生まれた。豪州の名伯楽、バート・カミングス師が送り出したキングストンルールが、ダレン・ビードマン騎乗で『国を止めるレース』で3200mのトラックレコード(3分16秒3)を樹立した。

1957年11月9日、ボールドルーラーが米ニュージャージー州、ガーデンステートパーク競馬場のトレントンハンデキャップで、エディ・ア-キャロ騎手を背に逃げ切り勝ち。ギャラントマン、ラウンドテーブルとの3頭立てを制して、アメリカ年度代表馬の座を確かなものにした。

1988年11月8日は記念すべき一日となった。ジュリー・クローン騎手がブリーダーズカップで史上初の女性騎手として騎乗し、G1・BCジュヴェナイルフィリーズでダービーシャッフルを2着に導いた。

この年は名牝・ミエスクがG1・BCマイルで大会史上初の連覇を飾り、もう一頭の名牝、パーソナルエンスンはG1・BCディスタフで13連勝を飾って引退。北米では80年ぶりとなる無敗のチャンピオンが誕生した。

Jockey Julie Krone
JULIE KRONE / Photo by Shaun Botterill/Allsport

デルマーに熱狂の渦を巻き起こした、フォーエバーヤングの歴史的な勝利。現地で取材したデヴィッド・モーガン記者は、長年の夢をついに叶えた矢作芳人調教師の “静かな歓喜” に立ち会っていた。

アダム・ペンギリー記者はカップデーのフレミントン競馬場を取材し、ジェイミー・メルハム騎手とハーフユアーズが歴史に名を刻んだメルボルンカップをさまざまな視点からまとめた。

トム・プレブル騎手は、下半身が麻痺する大怪我を負った落馬事故から7週間後、アダム・ペンギリー記者の取材に応じた。

23歳のプレブルは、「最初は気持ちも落ち着かなかったですし、世の中を恨みました。ですが、改めて考えてみると、実は『もっと悪くなっていた可能性もあるんじゃないか』と思いました。腕も頭もある、とても幸運でした」と話し、率直な思いを明かした。

フェスティバルヒルは、近く行われるG1戦線で有力な存在になり得る牝馬だ。来月のG1・阪神ジュベナイルフィリーズでも、来季のクラシックでも主役級として侮れない。

サートゥルナーリア産駒の同馬は、皐月賞を制したミュージアムマイルの半妹という超良血で、先週末のG3・ファンタジーステークスでは1番人気に応えて3戦2勝とした。直線ではクリスチャン・デムーロ騎手がやや進路に迷う場面があったが、強い競馬で完勝を収めた。

スタートはやや後手。首に汗をかき、耳を後ろに伏せ、中団後方で行きたがる面を見せ、前が詰まって手綱を引く場面が2度あった。直線に向いて馬群が広がると進出を開始し、残り2ハロンを切ってからようやく「スイッチが入った」かのように手前を替えて加速。最後は僅差ながらも、スマートに差し切った。

この実戦経験でさらなる前進が見込める。52歳の四位洋文調教師にとっても、G3の壁を超える初タイトルを手にする可能性が十分にある。

Festival Hill wins the Fantasy Stakes
FESTIVAL HILL, CRISTIAN DEMURO / G3 Fantasy Stakes // Kyoto /// 2025 //// Photo by JRA

🇦🇺 VRCチャンピオンステークスデー
フレミントン競馬場、11月8日

土曜日のフレミントン開催では3つのG1が行われ、その筆頭がVRCチャンピオンズステークスだ。主役は今回もヴィアシスティーナ、今回は王座防衛の一戦に臨む。

クリス・ウォーラー厩舎の女傑は前走、前走のG1・コックスプレートでバッカルーの猛追を凌いで連覇のG1制覇を挙げた。アトリション、トムキトゥン、ライトインファントリーマンらが、ヴィアシスティーナの連勝阻止を狙う。

🇩🇪 バイエルン大賞デー
ミュンヘン競馬場、11月8日

2021年、アルピニスタでバイエルン大賞を制したサー・マーク・プレスコット調教師は、このレースを制した最後の英国人調教師となっている。今週末はティファニーでその再現を期す。

今年はこの2400mのG1には、カール・バーク、ジョージ・スコットの両師も、それぞれコンバージェント、ベイシティローラーを英国から遠征させる。コンバージェントは7月のG1・独ダービーを僅差で逃したが、アイルランドとフランスでの重賞勝ちを経て、今回はウィリアム・ビュイック騎手を配して上位進出を狙う。

🇯🇵 エリザベス女王杯
京都競馬場、11月16日

エリザベス女王杯は日本で唯一、3歳以上の牝馬に限定されたG1レース。距離は2200mで行われる。

中山のオールカマーを快勝したレガレイラは、3度目のG1制覇を狙って乗り込む可能性がある。2023年ホープフルステークスでG1初制覇を飾ると、昨年12月の有馬記念ではシャフリヤールの追撃を抑えて勝ち切っている。

🇯🇵 マイルチャンピオンシップ
京都競馬場、11月23日

マーク・ザーラ騎手は、今年のロイヤルアスコット開催にて、G1・クイーンアンSでドックランズとコンビを組んで鮮烈な勝利を挙げた。今回、京都への日本遠征でさらなる海外G1制覇を狙う。

ドックランズは6月のアスコットでロザリオンを僅差で退けたが、その後は勝利がない。それでも、先月のG1・クイーンエリザベス2世Sで見せた健闘の4着を携え、日本へと乗り込む。目指すはソウルラッシュ、アスコリピチェーノらの強豪撃破だ。

DOCKLANDS, MARK ZAHRA / G1 Queen Anne Stakes // 2025 /// Ascot //// Photo by David Davies/PA Images via Getty Images

🇯🇵 ジャパンカップ
東京競馬場、11月30日

ヨーロッパの中距離スターが、11月末の日本で真価を試すべく、東京競馬場の芝コースに乗り込む。

今季絶好調のフランシス=アンリ・グラファール師は、今年に入ってG1を3勝している4歳騸馬のカランダガンでシーズンを締め括ろうとしている。前走、アスコットの好メンバーが揃ったG1・英チャンピオンSで格の違いを示し、キャリア最高とも言える走りを叩き出した。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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Racing Roundtable, Idol Horse

ワールド・レーシング・ウィークリー、世界の競馬情報を凝縮してお届けする週刊コラム。IHFAの「世界のG1レース・トップ100」を基に、Idol Horseの海外競馬エキスパートたちが世界のビッグレースの動向をお伝えします。

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