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トニー・クルーズ(本名:アンソニー・クルーズ)、この男は香港競馬の「生ける伝説」として知られている。香港競馬史上最も有名な人物で、そのあまりの知名度から、公共交通機関を長年自由に使えないほどだった。

騎手としては香港で6度のリーディングジョッキーに輝き、ヨーロッパでもクラシックレースを制覇。調教師としても香港リーディングを2回獲得している。

歴代の管理馬には “香港競馬を代表する名スプリンター” サイレントウィットネスをはじめ、ブリッシュラック、カリフォルニアメモリー、エグザルタント、ペニアフォビア、タイムワープ、カリフォルニアスパングルといった名馬が並ぶ。

Horse trainer Tony Cruz

クルーズはマカオ系中国人の家系に生まれ、父には香港競馬がプロ化する1972年以前に活躍したジョニー・クルーズ騎手を持つ。兄のデレクも騎手から調教師に転身し、短距離路線で活躍したジョイアンドファンを管理したことで知られる。

クルーズは香港の騎手学校の第一期生としてデビューし、瞬く間に頭角を現した。香港で絶対的な地位を築いた初の地元出身ジョッキーとなり、チャンピオンホースのコータックとコンビを組んでは、数々のビッグレースを制した。

さらに、香港出身の騎手として初めて海外で名を馳せた存在でもある。夏をフランスやイギリスで過ごす中で、アガ・カーン、マフムード・フストク、エリザベス女王2世といった世界的に著名なオーナーと関係を築いた。

海外での主な勝利には、レディインシルバーで制したディアヌ賞(仏オークス)、マグニフィセントスターでのヨークシャーオークスがあるが、最も有名なのは名牝トリプティクとのコンビで、英チャンピオンステークス連覇、愛チャンピオンステークス、コロネーションカップ、ガネー賞を制したことだ。

1995年に騎手を引退し、翌年には香港で調教師免許を取得した。

Tony Cruz, jockey and horse trainer

クルーズ厩舎の調教方針は至ってシンプルだ。管理馬の調子が良いうちに、出走可能なレースが番組にあれば必ず出走させる。

自厩舎のトレードマークには、白い頭絡を用いている。馬が先行する積極的な競馬を好むが、戦術は多彩で、騎手時代に培った優れた戦略眼を発揮している。また、馬への深い理解力を持ち、馬の行動を観察して性格を把握し、何がその馬を動かすのかを理解することに努めている。

Horse trainer Tony Cruz

数々の名馬を育てたクルーズだが、最高の一頭といえば議論の余地はない。サイレントウィットネスだ。

サイレントウィットネスは香港競馬史上初めて、デビューから17連勝を成し遂げた伝説的なスプリンターであり、2005年のスプリンターズステークスを制して、日本のG1レースを初めて勝った香港馬となった。

サイレントウィットネスはその圧倒的な連勝記録で国際的な注目を集めた最初の香港馬であり、2003年にSARSの流行が香港を襲った後、競馬ファンに大きな勇気を与えた存在でもあった。香港でのG1勝利により、年度代表馬に2度選出され、世界ランキングでもトップスプリンターに輝いた。

Silent Witness

クルーズの最大の偉業としては、変わり者として知られるパキスタンスターの管理が挙げられる。

パキスタンスターが一躍世界的な有名となったのは、デビュー戦を最後方からの豪脚で勝利したときだった。翌シーズンにはラッパードラゴンに次ぐ香港ダービー2着に入ったが、シーズン最終戦では断然人気ながら、途中で走るのをやめてしまった。

パキスタンスターは実戦デビュー前から、気性面で一風変わったところを見せていた。香港インターナショナルセール前のブリーズアップ(公開調教)では、馬場に入るのを嫌がり、走り出すまでにかなり時間がかかった。クルーズは「厩舎では問題はなく、単にシャイなだけ」と語っていた。

その後、怪我により翌シーズン前半を棒に振り、2018年初頭に復帰したが3連敗。しかし、続くG1・クイーンエリザベス2世カップでついに真価を発揮し、ウィリアム・ビュイック騎手を背に5馬身差の圧勝。シャティン競馬場は観客の大歓声に包まれた。

さらに数週間後には、G1・チャンピオンズ&チャターカップも制覇している。

これがパキスタンスターの最後の勝利となったが、この気性難ホースをG1・2勝馬へ導いたクルーズの手腕は、調教師としての巧みさを示すものだった。

Horse trainer Tony Cruz

クルーズの娘であるアントニアさんのポートナーは、長年のライバル関係で知られているジョン・ムーア調教師の息子、ジョージさんだ。

2023年、二人の間にエンツォ・クルーズ=ムーアくんが誕生。香港競馬を支えてきた “二大血統” が結びつき、両者は祖父となった。

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