今年の開催、最も興味深いレースは何か?
デイヴィッド・モーガン:
セントジェームズパレスSは例年見応えのある一戦になりますが、今年も同様です。ゴドルフィン陣営がルーリングコートを英ダービーから回避させたのは残念でしたが、その分、ここで夢の対決が実現することになりました。
英2000ギニー覇者のルーリングコート、愛2000ギニーを圧勝したフィールドオブゴールド、そして仏2000ギニーを制したバリードイル陣営の有力馬・アンリマティスが、同じ舞台で激突する構図です。
ルーリングコートはニューマーケットで力強い勝利を挙げましたが、その後、フィールドオブゴールドがカラで見せたパフォーマンスは実に鮮やかでした。ただ、ここではこの2頭の一騎打ちとはいかないでしょう。アンリマティスも含めて、3歳マイラーの勢力図を占う上で重要な一戦になります。

アンドリュー・ホーキンス:
G1の中でもセントジェームズパレスSが最も魅力的でスリリングな一戦になるでしょうが、私が個人的に注目しているのはコロネーションステークスです。というのも、先月の仏1000ギニーをめぐる物議を醸した結末に決着をつける場になるからです。
シーズパーフェクトが先着したにもかかわらず、審議の末ザリガナが勝利を手にしたあの一戦。シーズパーフェクト陣営の異議申し立ては棄却され、ザリガナの勝利が確定しました。シーズパーフェクトは仏オークスの方に出走しますが、今回はザリガナが、欧州の3歳牝馬戦線でどの位置にいるのか、はっきりする絶好の機会です。
1番人気と目された愛1000ギニーの勝ち馬レイクヴィクトリアが出走回避となり、ザリガナが本命視される可能性が有力。クールモアは仏1000ギニーで敗れたイグザクトリーとベッドタイムストーリーの2頭を送り込むようで、ベッドタイムストーリーは昨年のロイヤルアスコットでチェシャムSを圧勝しています
さらにニューマーケットでの英1000ギニーを制したゴドルフィンのデザートフラワーが、英オークス3着の後に距離短縮で参戦となれば、大混戦になることは間違いありません。
ジャック・ダウリング:
何より、ロイヤルアスコットが華々しく幕を開けるには、やはりクイーンアンSがふさわしい。今年の開幕戦は、5日間の幕開けを象徴するのにふさわしい一戦になりそうです。
ロザリオンがロッキンジSの復帰戦から一歩前進できるのか。そしてダンシングジェミナイはリードアーティストに雪辱できるのか。あるいは、4歳馬の伏兵が波乱を演出するのか。サルディニアンウォリアーやレイクフォレストあたりは、まさにその候補ですね。

今年、最高のストーリーとなりそうなのは?
アンドリュー・ホーキンス:
個人的に今年の『最高のストーリー』になり得ると思うのは、パトリック・ビアンコーヌ調教師の復帰劇です。彼がロイヤルアスコットに馬を送り込むのは、実に37年ぶり。最後の出走のハードウィックステークスでは、リバーメモリーズが5着、トリガーフィンガーが8着でした。
彼の代表馬、オールアロングやサガス、トリプティクらは6月のアスコットでは走らず、1990年には香港へと活動拠点を移しました。現在はアメリカを拠点にしていて、今回は2歳牝馬のG2・クイーンメアリーステークスにレニルで参戦します。
香港やケンタッキーでスキャンダルに見舞われたこともありましたが、彼は今も潔白を主張し続けています。そんな波乱のキャリアを歩んできたビアンコーヌ調教師が、40年越しでロイヤルアスコット初勝利を挙げるとなれば、驚くべき出来事となるでしょう。
デイヴィッド・モーガン:
注目の的といえば、日本馬の存在も忘れてはなりません。近年では海外G1でも実績を積んできていますが、実はロイヤルアスコットでは未だ勝利なし。出走した馬がわずか10頭とはいえ、その中にはシャフリヤール、ディアドラ、エイシンヒカリ、グランプリボスといった錚々たる名馬も含まれていました。
今年、サトノレーヴが勝てば、日本馬にとって初のロイヤルアスコット制覇となりますし、ジョアン・モレイラ騎手にとっても念願の初制覇。モレイラ騎手は10年前、香港の名馬エイブルフレンドで臨んだクイーンアンステークスで無念の敗戦を喫しました。今回の勝利は、その雪辱の意味も込められるでしょう。
さらに、今世界最高評価のスプリンター、香港のカーインライジングにとっても大きな後押しになりますよ。
ジャック・ダウリング:
クロサットンの名伯楽、ウィリー・マリンズ調教師が手がけ、ライアン・ムーア騎手が騎乗する『王室所有』の勝ち馬。これ以上に印象的な存在を開幕日に望むのは難しいでしょう。リーチングハイが、初日のアスコットSで2マイル半という過酷な距離を乗り越えてくれることを願っています。
この馬はシーザスターズ産駒で、母はあのエスティメイト。13年前、ロイヤルアスコットのG1・ゴールドカップを、女王陛下の所有馬として制した名牝です。それを思えば、この距離をこなす素地は十分にあるはずです。

ロイヤルアスコットで勝ちそうな2歳馬を1頭選ぶとすれば?
アンドリュー・ホーキンス:
私が惚れ込んだのは、トレアンモアのニューマーケットでの勝ちっぷりです。すでにコヴェントリーSに向けての有力候補として注目されていますが、デビュー前からチェシャムSを目標にしていたという話で、今のところその路線を踏襲するようです。
この馬はフランケル産駒の牡馬で、1歳馬セールで200万ユーロ(約3億円)という高額で取引された逸材。ここまで見てきた2歳馬の中でも、間違いなく屈指の楽しみな存在です。
デイヴィッド・モーガン:
私はゼレイナに注目しています。6月4日のノッティンガム競馬場でデビュー戦を快勝したばかりですが、ロイヤルアスコットまでの間隔が短いからといって、軽視すべきではありません。カール・バーク調教師にとっては、これは『想定内』のステップです。
一昨年はビューティフルダイヤモンドが同じノッティンガム競馬場で勝ってクイーンメアリーSで3着、昨年はレオヴァンニが同じ流れから22倍の人気薄で勝利を挙げました。
ゼレイナも同様に、ワスナンレーシング所有で、ゴフスUKブリーズアップセール出身。しかも陣営いわく『気性は激しいが能力は高い』。その気性さえコントロールできれば、今年の主役になってもおかしくありません。

ジャック・ダウリング:
今年の2歳戦、バーク厩舎の勝率は驚異の37%(6月11日時点)です。その中でもヴェネチアンサンはトップクラスかもしれません。スターマン産駒の牝馬で、あの早熟スプリンター、サーヨシの近親。1歳馬セールで約25万ポンド(約5,000万円)と高値で落札され、カーライル競馬場でのデビュー戦では1番人気に応えて順当勝ち。
アルバニーステークスを狙うなら、条件は揃っていると言えるでしょう。
今年、一番楽しみにしている馬は?
デイヴィッド・モーガン:
本当はエコノミクスをG1・プリンスオブウェールズSで見るのを楽しみにしていたんですが、筋肉の負傷で出走はお預けになってしまいました。ただ、その残念さを少し和らげてくれるのが、ロザリオンの復調です。
リチャード・ハノン厩舎のこの4歳馬は、実に333日ぶりの実戦となった先月のG1・ロッキンジSで3着と健闘。やや行きたがる面は見せたものの、本来の状態にはまだ遠い印象でした。今度のクイーンアンSでは完全に仕上がった状態で臨むはずで、『マイル王への一歩』としてふさわしい走りを見せてくれると期待しています。
アンドリュー・ホーキンス:
私が最も注目しているのはカンデラリです。これまでに一度しか敗れておらず、フランスから現れた次代のステイヤーとして大きな可能性を感じさせています。半姉のカンダーリヤもなかなかのスタミナ馬でしたが、3200m超のレースには向いていませんでした。
今年のゴールドカップは抜けた存在がいない中、成長力で言えばカンデラリに勝る馬はいません。実はフランス調教馬がゴールドカップを勝ったのは2005年のウエスターナーが最後。しかもあの時はアスコットが改修中でヨーク競馬場で行われた年でした。
アスコットでのフランス勢の勝利は、1975〜77年に3連覇したサガロまで遡らなければなりません。歴史の壁を破れるのか。とにかく、その挑戦を見るのが待ちきれません。
ジャック・ダウリング:
私は、前にデイヴィッドが話していた『今週のストーリー』に戻りますが、やはりサトノレーヴは今開催で最も胸が躍る存在だと思います。特に、香港でカーインライジングが見せたパフォーマンスを思えば、なおさらです。
もしカーインライジングがいなければ、この馬はすでにG1を3勝していたでしょう。そんなサトノレーヴが、土曜日のG1・クイーンエリザベス2世ステークスで、世界2番手のスプリンターとしてその地位を証明するチャンスです。

開催番組に一つ変更を加えるとしたら?
ジャック・ダウリング:
私は開催週全体での長距離戦の多さを見直してもいいと思います。マイル6ハロン(約2600m)が2レース、2マイル半(約4000m)が2レース、さらにクイーンアレクサンドラSは2マイル5ハロン超(約4350m)と、さすがに多すぎる印象です。
しかも、ロイヤルアスコットの翌週には、ニューカッスル競馬場のビッグイベント、ノーサンバーランドプレート(2マイル超)も控えている。カレンダーのバランスという意味でも、再考の余地があるのではないでしょうか。
デイヴィッド・モーガン:
逆に私は長距離戦が大好きなので、コモンウェルスカップを廃止したいですね。G1として悪いレースだとは思いませんし、3歳馬だけで争うスプリント路線があることも理解はできます。でも、それが『問題』なんです。
ロイヤルアスコットは『最高のもの』だけを並べる場であるべきで、G1でハードルの低い設定を用意するのは筋違い。そうであるならば、3歳馬も思い切って、5ハロンのキングチャールズ3世Sや6ハロンのクイーンエリザベス2世ジュビリーSといった、より純粋な頂上決戦に戻していくべきです。
アンドリュー・ホーキンス:
私なら、1日6レース制に戻しますね。ハンデ戦が増えすぎたせいで、全体の質が薄まっているように思います。もちろんそれぞれのハンデ戦には価値がありますが、最近新設されたレースの中には正直、その意義に疑問符が付くものもあります。
例えば1マイル2ハロンのゴールデンゲーツSは、3歳の期待馬をブリタニアSやキングジョージ5世Sといった他のハンデ戦から分散させてしまうし、さらに言えばハンプトンコートSやキングエドワード7世Sといった条件戦の質にも影響してくる。わざわざ全体の質を分散させる必要はないと思います。