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オーストラリアの賞金総額1000万豪ドル(約10億円)を誇る高額賞金レース、ゴールデンイーグル。日本馬が初めて勝利を挙げたあの日、本来騎乗する予定だったのは日本競馬のレジェンド、武豊騎手だった。

武騎手がシドニーで騎乗するのは、ほぼ30年ぶり。オーストラリアの競馬ファンにとっては滅多に見られる機会ではなく、楽しみの一つになるはずだった。

しかし、そのレースの数週間前に武騎手は負傷し、遠征できなくなった。その結果、手綱は地元のジョシュア・パー騎手に託され、オオバンブルマイは2023年のゴールデンイーグルを鮮やかに制した。

それ以来、ゴールデンイーグルは日本陣営の “手札” に入るレースになった。莫大な賞金に加え、将来のG1馬を生み出すポテンシャルは、主催者にとっても最高の売り文句となっている。南半球の4歳馬(北半球の3歳馬)に限定されるこのレースに、世界中から一流どころを呼び込みたいという狙いを後押ししている。

今年は、NHKマイルカップを制したパンジャタワーが “日出ずる国” を代表してゴールデンイーグルに挑む。ライバルはクリス・ウォーラー調教師が擁する無敗のスーパースター牝馬、オータムグローだ。

レース本番は、パンジャタワーの主戦である松山弘平騎手が、引き続きロイヤルランドウィック競馬場でも騎乗する予定だ。多くの関係者は、勝負どころでこのコンビが台頭してくると見ている。

パンジャタワーは現在、カンタベリーパーク競馬場の検疫施設で調整している。そこでは、同じくゴールデンイーグルを目標にする欧州からの遠征馬、イギリスのシーガルズイレブンとともに、コース本馬場へのアクセスも許されている。

ヒューゴ・パーマー厩舎のシーガルズイレブンは、イングランド・プレミアリーグの現役もしくは元選手たちが、共有馬主に名を連ねている競走馬として知られている。

オーストラリアのスプリング・カーニバル期間中、シドニーを拠点としている日本馬は、橋口慎介厩舎のパンジャタワーだけではない。帯同馬のイサナも開催前半のレースに出走する予定だ。

パンジャタワーの豪遠征をサポートしている市川雄介氏は、「今回の帯同馬は、松山騎手が本番前にコースを一度実際に走らせておけるようにと連れてきました」と説明する。

「帯同馬のイサナは、ゴールデンイーグルの前に現地の条件戦(ベンチマークレース)に使います。実戦で一度走らせておくことで、騎手がコースの感触を掴めるようにする目的です」

「大レースの前にジョッキーを乗りやすくするための、陣営独自の決断です」

市川氏は珍しいポジションの人物だ。騎手時代はオーストラリアで100勝以上を挙げ、現在は同国最大手の厩舎である、ウォーラー厩舎で調教助手として働いている。

スプリング・カーニバルの開催期間中、市川氏は遠征してきた日本馬陣営の現地滞在をサポートしており、現地での調整が円滑に進むよう、通訳も務めている。

ここまで7戦無敗、一度も敗北を喫したことがないオータムグローは、このレースでも前売りでも1番人気に推されている。前走はG1・エプソムハンデキャップを制し、キャリア初のG1制覇も挙げた。

「レースを見るのが楽しみですね」と市川氏は話す。「(シルバーイーグルを勝った)ラインバッカーも出ます。ファンとして強い馬たちが互いにぶつかり合うところを見たいので、とても楽しみにしています。地元勢もみんな強い馬だと思います」

Autumn Glow wins at Rosehill
AUTUMN GLOW, TYLER SCHILLER / Rosehill // 2024 /// Photo by Jeremy Ng

パンジャタワーの遠征プランには、ゴールデンイーグル当日より前にロイヤルランドウィック競馬場へ連れて行き、環境そのものに慣らすスクーリングも含まれている。

JRAの競馬場とは異なり、オーストラリアでは開催日にファンが待機所まで行き、出走予定馬を間近で見ることができる。つまりパンジャタワーは、ゴールデンイーグル本番前に、待機馬房で数百人単位の観客に取り囲まれる可能性があるということだ。

香港のスーパースター、カーインライジングも同様の経験を経ている。ジ・エベレストに臨む前にロイヤルランドウィック競馬場で試走を行ったが、慣れない環境に苦しみ、装鞍所ではイライラした様子を見せ、パドックでは汗をかいていた。

しかし、レース当日は、はるかに落ち着いた状態で臨むことに成功。その結果、世界最高賞金芝レースのジ・エベレストで見事な勝利を収めた。

「JRAの競馬場では馬房エリアをお客さんは見ることができません。でもオーストラリアでは、一般のお客さんたちが繋ぎ場で馬を見ることができます。パンジャタワーにとっては初めての経験になります」と、市川氏はスクーリングの意図を説明する。

「水曜日にスクーリング(競馬場の下見と慣らし)を行う予定です。当日のそのような状況にうまく対応して、良い走りを見せてくれればと思っています」

「オーナーの皆さまはオーストラリア競馬が大好きです。そしてパンジャタワーは、高額賞金の一戦に挑戦できるだけの力を兼ね備えています」

「パンジャタワーは万能型の馬です。先行することも、少し控えることもできますし、これまでの戦績が何よりの証拠です。G1レースも勝っていますし、1200mという適性からすると少し短い距離でも勝っています」

同じく日本からの遠征馬、シュトラウスもゴールデンイーグル当日に出走する予定。ジョアン・モレイラ騎手を背に、総賞金300万豪ドル(約3億円)のラッセルボールディングステークスに挑戦することになっている。

アダム・ペンギリー、ジャーナリスト。競馬を始めとする様々なスポーツで10年以上、速報ニュース、特集記事、コラム、分析、論説を執筆した実績を持つ。シドニー・モーニング・ヘラルドやイラワラ・マーキュリーなどの報道機関で勤務したほか、Sky RacingやSky Sports Radioのオンエアプレゼンターとしても活躍している。

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