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土曜日のブリーダーズカップ開催でG1・BCダートマイルに出走する、昨年のG1・ケンタッキーダービー馬・ミスティックダン。このレースは、“史上初のKYダービー馬の日本遠征” への第一歩となるかもしれない。

ケニー・マクピーク調教師は、オーナー陣が12月7日に中京競馬場で行われるG1・チャンピオンズカップへの遠征を決断する可能性に備え、JRAが遠征馬にどんな施設を提供しているのかを、すでに先回りして調査をしている。

1800mのチャンピオンズカップが現実的な選択肢かと問われると、マクピーク師はIdol Horseに次のように語った。

「ええ、(BCダートマイルとは)5週間空いていますからね……検討したいレースですし、面白いと思います。あるいはチャーチル(ダウンズ)のクラークステークスですね、そちらの出走資格もあります。とりあえずは保留して、まずは今週末を終えてから考えます」

「日本遠征に向けた細かい準備も進めています。すでに(馬場とコース形態を)チェックしましたし、どこで調教するかも把握しています。7月に日本へ行き、検疫施設と調教拠点、そして滞在先を見ることができました。滞在先と競馬場は別の都市のようですね」

「レースは左回りの1800mです。ですから、この馬にとっては慣れた条件設定ですね」

とはいえ、目下の焦点はBCダートマイルだ。ミスティックダンは先月下旬、チャーチルダウンズ競馬場で行われたG2・ルーカスクラシック(1800m)を制覇。勝利の勢いに乗って、デルマー競馬場での大一番に臨む。

前走は同馬にとって今季の2勝目、5月下旬には同じくチャーチルダウンズのG3・ブレイムステークスも勝っている。その合間には、芝初挑戦のG1・アーリントンミリオン、そしてG1・スティーブンフォスターステークスにて、それぞれ4着に入った。

「今のミスティックダンの走りには自信があります」とマクピーク師は語る。

「BCダートマイルの厄介な点は、レースの流れがトリッキーなことです。騎手の腕が問われます。内で立ち回れるか、外々に振られないか、ポジショニングとタイミングが重要です。ただ、彼には十分な末脚があり、その瞬発力こそがこのレースを勝つ大きなチャンスを与えてくれると思っています」

Mystik Dan wins the Kentucky Derby
MYSTIK DAN (R) / G1 Kentucky Derby // Churchill Downs /// 2024 //// Photo by Michael Reaves


今回、ミスティックダンの鞍上は、36歳のフランシスコ・アリエタ騎手が抜擢された。

ベネズエラ出身のアリエタは、これまでアメリカでのG1レース勝利経験が無く、ブリーダーズカップの騎乗経験も3回のみ。しかし、ニューメキシコ、アリゾナ、ミネソタで着実な実績を重ね、過去4年間はケンタッキーやアーカンソーの競馬場で確かな評価を築いてきた。

アリエタは冬・春シーズンにオークローンパーク競馬場の開催リーディングジョッキーとなり、同地のレイクウォシタステークスでは、初騎乗のミスティックダンでハナ差の2着。前走のG2・ルーカスクラシックでは、主戦のブライアン・ヘルナンデス騎手が負傷離脱中のため、再びコンビを結成した。

「私の騎手起用は “良い仕事をしたら継続騎乗” という主義です。彼は前走で素晴らしい騎乗をしてくれました」と、マクピーク師は鞍上起用の狙いを説明する。

「馬群に包まれて、負けてもおかしくない展開でしたが、フランシスコは進路を見つけ、勇敢にゴールへ導きました。そんな騎乗をしてくれたのに、その馬を知らない新しい誰かを乗せたいとは思いません。ミスティックダンが本当に良いレースをした2戦は、いずれもフランシスコとのコンビでした」

「春と秋のケンタッキー開催で “序列の最上位” というわけではありませんが、彼は非常に有能な若手です。素晴らしい仕事をしてくれると確信しています」

昨年の今頃、ミスティックダンは目立つ存在ではなかった。三冠戦線のライバルであるシエラレオーネ、フィアースネス、そしてフォーエバーヤングがブリーダーズカップクラシックのゴール前で鎬を削る一方で、この馬の目標は年末のサンタアニタで行われるG1・マリブステークスに置かれていた。

カリフォルニアへの道中が難航し、マクピーク師はミスティックダンを「少しリセットする」必要に迫られた。クリスマス休暇で飛行機が手配できず、長距離の陸送に。そのために重要な調教を1本逃す結果となり、すべてが「誤り」だったとマクピーク師は述べ、その責任は自分にあるとした。

結果、ミスティックダンはマリブSで6頭立ての最下位、さらに1カ月後、ガルフストリームパーク競馬場で行われたG1・ペガサスワールドカップでも11頭中の9着に敗れた。

「ガルフストリームは彼に合わなかったと思いますが、リセットして立て直しました。今は大丈夫です」

「調教では扱いが楽なタイプです。ミスティックダンが学校の生徒だとしたら、教室の真ん中に静かに座って、良い成績を取り、騒ぎを起こさず、淡々と勉強をする優等生タイプでしょう」

「一緒にいると、本当に素晴らしい馬だと分かります。性格は穏やかで、才能は明らか。私たちの仕事を楽にしてくれます」

そして、もし中京競馬場への長旅に出ることになれば、そうした資質はきっと助けになるはずだ。

「日本へ連れて行くことは、この馬の評価を高めるうえでも役に立つはずです。日本の競馬ファンは大勢、競馬場へと足を運んでくれるでしょう」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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