ジョアン・モレイラがまだサンパウロの騎手養成学校で苦戦する見習い騎手だったころ、香港や日本の大レースを勝つというような大きな夢は抱いていなかった。隣接するシダーデジャルディン競馬場で重賞を勝つこと。それが彼の夢だった。
そのモレイラが現地時間土曜日、サンパウロで行われた3つのG1レースを含む南米屈指のビッグレースデーで、G1・2勝を含む重賞4勝の大暴れ。この日はトータルで計5勝を挙げ、感動的な一日を迎えた。
その夜にはさらに嬉しい知らせが届いた。6月30日に終了した2024/25年シーズンの『モソロー賞』で、ブラジル最優秀騎手賞を受賞したのだ。
モレイラがここ2年、高額賞金のアジアやオーストラリアではなく、主にブラジルを拠点にしていることには疑問の声もある。世界の何処でも乗れる才能と大レースでの実績を備えながら、モレイラは現在もサンパウロジョッキークラブのライセンスの下で活動し、海外に遠征する際も同クラブ所属のままだ。
この日、最も高額だったG1勝利の賞金でも3万6000米ドル(530万円)。これは香港のクラス5(6万2500米ドル)よりも少なく、JRAの未勝利戦(560万円・3万8000米ドル)よりも低い水準だ。
しかしモレイラにとって、この日の勝利は何ものにも代えがたい価値を持つものだった。幼少期から成長を見守ってくれた家族や友人たち、そして自身を育ててくれた人々の前での勝利だったからだ。
「今日得た幸福感と喜びは、お金では買えないものです。本当にかけがえのない一日でした。馬たちを勝たせることができて、本当に幸せです。最高の一日でした」とモレイラはIdol Horseに語る。
「1日に4つの重賞を勝ったのは久しぶりですし、G1は3つのうち2つを勝てました。どちらもこれまで勝ったことのないレースでしたので、非常に大きな意味があります」
この日のハイライトとなったのは、昨年のG1・ブラジル大賞を制したオバタイェに騎乗した、G1・マシアスマシリン大賞(2000m、通称・ABCPCCクラシカ)での勝利だ。
「ABCPCCは『ブラジル生産者馬主協会』のことです。名前が示す通り、ブラジル版の『ブリーダーズカップ』のようなものですね」とモレイラ。「ここのレースとしては賞金も良く、雰囲気も素晴らしかったです。長年付き合いのある多くの人々が来ていて、一緒に喜びを分かち合えました」
「オバタイェは昨年のブラジル大賞以来、数戦しか出走していません。昨シーズンは厳しい戦いぶりで、休養を挟み、ようやく本来の力を取り戻しつつあります」
「この馬は本当に闘志がある馬です。ここ数週間は少し問題も抱えていましたが、それもまた優れた馬にありがちなことですね」
オバタイェは今後、南米最高峰レースであるG1・ラテンアメリカ大賞を目指す。このレースは毎年開催国が変わる伝統の一戦で、今年は10月18日にリオデジャネイロのガベア競馬場で行われる。ブラジルでの開催は9年ぶりとなる。
モレイラがこの日もう1つ制したG1は、オルドーニ厩舎のスペシャルドイグアスに騎乗したG1・マルガリーダポラックララ大賞(1600m)。無敗の3歳牝馬はこれで5戦5勝とした。
さらに、3歳牡馬路線のG1・ジョアンアデェマールデアルメイダプラド大賞(1600m)では、スタードイグアスに騎乗したが、勝ち馬オデリッチのハナ差2着と惜敗し、G1・3勝目にはあと一歩届かなかった。
それでもこの日、リステッド競走のクラシコプレジデンテフリオメスキータ(2400m)をティリオンで、G3・ジェネラルコウトデマガリャエス大賞(3218m)をリックザグレートで勝利。さらにケルスドイグアスで5勝目を挙げ、1日5勝を達成した。
モレイラはこれで2025年にG1・5勝。ここシダーデジャルディン競馬場での2勝に加え、日本での高松宮記念(サトノレーヴ)、桜花賞(エンブロイダリー)、皐月賞(ミュージアムマイル)を制している。さらに昨年9月には、オーストラリアのG1・アンダーウッドステークスをバッカルーで勝利した実績もある。
こうした国際舞台での活躍が評価され、モレイラはABCPCC会員や地元メディア、競馬関係者の投票により、史上最多となる5度目の『モソロー賞』を受賞した。表彰式は土曜夜に行われ、賞が授与された。
「この賞は主に、この1年の海外での実績に対して贈られたものです」とモレイラは語る。
「ブラジルの旗を背負って海外で競馬界にインパクトを与えたことが評価されたのでしょう。もちろん嬉しいですし、海外での努力が認められた証です。この賞を誇りに思いますし、支えてくれた皆さんに感謝しています」