シンガポール競馬が180年の歴史に幕を下ろし、クランジの広大なトレーニング施設から最後の競走馬たちが移動したあとも、ジェリン・セオウ騎手の活動は止まることがなかった。
2024年10月の競馬開催終了前に、シンガポールで女性初の見習騎手チャンピオンとなったセオウ騎手は、現在マレーシアに拠点を移して騎乗を続けている。
それでも心の一部は今もクランジに残っており、競馬場に住み着いていた多くの捨て猫たちすべてに『新しい家』を見つけることを誓っている。
「これまでに48匹の家を見つけました。今もなお、あと31匹の行き先を探しているところです」と、セオウ騎手はセランゴールで日曜開催のレースに騎乗する前にIdol Horseの取材に答えた。
「クランジ競馬場全体では、100匹以上の猫がいたと見ています。敷地は130ヘクタール以上もありますからね」
クランジ競馬場の猫たちに「ふさわしい家」を見つけ出すため、セオウ騎手はInstagramアカウント『@kranjicats』を開設。そこでは、譲渡先を探している猫たちのプロフィールを掲載し、幅広い人々に情報を届けている。
「厩舎から人も馬もいなくなって、施設は放置されました。するとハトが大量に集まってきて、猫たちの餌まで食べてしまうんです」とセオウ騎手は語る。「猫たちはどんどん元気がなくなって、神経質にもなっていました。彼らは馬や人がいなくなったことを理解しているんです」

比較的、人馴れしている猫たちを捕まえるのは簡単だったが、警戒心の強い猫たちを保護するには、セオウ騎手と元厩舎スタッフたちの協力が不可欠だった。
「行政に引き渡したくはなかったんです。そうなると、正当な理由もなく安楽死させられてしまう可能性がありますから」
「だから、私たち自身で猫たちを捕まえて、新しい家を見つけてあげようと決めました。野犬に襲われたり、餌が足りなかったりとリスクが大きい状況でした。1匹ずつ捕まえるのは簡単ではなかったし、警戒心の強い子たちを保護してから、時間をかけて人に慣らしていくのも大変でした」
厩舎猫は世界中の競馬施設において、ネズミなどの駆除だけでなく、厩務員や馬たちの『心の癒やし』としても大切な存在だ。
「猫は厩舎にとって欠かせない存在ですし、馬と一緒に働く人間にとっても、猫たちは日常の一部なんです」
「私自身も猫たちが大好きです。でも、全員を自宅に連れて帰ることはできませんでした。すでに自分の猫たちの世話で手いっぱいだったんです。それは他の厩舎スタッフも同じで、本当は引き取りたかったけれどできなかった」
「だからこそ、シンガポールの人たちに『この子たちの存在』を知ってもらって、愛情をもって迎えてくれる人を見つけたいと思いました。多くの子たちが今は新しい家で落ち着いてくれて、本当に嬉しいです。あとは残り31匹です」

セオウ騎手は現在、見習騎手としての最後の年を迎えている。2024年半ばにマレーシアへと活動拠点を移してからは12勝を挙げており、2025年にはここまで9勝、勝率11.39%という安定した成績を残している。マラヤン競馬協会(MRA)の見習騎手タイトル争いにも加わっている。
「今年が終われば、見習いを終えてプロの騎手になります。その先にどんな冒険が待っているか、今から楽しみです」
現在、シンガポールで『動物福祉ケア』の学位取得に向けた勉強も並行して行っており、「まだ選択肢を探っている段階ですが、学業も続けたいし、騎乗も続けたい。いつか海外で騎乗するのも視野に入れています」と、前向きな姿勢を見せた。