外国人記者が見た日本ダービーのアナザーストーリー 新星とベテランが巻き起こした「アウトサイダー」ダノンデサイルの波乱

ダノンデサイルが優勝した第91回東京優駿(日本ダービー)。対照的なキャリアを持つ騎手と調教師のコンビを波乱を巻き起こしたが、観客の大歓声が鳴り止むことはなかった

外国人記者が見た日本ダービーのアナザーストーリー 新星とベテランが巻き起こした「アウトサイダー」ダノンデサイルの波乱

ダノンデサイルが優勝した第91回東京優駿(日本ダービー)。対照的なキャリアを持つ騎手と調教師のコンビを波乱を巻き起こしたが、観客の大歓声が鳴り止むことはなかった

単勝オッズは46.6倍。大波乱のダービー馬が誕生したとき、観客は大歓声で出迎えた。こんな国が、世界中のどこにあるだろうか?

ダービーデーの東京競馬場では、9番人気の大穴が大本命を2着に退けて優勝するという、波乱の決着を迎えていた。しかし、若く熱気に満ちた観客たちは、大歓声と温かい声援で勝ち馬を祝福した。それどころか、良いところなしに終わった人気馬に対するブーイングも見かけなかった。

サウジアラビア、ドバイ、カタールのような国では、波乱を巻き起こした「アウトサイダー」も拍手喝采を浴びることができるかもしれない。馬券発売が存在しないため、観客はオッズを気にせず楽しめるためだ。

馬券好きが多い香港や、酔っ払った客が集まるオーストラリアのカーニバル開催では、人気を裏切った2着馬の騎手に罵詈雑言が浴びせられるだろう。

ラチ沿い最前列の観客からはヤジが飛び、SNSでは「アームチェアジョッキー(ソファの上で騎手気取りの皆様)」から非難轟々となっても不思議ではない。

しかし、第91回東京優駿はどうだ。この温かい声援が送られる光景は、「スポーツとしての競馬」と「ギャンブルとしての競馬」が両立することを証明するようなものだった。愛するスポーツの将来を危惧する海外からのファンにとっても、前向きな気持ちになれる体験となった。

Norihiro Yokoyama and Danon Decile after winning the 2024 Tokyo Yushun
NORIHIRO YOKOYAMA, DANON DECILE / G1 Tokyo Yushun // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

戸崎圭太騎手のジャスティンミラノがベテラン横山典弘騎手のダノンデサイルに追いすがるとき、7万5000人の観客はまるで15万0000人いるかのような大歓声を上げていた。

予想外の結果に最初は動揺したが、彼らはすぐさまスポーツとしての視点に切り替えた。この勝利は、横山典弘騎手の巧みな手綱さばきと、優秀な若手として知られる安田翔伍調教師の努力の賜物だということを、知識豊富な観客は既に知っていた。

騎手の横山典弘はこれまでにG1レースを28勝、ダービーは3勝しており、通算2946勝という数字は武豊騎手に次ぐ歴代2位の記録である。彼はレジェンドと言える存在だが、最後に中央競馬のG1を勝ってから7年の時が過ぎており、最近は2人の優秀な騎手の父親として知られるようになっていた。31歳の和生騎手と、昨年の騎手リーディングで川田将雅騎手とクリストフ・ルメール騎手に次ぐ3位に入った25歳の新星・武史騎手だ。

Norihiro Yokoyama celebrates after winning the Tokyo Yushun aboard Danon Decile
NORIHIRO YOKOYAMA / G1 Tokyo Yushun // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

4500勝を超えた武豊騎手の通算勝利数に追いつくことは難しいかもしれないが、この勝利は55歳の彼に別の挑戦状を突きつけるものだった。JRAのG1最年長勝利記録で、新記録を打ち立てたのであった。

安田翔伍調教師にとっては、父の影から抜け出すチャンスでもあった。父の安田隆行は調教師として967勝を挙げ、名種牡馬としても知られる無敵のスプリンター、ロードカナロアを管理したことでも有名だった。

この日曜日まで、安田翔伍は香港スプリントを連覇したロードカナロアを厩舎の調教助手として支えていたことが一番有名だっただろう。シャティンでの猛烈な追い切りは伝説になっている。

41歳の若さで厩舎開業7年目を迎えた安田翔伍は、晴れてダービートレーナーとなった。「この勝利が自分のキャリアにとって、何を意味するかはまだ分かりません」と彼はレース後に答えた。「実際、馬がゴールを超えた瞬間は喜びの感情は湧きませんでした。双眼鏡で馬を見て、動きは大丈夫かどうか確認していました。イン側で粘っていたので、勝利を確信できたのは本当に最後の最後でした」

Horse trainer Shogo Yasuda
SHOGO YASUDA / G1 Tokyo Yushun // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

翔伍は集中して冷静さを保ちながら見ていたかもしれないが、彼の兄で調教助手の景一朗が代わりに喜びを爆発させていた。ダノンデサイルと横山典弘騎手を出迎えようとコースに向かう時、彼は涙を堪えきれなかった。

安田兄弟はこの先何年にも渡って語り継がれる、傑作を世に送り出した。ダノンデサイルが最後に出走したのは、4ヶ月以上前の1月14日にG3・京成杯を二桁オッズで勝ったときだった。

3ヶ月以上の休み明けでビッグレースに挑むケースは日本では珍しくないが、今回は予想外の休み明けだった。前走、皐月賞に出走する予定だったが、スタート直前にゲート裏で競走除外となった。鞍上の横山典弘騎手が歩様に違和感を覚え、獣医師に申告したのだ。重要な一冠目でアクシデントが起きたことを考えれば、調教師が馬の動きを気にしていたのも無理はない。

安田翔伍はまだ自身の偉業に対する実感が湧いていないかもしれないが、次への準備は万端の様子だ。

彼は「全ては自分次第です」と語る。「ダービーを勝ったことによって新たなチャンスが生まれるかもしれませんし、オーナーがより良い馬を任せてくれる機会が増えるかもしれない。そのチャンスを最大限活かしたいと思います」


マイケル・コックス、Idol Horseの編集長。オーストラリアのニューカッスルやハンターバレー地域でハーネスレース(繋駕速歩競走)に携わる一家に生まれ、競馬記者として19年以上の活動経験を持っている。香港競馬の取材に定評があり、これまで寄稿したメディアにはサウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ジ・エイジ、ヘラルド・サン、AAP通信、アジアン・レーシング・レポート、イラワラ・マーキュリーなどが含まれる。

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