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アレクシ・バデル騎手は長年、香港競馬というジェットコースターに乗り続けてきた。だからこそ、すべてが永遠に続くわけではないことを誰よりも理解している。高揚の瞬間があれば、その直後に奈落の底へ突き落とされることもあるのだ。

絶対王者のザック・パートンを除くすべての外国人騎手にとって、香港での日々は歓喜と拒絶の繰り返しである。そのパートン騎手でさえ、今の地位に至るまでには数々の試練を乗り越えてきた。

日曜日、バデルはシーズン序盤で3勝を挙げ、誇らしげに家路についた。このとき「あっという間に変わりますから」と冗談めかして語ったのは、シーズン最初の3開催で4勝という好成績を収めた彼自身が、浮き沈みを誰よりも経験してきたからにほかならない。

現在、バデルは2025/26年シーズンを好スタートで迎え、いきなり好成績を残している。彼は、この好調の背景に、オフシーズン中の日本遠征での成功があると語る。

日本では滞在初週末にいきなり3勝を挙げ、翌週には単勝28.8倍の人気薄だったマリオロードで中京競馬場のリステッドを制覇。最終的な勝率は17%近くを残し、トータルで12勝をマークした。

Alexis Badel wins at Chukyo
ALEXIS BADEL, MARIO ROAD / Listed Meitetsu Hai // Chukyo /// 2025 //// Photo by @okaomi_y12m

だが、成果は数字だけではない。家族とともに穏やかな日本の環境で過ごした時間が、彼を心身ともにリフレッシュさせたのだ。

「精神的にも肉体的にも素晴らしい影響がありました」と、バデルは短期免許での来日生活を振り返る。「日本では家族と素敵な時間を過ごし、競馬でも結果を出すことができました」

アントワーヌ・アムラン騎手が香港を去った今、バデルはただ一人残るフランス人騎手となった。南半球出身の騎手が多数を占める香港競馬の騎手だが、ジェラルド・モッセ、オリビエ・ドゥルーズ、エリック・サンマルタン、マキシム・ギュイヨンといったフランス人ジョッキーも華を添えてきた。バデルもその誇り高き伝統を継承している一人だ。

日曜日のクラス5戦での騎乗は、香港競馬ならではの熾烈なポジション争いの中で「待つこと」の重要性を示した好例だった。マイフライングエンジェルに騎乗したバデルは、内枠を生かして無理に前を取りに行かず、馬に息を入れリズムを整え、そしてやる気を取り戻させた上で一気に差し切り。こうして、19戦未勝利の騎乗馬に初勝利をもたらした。

「いい枠を引いたので、まずはスムーズなスタートを切ることに集中しましたが、その後は馬が気分良く走れることを優先しました。今日はスムーズな展開と、馬の好調さに恵まれた結果です」


35歳となり、フルタイム参戦6年目を迎えたバデルは、香港通算300勝の大台まであと一歩に迫っている。日曜日の3勝で通算278勝としたが、今シーズンはリーディング上位返り咲きに向けた正念場となる。

2020/21年シーズン、バデルは58勝を挙げ、リーディング5位タイで終えた。翌シーズン、ウェリントンでG1・チェアマンズスプリントプライズを連覇したが、G1・香港スプリントのわずか3週間前に落馬事故で鎖骨を骨折。当日は腕を支えたまま、ライアン・ムーア騎手がウェリントンを勝利に導く姿を見守るしかなかった。

それから数ヶ月後、バデルは香港ダービーでヴォイッジバブルに騎乗し、香港競馬史に残る名騎乗を披露して頂点に返り咲いた。しかし、最終的にはその鞍上の座も明け渡すこととなった。

ヴォイッジバブルでのダービー勝利は、外枠から後方に下げて中盤から一気にまくり切るという圧巻の内容だった。まさに香港競馬の歴史に残る巧みな騎乗として、長く語り継がれていくことだろう。

だが、バデルは過去の栄光に浸ることも、将来の目標を声高に語ることもしない。クラス5のハンデ戦でもG1でも、与えられた馬に最高のチャンスを与えたいだけだと語る。

「全力で結果を出すことに集中して、それが達成できればシーズン終了時には満足できるはずです。僕はただ、目の前の騎乗を完璧に遂行することだけに集中しています」

マイケル・コックス、Idol Horseの編集長。オーストラリアのニューカッスルやハンターバレー地域でハーネスレース(繋駕速歩競走)に携わる一家に生まれ、競馬記者として19年以上の活動経験を持っている。香港競馬の取材に定評があり、これまで寄稿したメディアにはサウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ジ・エイジ、ヘラルド・サン、AAP通信、アジアン・レーシング・レポート、イラワラ・マーキュリーなどが含まれる。

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