矢作芳人調教師が、3歳馬のシンエンペラーと共に世界の舞台に挑む。9月15日のG1・アイリッシュチャンピオンステークスに向けて調整中であり、このレースがG1・凱旋門賞への突破口に繋がることを期待している。
「いつも、3歳馬で凱旋門賞に挑戦したいと思ってきました。そうすれば、また来年もチャンスがあり、今年の経験が活きます。将来、さらなるチャンスに向けてより強くなれると思います」
シンエンペラーは、長時間のフライトを経て、8月27日にフランスのシャンティイに到着した。馬の状態について、矢作調教師は「少し疲れた様子を見せたが問題ない」と説明している。アイリッシュチャンピオンSの前に2回の追い切りを計画しており、火曜日に現地での初めての追い切りを行う予定だ。
矢作調教師にとっての目標は、このシユーニ産駒の牡馬で、新たな歴史を創ることだ。
2年前、フランスのアルカナ・イヤリングセールにて藤田晋氏の代理人として210万ユーロでこの栗毛馬を落札した直後、矢作調教師はいつの日か全兄のソットサスのように『凱旋門賞』を勝ち取ってほしいと話していた。
これまで、日本調教馬がレパーズタウンやロンシャンを代表するビッグレースで優勝したことは無い。
「凱旋門賞は最高峰のレースです」と矢作調教師は語る。
2021年、デルマーで日本馬初のブリーダーズカップ優勝。ドバイ、サウジアラビア、香港、オーストラリアで快挙を達成。そして、今年前半のG1・ケンタッキーダービーではフォーエバーヤングで僅差の3着。数々の金字塔を打ち立ててきた彼が、達成したい目標として名を挙げるレースだ。
「シンエンペラーのメインターゲットは凱旋門賞です。なので、シャンティイを拠点にして、レースの際はアイルランドに輸送することになります」
札幌コンベンションセンターでIdol Horseの取材に応じた矢作調教師は、遠征プランについてこう説明してくれた。
アジア競馬会議での講演では、海外遠征のターゲットを決める際の重要な2つの要素についても語っていた。
「私たちの馬を招待しようとする場合、来てほしいという勧誘の情熱は間違いなく遠征を決断する理由になります。海外遠征の費用は原則として馬主負担のため、招待される場合はこの費用も重要な要素になります。コロナ禍以降、輸送費が高騰しているため、費用が高額な場合は補助金も決め手になってきます」
今年のアイリッシュチャンピオンSでは、日本馬は登録料が免除された。もし、登録料を支払う場合、5月29日までの段階なら4000ユーロ、7月31日なら22500ユーロ、9月10日の最終追加登録では75000ユーロが必要となってくる。
「アイルランドの関係者は2, 3年前に連絡をくれましたが、今年から登録料が不要となりました。遠征を決断した大きな理由でもありますが、この舞台でどれだけ通用するか見極める良い機会でもあります」
「アイリッシュチャンピオンSはヨーロッパを代表するレースです。ダービー3着馬のシンエンペラーを、ヨーロッパのトップホースたちと戦わせてみたかったのです」
過去34回のアイリッシュチャンピオンS勝ち馬のうち、18頭は3歳馬だ。過去3年も全て3歳馬が勝っている。スワーヴダンサー(1991年)、シーザスターズ(2008年)、ゴールデンホーン(2015年)は凱旋門賞との連覇も達成している。
シンエンペラーは2歳時にG3・ラジオNIKKEI杯京都2歳ステークスを制し、前走は5月に行われた2400mのG1、日本ダービーで3着に入っている。ダービーでは序盤は頭を上げる場面を見せたものの、次第に落ち着きを取り戻し、勝ち馬のダノンデサイルから3馬身1/4差の3着に食い込んだ。
「ちょっとセンシティブな面があり、ダービーでは熱くなりすぎましたが、その日は観客が多かったのもあると思います。全体的にはとても扱いやすい馬なので、気性については心配ありません」
一方、同じく藤田晋氏が所有するフォーエバーヤングについては、11月2日にカリフォルニアで開催されるG1・ブリーダーズカップクラシックの前に、前哨戦としてジャパンダートクラシックを使う予定だ。ヨーロッパのスター牡馬、シティオブトロイとの対戦も楽しみにしていると、矢作調教師は明かした。
「フォーエバーヤングは凱旋門賞の週に出走しますが、フランスに飛ぶことになるので、見れないかもしれません」
「シンエンペラーがシティオブトロイと対戦すると予想していました。フォーエバーヤングがBCクラシックで彼と対戦するのは嬉しいですね」