Aa Aa Aa

香港のチャンピオンホース、ロマンチックウォリアーはJRA賞の最優秀マイラー部門の有力候補に浮上しており、史上初の外国馬による受賞が実現する可能性がある。そして、それに相応しい馬だと言える。JRA賞の各部門賞は1月27日の授賞式に先立ち、1月7日に投票結果の発表が行われる予定だ。

1987年に創設されたJRA賞は、年度代表馬など複数部門で構成されているが、外国調教馬が表彰されたことは過去を遡っても一度も存在しない。国内のどの強豪馬にも勝る存在であると、記者を中心に構成される300名ほどの選考委員会を納得させる必要があるからだ。

6月のG1・安田記念で見事な走りを見せたロマンチックウォリアーは、その候補として有力視されている。この最優秀マイラーという部門だが、これまではスプリントとマイルを統合した最優秀短距離馬として表彰されており、ソングラインが選出された2023年からタイトルが独立した。

JRA賞は中央競馬で出走したJRA所属馬以外にも門戸が開かれており、JRAで出走した国外からの遠征馬、地方競馬との交流競走に出走したJRA馬、海外で出走したJRA馬も投票対象となる。香港の王者が候補に挙がるのも、そのような背景が理由だ。

だが、歴史は必ずしも味方というわけではない。1989年のジャパンカップを制したホーリックスは同年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬で4票が投じられているが、メアジードーツ、ゴールデンフェザント、スノーフェアリー、エアロヴェロシティといった外国馬は1票止まりだった。

それでもなお、ロマンチックウォリアーが受賞に値する根拠は挙げることができる。安田記念ではナミュールを半馬身差で退け、3着に敗れたソウルラッシュは後にG1・マイルCSを勝利。このマイルCSはヨーロッパのスターマイラー、チャリンを5着に退けての優勝だった。ソウルラッシュは12月のG1・香港マイルでは2着に健闘。ロマンチックウォリアーほどではないものの、強豪香港馬のヴォイッジバブルに肉薄する好成績を残した。

一方、ロマンチックウォリアーは同じ日に行われた2000mのG1・香港カップでリバティアイランドを撃破。このレース新記録の3連覇を達成すると共に、5戦5勝で年間無敗、世界歴代賞金王に浮上という快挙を成し遂げた。

Romantic Warrior winning the Hong Kong Cup
ROMANTIC WARRIOR, JAMES McDONALD / G1 Hong Kong Cup // Sha Tin /// 2022 //// Photo by Shuhei Okada

もちろん、ロマンチックウォリアーは外国馬であり、たった1戦のみ走った馬は不適格と見做す識者もいることだろう。ソウルラッシュはマイル戦を中心に年間5レース、そのうち4レースは日本国内で出走し、G1とG2をそれぞれ1勝、それ以外の3レースも全て3着以内という安定した成績を残した。

日本が世界を代表する競馬大国として台頭しつつある今、日本の芝レースで勝ったという事実は、それだけでタイトルレースに加わるべき理由となる。それに加えて、日本の現役馬を代表するマイラーを破ったとなれば、それは間違いなく『最優秀』に相当する実績だと言えるだろう。

さらに、その1勝だけが検討材料だとしても、国際競馬統括機関連盟(IFHA)のワールドベストレースホースランキング(WBRR)で表彰されるには相応しい実績である。

3月のG1・ドバイワールドカップで圧巻の走りを披露したドバイ調教馬のローレルリバーは、このパフォーマンスが評価されて128のレーティングを獲得。3戦2勝のシーズンを締め括る最終戦での素晴らしい走りにより、WBRRの最有力候補となっている。

しかし、ローレルリバーがロマンチックウォリアーよりも強い、より優れたチャンピオンだと断言できる人がどれだけいるのかは疑わしいところだ。ロマンチックウォリアーのレーティングは2024年のピーク時で122(香港カップ前の11月10日更新時点)に留まり、数字上では世界トップ10の圏外として扱われていた。

独自の評価基準を設けているいくつかの評価機関ではロマンチックウォリアーのレーティングを引き上げているため、WBRRの表彰式がロンドンで行われる1月21日よりも前に、IFHAも『公式』のレーティングを引き上げる可能性も否めない。ローレルリバーと同等か、それ以上の数値となる可能性も残されている。

Laurel River romped home in the Dubai World Cup
LAUREL RIVER, TADHG O’SHEA / G1 Dubai World Cup // Meydan /// 2024 //// Photo supplied by Dubai Racing Club

WBRRは絶対的かつ定量化された『世界最強馬』というコンセプトを元に作られているが、実際には『世界最高のパフォーマンス』が評価の指標となっており、ブランドの変更や制度変更が必要であると言わざるを得ない。委員会や識者の投票によって、総合的な『世界最強』を決めるという道が残されていても良いだろう。

ロマンチックウォリアーの2024年の活躍はまさに際立っており、この道程は2023年10月、オーストラリアでのG1・コックスプレート制覇から始まった。ムーニーバレーでの快挙を起点として、14ヶ月に渡って無敗の7連勝を達成。『世界最強』を議論するならば、これらは見逃せない材料だ。

そして、この背景や積み重ねてきた実績は、JRA賞の最優秀マイラーを投票する上でも少なからず影響してくるはずだ。

実際、タイトルのお墨付きが得られるかどうかに関わらず、ロマンチックウォリアーは2024年に日本のマイル重賞を制した馬の中で最強の存在であることに違いはない。投票結果に関わらず、それは間違いないだろう。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

デイヴィッド・モーガンの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録