スポーツの世界で1週間が長いのなら、2か月はほとんど永遠に等しい。
1月の香港クラシックマイルを前に、ザック・パートン騎手はサゲイシャスライフを選んだ。その時点では勢いがあり、4歳クラシックシリーズ初戦だけでなく、香港クラシックカップ、そして2000mの香港ダービーまで戦えるだけの実績を備えた馬だと見ていた。
だが、その読みは外れた。そして、そう考えていたのは彼だけではなかった。
いま振り返れば分かることだが、その判断を下した時点では誰にも先は分からない。当時のパートンには、後に香港クラシックマイルを制するリトルパラダイスを含め、5、6頭の有力なダービー候補がいた。
だが今、ダービーの出走馬発表を目前に控え、残された選択肢はごく限られている。
Idol Horseの取材に、パートンは「現時点では、まだ騎乗馬がいません。木曜日にメンバーが発表されるので、そこでどうなるかですね」と率直に語った。
香港で8度のリーディングに輝き、今季も2位に45勝差をつけて首位を走る男。香港競馬史上最多勝記録を持ち、香港でのG1勝利数も誰より多い。すでに香港ダービーも2勝している。そのパートンが今、香港ダービーの騎乗馬を確保できていない。
「自分がこんな状況にいるのは、少し不思議な感じです。でも、いろいろな事情があって、自分が乗りたい馬にはすでに騎手が決まっていた。だからといって、ただ空いている馬に乗るつもりもありません」
もっとも、パートンにとって希望がまったくないわけではない。これまでのダービー2勝はいずれも、本番間近で騎乗依頼が舞い込んできたケースだった。
11年前の香港ダービー制覇は、ダグラス・ホワイト騎手がジャイアントトレジャーを選んだことで、ルガーの騎乗依頼が回ってきた。
香港移籍後のデビュー戦勝利からわずか3週間後の馬、マッシヴソヴリンにパートンが騎乗して香港ダービーを制したのは、今から2年前の話だ。ただ、今回のケースはかなり際どい。香港ダービーまで残り1週間半しかない。
「確かに、あのとき自分でその決断をしましたし、同じ情報がそろっていたなら、たぶんもう一度同じ判断をすると思います。問題は、サゲイシャスライフはその後が上手く行かなかったんです」
「ここ2戦は、レース当日に本当に崩れてしまいました。落ち着けず、チャカついて、行きたがってしまった。自分自身でチャンスを逃してしてしまった感じです。それが残念でした」
「時が経つごとに馬は良くなることもあれば、逆にうまくいかなくなることもあります。今回は、自分が思っていたようにはいきませんでした」
ピエール・ン厩舎のサゲイシャスライフは、海外で実戦を積んでから香港に導入された移籍馬だ。ブラジル時代はG1・ダービーパウリスタ大賞を含むトップレベルの実績を残し、2400mの距離でも勝っていた。
香港移籍後は最初の3戦で2勝を挙げたが、香港クラシックマイルは4着、香港クラシックカップは14頭立ての最下位に敗れた。クラシックマイル前には喉鳴りの懸念が指摘され、その呼吸面の不安はクラシックカップで表面化した。
ダービーへ向けた過程で早い段階から期待を集めながら、いざクラシックシリーズが始まると失速する馬は、サゲイシャスライフが初めてではない。もちろん、最後でもない。
「気性面では、調整が進むにつれて少しずつ落ち着いて、自分で競馬をしやすくなる馬もいます。一方で、逆に少しずつ悪い面を見せ始めて、ピークが来るのが早すぎたのかなという馬もいます」
パートンは、今年は「例年とは少し違う年」だと見る。香港クラシックマイル勝ち馬のリトルパラダイスが香港クラシックカップで崩れ、一方で伏兵ストーミーグローヴが意外なローテーションで参戦し、勝ち切った。世代全体に抜けた存在は見当たらず、この時点では層も薄く映る。
「香港クラシックマイルまでは、本当に楽しみでした。有力馬がたくさんいましたからね。でも、クラシックマイルが終わってからは、すべてが崩れてしまった感じです。乗りたい馬は何頭かいますが、乗れなかった。それが今の状況です」
香港競馬特有の駆け引きにおいては達人とも言えるパートンだが、今回はその力学が裏目に出たようだ。本命候補に乗れるかどうか返答を待っている間に、他の騎乗依頼を逃し、気づけば選べるようでいて、実際にはほとんど選べない状況に追い込まれていた。
「返答をもらって改めて戻った時には、当然ながら先方はすでに騎手を決めていました。少し混乱した形になってしまいましたね」

ただ、香港ダービーでの苦戦は、オーストラリア出身の名手にとって今季全体を見れば、ほんの小さな誤算にすぎない。シーズン全体としては、今季も素晴らしい成績を残す準備が整いつつある。
「シーズン開幕前に、ここまでの成績になると言われていたら、もちろん喜んで受け入れていたでしょう」
「序盤からすごくいい形で入れて、早い段階でたくさん勝てましたし、ジ・エベレストも勝てた。カーインライジングもあの馬らしい走りを続けていますし、12月の香港国際競走でも4競走のうち2つを勝てました」
「全体として見れば、今季もここまでは非常に良いシーズンです。ただ、これからは良い若馬を見つけて、できるだけいい形でシーズンを締めくくりたいですね」
「ドバイの件は残念です。ファストネットワークに乗るのをとても楽しみにしていましたが、どうも実現しそうにありません」
3月28日に予定されているドバイワールドカップデー開催、G1・アルクオーツスプリントへの出否は、まだ最終決定ではない。
しかし、ファストネットワークが日曜にクラス1の条件戦を勝った後も中東情勢は緊迫したままで、パートンはドバイ遠征の実現は難しいと見ている。
「メイダンの直線コースは、あの馬にすごく合っていたと思います。今は本当に状態がいいので、それだけに残念です。でも、仕方ありません」
そして、香港ダービーについてもパートンは同じように受け止めている。何か予想外の動きがあり、土壇場で有力馬の騎乗依頼が舞い込む可能性はまだある。
それでも現時点では、1月にサゲイシャスライフを選んだ判断の余波によって、パートンは香港ダービー戦線で蚊帳の外に置かれている。それが今現在の状況だ。
