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ブレット・クロフォード調教師が香港に移籍、満を持して新たな一歩へ

南アフリカのブレット・クロフォード調教師が来シーズンに向けて香港へ移籍する。国際的な舞台で自身を試す機会を楽しみにしているようだ。

ブレット・クロフォード調教師が香港に移籍、満を持して新たな一歩へ

南アフリカのブレット・クロフォード調教師が来シーズンに向けて香港へ移籍する。国際的な舞台で自身を試す機会を楽しみにしているようだ。

ブレット・クロフォード調教師は、香港ジョッキークラブ(HKJC)の調教師リストに加わる新たな調教師として、今シーズン終了後の7月中旬に新たな厩舎を引き継ぐことになる。

今から3年以上前、クロフォード調教師は香港の調教師に応募し、最終選考まで進んだものの、その時の選考では選ばれなかった。振り返ると、当時は現在よりも移籍が複雑になっていたかもしれないと考えている。

「これは自然に開かれた道です」とクロフォード調教師は香港のホテルから電話でIdol Horseのインタビューに答えた。「当時はジェイミー・リチャーズ調教師が選ばれました。正直なところ、その時点で香港での仕事のことは一旦忘れました。息子が競馬業界に関わるようになっていたので、過去3年間は地元でビジネスを築くことに集中していました」

この間、クロフォード厩舎は目覚ましい成功を収めた。G1・ケープフィリーズギニーおよびG1・パドックステークス(メイクイットスナッピー)、G1・マーキュリースプリント(サージェイ)、さらにはG1・ダーバンジュライの2連覇(ウィンチェスターマンションおよびオリエンタルチャーム)など、数々のG1レースを制覇。これらの勝利は、クロフォード調教師の輝かしい経歴におけるケープタウンメット、ケープギニー、ケープダービー、チャンピオンズカップ、デイリーニュース2000といったG1勝利に加わるものとなった。

その間、息子のジェームズ・クロフォード調教師は経験を積み、南アフリカでのビジネスを引き継ぐ準備を進めていた。そして今では、彼が事実上の主導権を握る立場になった。

Brett Crawford celebrating a Durban July win with son James
BRETT CRAWFORD, JAMES CRAWFORD / Greyville // 2024 /// Photo by Chase Liebenberg
James Crawford leading Durban July winner Winchester Mansion
JAMES CRAWFORD, WINCHESTER MANSION / G1 Durban July // Greyville /// 2023 //// Photo by Chase Liebenberg

「昨年12月の初め、ジェームズと私は共同ライセンスを取得しました」とクロフォード調教師は語る。「そのタイミングでHKJCから再び声がかかり、香港で調教師をやることに興味があるかと聞かれました」

まさに絶妙なタイミングだった。子供たちも成長し、ジェームズ氏が地元の厩舎を引き継ぐ準備が整ったことで、香港への移籍の時が来たのだ。

クロフォード調教師は以前にも、適切なタイミングを見極めた経験があった。2013年、彼の厩舎に所属する若いジョッキーが香港からの騎乗依頼を受けた時のことだ。

「彼は私が香港での仕事をオファーされた時に最初に相談した人物です。そして彼は『ぜひ行ってください、これはあなたのチャンスです』と言ってくれました」とクロフォード調教師が語るその騎手こそが、あのカリス・ティータン騎手である。ティータン騎手はこの12年間で香港において輝かしいキャリアを築いてきた。

そして今、クロフォード調教師の番が来た。彼はパートナーのグウェン・マクレガーさんとともに新たな生活をスタートさせる準備ができている。

「香港で調教師になることは、私が長年目指してきたことであり、今このタイミングで実現するのは非常に良いことです。南アフリカでのビジネスは息子が引き継ぐことになりましたし、個人的にも非常にいい時期です」とクロフォード調教師は語る。

しかし、今回の移籍が絶好のタイミングだったのには、さらに理由がある。現在53歳のクロフォード調教師は、これまでのキャリアの大半を南アフリカで過ごしてきた。しかし、アフリカ馬疫の感染拡大を防ぐための厳しい輸出規制の影響で、南アフリカの競走馬は国際競走で活躍する機会を大きく制限されてきた。

その間、クロフォード調教師は香港のスター馬たちがドバイ、オーストラリア、日本といった世界各国でレースに挑み、活躍する姿を見てきた。そしてHKJCの公正性やプロフェッショナリズムを高く評価しつつも、競技者として、世界の舞台で戦うチャンスを渇望していた。

「香港は、良い馬を持っていれば海外へ遠征する機会を得られる場所です。過去2年間の香港馬の活躍を見ても、それは証明されています」とクロフォード調教師は語る。

「南アフリカでは、それを実現するのが非常に難しいのです。2017年には自厩舎の馬(ウィスキーバロン)がG1レースを制し、国際競争へ挑戦しましたが、当時の検疫制度では、馬の能力を最大限に引き出すのが難しい状況でした」

Whiskey Baron winning The Met in 2017
WHISKY BARON, GREG CHEYNE / G1 The Met // Kenilworth /// 2017 //// Photo by Gallo Images

しかし、近年の規制緩和により状況は一変した。欧州連合(EU)が南アフリカからの直接輸入を解禁し、新たな輸出プロトコルが確立されたことで、南アフリカ産馬が香港へよりスムーズに移籍できるようになった。これは、クロフォード調教師が以前から注目していた変化だった。

すでに彼は、元香港調教師のトニー・ミラード調教師や香港の馬主のために、南アフリカで競走馬を育成し、その後香港へ移籍させるという経験を積んでいる。しかし、従来の輸送ルートでは、現役最盛期の3歳馬を長期間レースに出走させられないなど、多くの課題があった。

「3歳の最も良い時期に移籍させるのは非常に難しく、多くの馬が長期間の検疫を経た後に香港での環境に適応するのに苦労していました」とクロフォード調教師は指摘する。

「しかし、今では輸出にかかる時間が大幅に短縮されました。実際に先週末、シャティン競馬場でのレースで2着に入ったミッドウィンターウィンドは、9月に南アフリカを出発し、10月に香港に到着しました。そして約3カ月後に初勝利を挙げました」

「このように、全ての要素がかみ合い、今のタイミングでチャンスをいただけたことは非常に幸運です。南アフリカからの移籍が容易になった今こそ、香港で南アフリカ産馬の可能性を広げる絶好の機会だと思います」

クロフォード調教師は、現在のジンバブエ(彼が生まれた1971年当時は旧ローデシア)の出身で、南アフリカでビッグレースの調教師としての名声を築いてきた。彼が競馬に興味を持ったのは、競馬界とは全く関係のない祖父の影響だった。祖父はただの熱心な競馬ファンだったが、その情熱がクロフォード調教師を競馬の世界へと導くことになった。

さらに、彼の二人の兄が大きな役割を果たした。彼らは調教師ブライアン・マスカットの息子たちと親しくしており、クロフォード調教師は12歳か13歳の頃からマスカット厩舎で放課後に働くようになった。そして18歳のとき、彼は南アフリカへ移り、本格的に競馬の仕事を学ぶことになる。

南アフリカでは、マイク・デ・コック調教師、ブライアン・マスカットの息子であるピーター・マスカット調教師、エリック・サンズ調教師、デニス・ドライヤー調教師といった名だたる調教師のもとで経験を積んだ。そして2001年には、サビーネ・プラットナー氏のプライベート調教師として独立。この間、G1レースを7勝するなど順調なキャリアを歩んだが、8年後にこの関係は終了。その後、2009年10月にケープタウンで自身の厩舎「クロフォード・レーシング」を設立し、ヨハネスブルグにもサテライト厩舎を構えた。

このように南アフリカの主要3つのトレーニングセンターで経験を積んだことで、クロフォード調教師はそれぞれの地域特有の調教方法や環境の違いを深く理解するようになった。そして今、彼は新たな挑戦として、香港競馬を学び、適応しようとしている。

「ケープタウンの調教環境は、ダーバンのものとは全く異なりますし、ヨハネスブルグの高地での調教ともまた違います」とクロフォード調教師は語る。

「さらに、私自身も短期間ではありますが、ニューマーケットでの調教や、ドバイでの調教を経験しました。海外での経験を積むことで、調教方法に関する知識は大いに広がります。知識こそが最大の財産です」

彼は、香港での調教経験を自らの知識に加え、成功するために全力を尽くす覚悟だ。

クロフォード調教師自身は、香港という競馬界でも最も競争が激しく、プレッシャーの高い環境に身を置くことに、大きな期待を寄せている。

カリス・ティータン騎手は、クロフォード調教師のもとで騎乗経験を積んだ後、彼のアドバイスを受けて香港に渡った。そして現在では、香港競馬で確固たる地位を築いている。ティータン騎手は、かつての恩師が香港に来ることを高く評価している。

「彼の実績が物語っています。彼は南アフリカの主要なレースをすべて勝ってきましたし、シーズンごとにさらに成長し続けています」とティータン騎手は語る。

「彼は間違いなく南アフリカのトップ調教師の一人であり、ここに来る資格は十分にあります」

「HKJCは適任者を選びました。彼は、香港の競馬に適応するために必要な姿勢を持っていると思います。彼は常に学ぶことを大切にし、競馬の世界で新たな方法を探求し続ける人物です。香港の競馬を理解し、適応する能力があると思います。適切なサポートを受けられれば、彼は必ず成功するでしょう」

Brett Crawford and son James celebrating a win in the G1 Durban July
JAMES CRAWFORD, BRETT CRAWFORD / G1 Durban July // Greyville /// 2023 //// Photo by Chase Liebenberg

しかし、クロフォード調教師自身は、香港競馬の厳しさを十分に理解している。競争が熾烈であり、多くの試練が待ち受けていることを自覚しているが、それでも今の自分ならば、この環境で成功できると確信している。

「香港競馬は非常に競争が激しいので、ある意味では私にとってゼロからのスタートのようなものです」とクロフォード調教師は語る。「しかし、私はこれまでに十分な経験を積み重ねてきましたし、地に足をつけて取り組むつもりです。新しい環境に適応し、香港ならではの競馬のやり方を学び、そこから最適な方法を見つけていきます」

「私が見た限りでは、香港の競馬では馬のコンディションを最優先することが極めて重要だと思います。馬にとってはやや過酷な環境であるため、彼らをできるだけリラックスさせ、最高のパフォーマンスを発揮できるようにすることが大切です。確かに大変な挑戦にはなりますが、どんな挑戦にも報酬が伴うものです」

クロフォード調教師はこれまでに何度か香港を訪れており、またHKJCのトレーニングセンターである従化にも足を運んでいる。そのため、基本的な環境については理解しているが、それでも香港の競馬文化についてはまだ学ぶべきことが多いと感じている。

「香港では『運』が非常に重要視されていると聞いています。人々の間では『運が悪い』と見なされると、その評価がなかなか覆らないこともあるようです。一方で、『運が良い』と考えられた人には大きなサポートが集まるとも聞いています」

「こうした文化的な側面を理解し、適応していくことが、私にとって非常に重要な課題になるでしょう。私は香港の文化を学び、それを受け入れ、しっかりと順応していきたいと思っています」

「この移籍は、私にとって新たな旅の始まりです。周囲の人々や環境から学び、自分にとっての最良の方法を見つけていくことが大切だと思います。とても楽しみです」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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