5位. 香港ダービー(2020)
ゴールデンシックスティが香港クラシックマイルを制した1月27日の競馬開催、それはコロナ禍の特別措置が始まる前、最後の開催日だった。2月23日の香港クラシックカップを優勝した頃には、新型コロナウイルスが街を襲い、競馬場には関係者と馬主しか立ち入ることはできなくなってしまった。
3月22日、14頭立ての香港ダービー。史上2頭目の4歳クラシックシリーズ三冠馬という大記録が懸かったこのレースも、熱狂の渦に包まれることはなかった。競馬場にあるのは、耳に残るような静けさだけだった。
この年は歴史に残るダービーとなった。ブレイク・シン騎手が騎乗した、290倍のプラヤデルプエンテが完璧なレースを見せたのだ。残り800m地点でペースが緩むと、シン騎手は一気の捲りを見せ、ゴールデンシックスティの追撃を凌ぐための奇策に打って出た。
捲りを決行する直前まではゴールデンシックスティの隣で追走しており、末脚比べになったときは勝機が無いと判断しての作戦だった。
直線入り口の段階でプラヤデルプエンテは4馬身近いリードを保ち、外からはゴールデンシックスティが猛追する。しかし、残り100m地点でもまだ差は詰まらず、これはセーフティーリードかと思われた。
しかし、ゴールデンシックスティとホー騎手はゴール前で捕らえた。最後の2完歩で差し切り、クビ差で勝利を手にした。
地元の馬主、地元の調教師、地元の騎手、そして香港デビュー馬。チーム香港のゴールデンシックスティという、香港競馬の新しいヒーローが誕生した瞬間でもあった。
4位. 香港マイル初勝利(2020年)
ゴールデンシックスティはこれまで香港馬相手では無類の強さを誇ってきたが、外国馬相手には通用するのだろうか?
2020年の香港マイルはゴールデンシックスティにとって、世界の強豪と初めて対戦する機会だった。コロナ禍の影響で遠征馬は減ったが、前年勝ち馬のアドマイヤマーズ、BCマイル勝ち馬のオーダーオブオーストラリア、愛2000ギニー馬のローマナイズドなど、名だたる強豪が集結した。
また、シンガポールのクランジマイル連覇のサザンレジェンド、香港マイル2勝のビューティージェネレーション、前年2着馬のワイククといった地元馬も参戦していた。
2020年を勝利で締めくくり、香港最強馬の地位を確立できるのか。それとも、化けの皮が剥がれて単なる噂止まりで終わってしまうのか。ゴールデンシックスティにとって、正念場の一戦だった。
レースは淡々としたペースの中で後方から競馬を進め、残り600mの地点でホー騎手が進出開始の合図を送る。そこからは一気に加速し、気がつけば先頭に迫る勢い。こうなると、後はどれだけ突き放せるかの勝負になる。
結果は、2馬身差の快勝。彼の強さを考えるとこれでもベストパフォーマンスとは言えないかもしれないが、香港競馬に新しい王者が誕生したのは間違いなかった。
3位. 復帰戦(2022年)
ゴールデンシックスティがこれまで積み上げた26勝のなかで、その驚異的な能力を見せつけたレースは数多くあった。一瞬の加速、圧倒的なスピード、他の追随を許さない支配的な競馬、それが顕著に表れたのが、2022/23シーズンの始動戦となったG2・ジョッキークラブマイルだった。
この日は、後の香港マイル勝ち馬カリフォルニアスパングルより5ポンド重い斤量を背負わされた上、相手の方がすでに2戦使っており、仕上がりの差も明確だった。単勝オッズも2年半ぶりに2倍以上で推移し、3年ぶりに1番人気の座を譲った。
レースでは1ハロン10秒台のラップを3回叩き出す驚異の末脚を見せ、カリフォルニアスパングルを差し切った。特に、残り400mから200mのラップタイムは10.41秒という前代未聞の時計を叩き出しており、これはシャティンのマイル戦では最速ラップだった。
この日、ゴールデンシックスティはこの馬にとって不利な要素なんて関係ないと証明した。
しかし、3週間後の香港マイルではカリフォルニアスパングルに逆転負けを喫した。前哨戦の激闘でスタミナを消耗した影響が、本番で響いたのかもしれない。
2位. 10年に一度の決戦(2023年)
2023年、この年のG1・スチュワーズカップ(1600m)は香港競馬を代表するチャンピオンホース2頭による王座決定戦として、レースの1ヶ月以上前から『10年に一度の決戦』として話題を集めていた。
ゴールデンシックスティとロマンチックウォリアーが初の直接対決というだけでなく、ロマンチックウォリアーのライバルで、前走は香港マイルでゴールデンシックスティを破ったカリフォルニアスパングルもこの戦いに参戦。まさに3強対決となり、近年のシャティン競馬場の中でも屈指の面白い構図が出来上がった。
話題が集まりすぎると却って期待外れに終わるレースも多いが、今回ばかりは違った。ボーンクラッシャー vs アワウェイバリースターが実現した1985年のコックスプレート、サンデーサイレンスとイージーゴアが戦った1989年のBCクラシック、まさにそれに並ぶような魔法の瞬間だった。
7頭立てのマイル戦は牽制し合うレースとなり、予想通りカリフォルニアスパングルが逃げ、ロマンチックウォリアーはその後ろで追走。ゴールデンシックスティは3番手で前の馬を見ながらの展開となった。
残り300m地点でカリフォルニアスパングルのザック・パートン騎手がトップギアに入れるも、2000mからの距離短縮だったロマンチックウォリアーは加速にやや手間取る。ゴールデンシックスティにとっては綺麗に前が空く形となり、そこから楽に突き抜けた。
結果は、ゴールデンシックスティが1馬身差の勝利。ロマンチックウォリアーは2着、カリフォルニアスパングルはそこからクビ差の3着となった。今や誰もが認める存在として、彼は香港のチャンピオンとしての地位を不動のものとした。
時が経つにつれて、このレースの評価も高まりつつある。ロマンチックウォリアーは海外遠征先で結果を残し、オーストラリアのコックスプレートと日本の安田記念を制覇。香港を代表する名馬となった。カリフォルニアスパングルも、ドバイのメイダン競馬場で行われたアルクォーツスプリントを勝ち、海外G1馬の仲間入りを果たした。
1位. 香港マイル3勝目(2023年)
今シーズンで8歳、7ヶ月ぶりの出走、冴えないバリアトライアルの内容、外枠。グッドババに並ぶ、香港マイル3勝目に挑んだゴールデンシックスティだったが、『消し』とされる理由はいくらでもあった。
1年前は3連覇の偉業を逃した。2023年は無敗だったものの、時の流れは残酷なものがあった。
しかし、ゴールデンシックスティにとっては、もはやそんなこと関係ない。
鞍上のホー騎手は中団で待機させる選択を取ると、最終コーナーから進出開始。追い込み馬として知られているこの馬が積極的な競馬を見せる珍しい展開だったが、それが勝負の鍵となった。残り200mの地点ですでに圧倒的な差、追いすがる他馬を尻目に、1馬身半差で勝利した。
ゴールデンシックスティのキャリアの中でも一番の楽勝と呼べるような内容で、満員のシャティン競馬場で最後に見せた勝利として相応しいものがあった。
惜しくも選外、特別表彰
2023年、2024年のチャンピオンズマイルは、このランキングに入っていたかもしれない。
2023年はシーズンの締めくくりとして勝利し、この勝利で獲得賞金額の世界歴代ナンバーワンに上り詰めた。そのタイトルは引退まで保持し続けている。
2024年は彼にとって31戦目のレース、キャリア最後のレースとして歴史に刻まれるだろう。生涯2度目となる3着を外したレースだったが、グランドスタンド前では勝ち馬のビューティーエターナルより大きな拍手喝采を浴びていた。
3歳時に初勝利を収めた2019年3月のレースや、重賞初勝利となった2020年のG3・チャイニーズクラブチャレンジカップもまた、ランキングに入れる価値があるレースだと言えるかもしれない。