リヴァーヴァードンがシャティンから飛び立ち、世界の舞台で香港代表として戦った日から30年。その後を追うように、数十頭の香港馬が海外に飛び立った。
近隣のマカオを除き、香港調教馬は8カ国で合計24頭が勝利。サンタアニタのダートからソウルの深い砂地まで、幅広い条件で結果を残している。
これらの中で、一体どの馬が最高の海外遠征馬だったのだろうか?そして、まず最初に、最高の定義とは何なのか?
このリストは、香港を離れて海外遠征で活躍した馬を対象とする(香港調教馬として活動した期間のみで、移籍前・移籍後はカウントせず)。戦績の安定感や長い期間の活躍は追加で評価し、その馬の総合的なパフォーマンスを基準として考えている。レガシー、影響力、香港の地元競馬ファンからの人気など、全ての要素が考慮されている。
5位. エアロヴェロシティ
調教師:ポール・オサリバン
2度の香港スプリント勝利で有名なエアロヴェロシティだが、飛躍のキッカケは2014/2015シーズンだった。最初の香港スプリント勝利を機に短距離路線のトップホースとしての地位を確立したが、シーズン最後には海外で2連勝している。2015年のG1・高松宮記念と、シンガポールのクランジ競馬場で行われた最後のG1・クリスフライヤー国際スプリントだ。香港の短距離馬で、これほど充実したシーズンを送った馬はいない。

翌年、チェアマンズスプリントプライズの開催時期が2月から現在の4月下旬もしくは5月初頭に変更となった。エアロヴェロシティのファンにとっては、「もしも」の夢が膨らむ出来事だった。仮に、エアロヴェロシティが「高松宮記念 → チェアマンズスプリントプライズ →クリスフライヤー国際スプリント」のG1・3連勝を6週間以内に達成する機会があったら、それは歴史に残る偉業となっただろう。
4位. ヴェンジェンスオブレイン
調教師:デイヴィッド・フェラリス
G1とは言っても、全てが同等に作られているわけではない。香港馬が勝利したレース一覧を見てみると、ドバイシーマクラシックはその中でも特に格が高いレースとして際立っているように見える。
2007年のシーマクラシックは長距離の中では最高のレースではなかったかもしれないが、前年の英ダービー馬(サーパーシー)、BCターフ勝ち馬(レッドロックス)、メルボルンカップと有馬記念の2着馬(ポップロック)、そして有名なヨーロッパ調教馬(ユームザイン、キハーノ、レイヴロック)が出走していた。当時はやや不調気味なシーズンを送っていたヴェンジェンスオブレインだったが、それらの馬をまとめて打ち負かしたのだ。香港馬として海外に遠征したのは一度きりだが、その勝利の意義を高く評価したいと思う。
3位. ケープオブグッドホープ
調教師:デヴィッド・オートン
2004年6月から2006年2月にかけて、ケープオブグッドホープは香港競馬史上最大の海外遠征を決行した。彼はシャティンを離れ、イギリス、日本、オーストラリアで計12回も出走したのだ。背景を説明すると、2005年当時の香港ではサイレントウィットネスが猛威を振るっていた。その一方で、新たにグローバル・スプリント・チャレンジという仕組みが導入され、調教師のデヴィッド・オートンと馬主のガイ・カステアズ氏はこちらに目標を切り替えたためだった。
海外で12回出走したうち勝ったのは2回「だけ」だったが、その2勝はムーニーバレーのG1・オーストラリアンSと、異例のヨーク開催となったロイヤルアスコットのG1・ゴールデンジュビリーSだった。さらに、これらも含めて3カ国で7回も入着し、世界屈指のスプリンターとしての地位を確立した。
2位. リッチタペストリー
調教師:マイケル・チャン
香港発のトップスプリンターの層の厚さを考えると、リッチタペストリーはトップ10は疎か、トップ20すら厳しいかもしれない。しかし、海外遠征での偉業を考えると、この馬に匹敵するものはほとんどいないかもしれない。アメリカのダートG1、2014年のサンタアニタスプリントチャンピオンシップで勝ったという実績だけでも、このリストに名を連ねる理由になり得るだろう。
シーズンを通して複数の大陸で、そしてあらゆる馬場(ダート、タペタ、芝)で実績を残したその能力を高く評価し、トップに近い位置にランクインとした。ドバイのメイダンでG3を2勝し、ドバイゴールデンシャヒーンでは僅差の2着。2015年のスプリンターズSでは芝で鋭い追い込みを見せ、勝ち馬と1馬身差の6着。これらの実績を考えると、トップに立つ資格すら得ていると言える。
1位. ロマンチックウォリアー
調教師:ダニー・シャム
このリストで名前が挙がるのは、歴戦の猛者たちだ。それを踏まえると、コックスプレート制覇の実績だけではランク入りには一歩届かないかもしれない。しかし、2024年6月の安田記念制覇を加えて、2つの実績で考えるとどうだろうか。このメンバーを相手にトップに立つ理由も納得してもらえるだろう。

オーストラリア最高峰の馬齢重量制2000mレースを勝ち、さらに日本の最高峰マイルレースも勝ったというのは、本当に素晴らしい偉業だった。必ずしもベストパフォーマンスを発揮できていたわけでは無いのかもしれないが、それでも勝利を収めた。3カ国で5つのG1勝ちを収め、最高のシーズンを送ったのは間違いない。さあ、残すタイトルは来月の年度代表馬(香港馬王)のみだ。
惜しくも選外、特別表彰:
安田記念を勝ったフェアリーキングプローンとブリッシュラックは、惜しくもトップ5に入らなかった馬たちだ。
ロマンチックウォリアーが安田記念を勝っていなければ、フェアリーキングプローンはトップ5入りを果たしていただろう。2000年に香港馬初となる海外G1勝利を達成したときは、厩舎のアシスタントトレーナーを務めていたダニー・シャムにとって、そして香港競馬全体にとっても大きな節目となった。もし、2001年のドバイデューティーフリーでジムアンドトニックとの接戦を制していたら、エアロヴェロシティより上位にランクインしていたでしょう。
ブリッシュラックは2006年の安田記念制覇に加え、2007年のドバイワールドカップではインヴァソールを相手に3着に入った。このパフォーマンスは香港馬史上最高の着順だが、背景には少し注意が必要だ。このレースはそもそも7頭立てで、勝ち馬からも10馬身以上離されていた。ドバイデューティーフリーでは、2回とも入着を逃している。この海外実績を総合的に加味すると、惜しくもトップ5は叶わなかった。

トップ5に相応しいが入らなかったのは、トップステイヤーのインディジェナスだ。1999年のジャパンカップではスペシャルウィークに次ぐ2着に入り、ハイライズ、モンジュー、ステイゴールド、タイガーヒルらの名馬を抑えて香港馬が世界の舞台で大健闘したとして多くの称賛を受けた。また、2002年のシンガポール航空国際カップでも3着に入った。彼の海外挑戦の歴史には、デイラミが勝った1999年のキングジョージVI世&クイーンエリザベスS、ドバイミレニアムが勝った2000年のドバイワールドカップ、そしてファルブラヴが勝った2002年のジャパンカップ(中山開催)などが含まれている。
香港の馬がキングジョージやジャパンカップで出走するなんて、夢のような光景だろう。ましてや、上位入着となれば尚更。インディジェナスは遠征先では勝ち星が無いものの、その立派な業績はトップ5入りに値するものだった。選外となった唯一の理由は、あと一歩で勝ちに手が届かなかったことだろうか。
パイオニアとしては、リトルブリッジに匹敵する馬はほとんどいないだろう。2012年のキングズスタンドSでの勝利は、傑出した実績だ。2度の海外遠征と、ロイヤルアスコットでの勝利。実績は充分だったが、活躍期間の短さから選外と判断した。
先述の通り、ケープオブグッドホープは海外で12回出走したが、ラッキーナインも負けず劣らずの11回出走という記録を持っている。4カ国(日本、UAE、シンガポール、オーストラリア)での出走経験を持ち、その点では上回っている。海外2勝という点では互角だ。最終的には、「僅かな差」が決め手となったのだろう。2011年のG2・セントウルSではエイシンヴァーゴウにアタマ差で敗れ、2013年のG1・マニカトSではバッファリングにハナ差敗れている。この僅差を逆転できていれば、ナンバーワンすらあったかもしれない。

他の候補としては、2016年と2017年のシンガポール航空国際カップを連覇したダンエクセルがいる。サイレントウィットネスは2005年の安田記念でブリッシュラックの3着、同年のスプリンターズS制覇、翌年同レースで4着の実績がある。2009年のクリスフライヤー国際スプリントを勝った、セイクリッドキングダムも候補だろう。しかし、いずれもトップ5の高い壁の前には及ばないと見ている。