Aa Aa Aa

イギリス人にとっての英ダービー、フランス人にとっての凱旋門賞、オーストラリア人にとってのメルボルンカップ、アメリカ人にとってのケンタッキーダービー。香港の馬主にとって、香港ダービーとはそれと同じ意味を持つ。

香港競馬で、すべての馬主が何より欲しがるトロフィーがあるとすれば、それがこの一戦だ。

だからこそ、香港クラシックカップが重要になる。香港4歳クラシック三冠シリーズの第2戦は、例年、未来の香港ダービー馬を占う良い手がかりになる。勝ち馬が毎年そのままダービーを勝つからではない。多くの年は、このレースを経て「明確な本命馬」が浮かび上がるからだ。

ところが今年は、そうはいかない。答えがひとつに絞れず、むしろ疑問が増えた。

まずは、敗れた1番人気のリトルパラダイスから話そう。

リトルパラダイスはスタートで3馬身ほど後手を踏み、その後すぐに押して位置を取りに行った。レースを難しくしたのは、まさにそこだった。

香港クラシックマイルでは、道中ほとんど脚を使わずに運べた。楽に流れに乗って体力を温存し、残り200mで前が開いた瞬間にスパート。リトルパラダイスにとって理想的な形だった。

一方、香港クラシックカップは速いペースの中で序盤から脚を使い、直線入口で加速が求められたときには、余力が残っていなかった。それでも内容は良かった。ただ、同じ切れ味をもう一度出せなかったのは、すでに使ってしまっていたからだ。

それでも香港ダービーを勝てるか?もちろんだ。好枠を引き、スタートを決めて、4、5番手で折り合い、前を壁にして運べれば、勝負圏内にいる。

2番人気はナンバーズで、デレク・リョン騎手は先頭に立った判断が誤算だった。直近の2連勝と同じ形に引きずられたが、格下のレースで115ポンド(約52kg)を背負って逃げるのと、香港クラシックカップのように定量で、相手も揃った舞台で同じことをするのとでは話が違う。

26ポンド(約57kg)でメンバーが横一線なら、あの形で脚を使って押し切れるほど甘くはない。実際、押し切れなかった。

ただ、明るい材料もある。ナンバーズはこの世代で「2000mをしっかり走れる」と自信を持って言える数少ない1頭だ。血統的にも向き、すでにそれを示している。そして、この負け方はむしろプラスになるはずだ。デレク(リョン騎手)も今回で「何をしてはいけないか」を掴んだだろう。

2着のインヴィンシブルアイビスは、いつもより前で運んで好走した。ここは押さえておきたいポイントだ。香港ダービーでもう一度内枠を引ければ、勝ち負けに加われる。

3着のパッチオブコスモにも希望が持てた。無駄に脚を使わず、直線でもじわじわ伸び続け、距離をこなせる血統でもある。香港ダービーで好枠を引ければ、もっと前で運べるはずで、今季の走りを見ても勝負圏内に入ってくる。

Stormy Grove and Harry Bentley take out the Hong Kong Classic Cup at Sha Tin
STORMY GROVE, HARRY BENTLEY / Hong Kong Classic Cup // Sha Tin /// 2026 //// Photo by HKJC

ただ、今回のレースで最も評価すべき走りは、意外と注目されていないダズリングフィットだ。

おそらくキャリア最高の内容だった。速い流れを外々で、終始ロスの多い形で脚を使わされ、それでも踏ん張って約3馬身差まで詰めてきた。血統表だけを見る限り、ダービー距離が合うとは言いにくい。

だが好枠を引き、内で脚をためてロスなく運べれば、出番はある。これほど混戦のダービーなら、軽視はできない。

サゲイシャスライフは不安材料だ。香港ダービーまであと3週というタイミングで、喉鳴りの問題がまた表に出た。2000m戦を前にして、これは厄介である。

そして勝ち馬のストーミーグローヴは、やるべきことはすべてやった。ただ、展開に恵まれたのも確かだ。無駄な脚を使わず、持ち味を最大限に出せる流れになった。直線入口で手応え十分のまま進路を取り、最後まで伸び切った。

香港ダービーが速い流れになれば、この馬には向く。どう乗られ、どんな展開が理想かも見えている。

今回のクラシックカップの流れの中で、力を出し切れなかったのはどの馬か。ダズリングフィット、ナンバーズ、そしてリトルパラダイスだ。では、私の本命は?

答えはまだ出さない。

今年の香港ダービーは例年以上に、枠順を見てから判断したい。勝敗を左右しそうなのが枠順だからだ。

地元出身騎手の星、「コツを掴んだ」ジェリー・チョウ騎手は見逃せない

ジェリー・チョウ騎手は、見習い時代からスターだった。香港競馬の見習い騎手によるシーズン最多勝記録を更新し、マシュー・チャドウィック騎手の記録を塗り替えた。

だがその後、一時は伸び悩んだ。昨季は騎乗停止も響き、流れが止まった。香港では、それがあっという間に悪循環へつながることがある。

ところが今季は違う。騎乗ぶりが素晴らしい。

シーズン開幕週は韓国遠征で不在だったが、そこで2つの見事な騎乗を見せた。セルフインプルーブメントでG3・コリアスプリントを勝ち、チェンチェングローリーでコリアカップ2着。若い騎手が異国の地であのプレッシャーを受け止め、あの内容の騎乗をするのは大きい。

あれをやるには自信が要る。その自信を香港へ持ち帰ってきた。

技術面では、馬上でのバランスがとても良い。そして何より、後方から脚をためる形でも、好位でレースをする形でも乗れる。

この幅は、香港では他のどの土地以上に重要になる。ラッキーサムゴルとのコンビが、その好例だ。香港クラシックカップまでに3回騎乗して3戦3勝。この馬の走らせ方を掴んでいた。下げて、リラックスさせて、最後に伸ばす。

それでも香港クラシックカップでは、速い流れの中で位置を取りすぎてしまい、1800mを走り切れなかった。馬が悪くなったのではない。戦術がレースに合わなければ、そうなるというだけだ。

JERRY CHAU / Photo by HKJC

香港で私がひとつ気にしている指標がある。大げさに言うつもりはないが、これは騎手の「勝ち星と2着の比率」だ。香港競馬は着差が狭い。1着と2着の間が、アタマ差やクビ差ということも珍しくない。だから、2着より勝ちが多い騎手は、たいてい調子が良い。

ジェリーは28勝で、2着が27回。香港競馬では、この数字に意味がある。香港競馬で通年騎乗している騎手で、勝率10%を超えているのは3人だけで、他の2人はザック・パートン騎手とヒュー・ボウマン騎手である。

そして最大の成長は「待てるようになった」ことだ。レースは残り400mや500mで決めにいく必要はないと学びつつある。以前より待ち、馬のバランスを保ち、勝負どころで届くタイミングを合わせている。

その分、取りこぼすレースが出ることもあるだろう。だが長い目で見れば、今の乗り方を続けることで、ジェリーははるかに良い騎手へ成長していく。

ジェリー・チョウは週末にまた3勝を挙げ、リーディング4位につけている。

地元出身の騎手が大活躍すると、香港競馬は本当に盛り上がる。ファンが心から味方をする存在になるからだ。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

シェーン・ダイの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録