最終日までもつれた香港競馬のリーディング調教師争い、勝負の鍵はパートン騎手?

日曜日のシャティン開催で、2人のリーディング調教師争いが遂に決着する。ピエール・ン調教師とフランシス・ルイ調教師の師弟対決、カギを握るのはパートン騎手の存在かもしれない。

最終日までもつれた香港競馬のリーディング調教師争い、勝負の鍵はパートン騎手?

日曜日のシャティン開催で、2人のリーディング調教師争いが遂に決着する。ピエール・ン調教師とフランシス・ルイ調教師の師弟対決、カギを握るのはパートン騎手の存在かもしれない。

ザック・パートン騎手にとってシーズン最終日のリーディング争いには慣れたものかもしれないが、今年は事情が違う。彼が命運を握っているのは既に確定した自身の騎手タイトルではなく、調教師のタイトルだ。今週日曜日のクライマックスでは、彼が重要な役割を果たすことになる。

2年前のシーズン最終日、パートンは最後の力を振り絞って、ジョアン・モレイラ騎手との直接対決を制した。今年はピエール・ン調教師とフランシス・ルイ調教師が最終日まで調教師リーディングで競っているが、彼らの気持ちもよく分かっていることだろう。

ピエール・ン調教師はここまで67勝、彼の元師匠であるフランシス・ルイ調教師は66勝で日曜日を迎えることになる。仮に勝利数が同数で終わった場合、同着の数は除外され、2着の数が勝敗の決め手となる。2着数はン調教師は54回に対し、ルイ調教師は53回。さらに3着の数となると、55対52のスコアでン調教師がリードとなる。

パートンは今年の調教師リーディング争いについて、こう分析する。

「現状、ピエールが有利です。勝ち星も一つリードしていて、2着の数も同じくリードしている。つまり、ピエールの馬が1勝した場合、フランシスは3勝する必要があり、極めて難しい状況になります。しかし、フランシスは最終日も精鋭を揃えているので、万全の体制で臨んでいると思います」

Zac Purton and Pierre Ng
ZAC PURTON, PIERRE NG / Sha Tin Racecourse // 2023 /// Photo by Lo Chun Kit

勝負の行方

ルイ厩舎の出走馬10頭は9レース(全11レース)に分散しているのに対し、ン厩舎の9頭は午後の7レースに集中している。

非常に接戦と言えるが、パートンの言う通り、ン調教師が有利な状況なのは間違いない。しかし、ルイ厩舎の馬が2レースのクラス2・ジョイアンドファンハンデキャップに勝てば、状況は一変する。このレースは7頭立てだが、ルイ厩舎とン厩舎はそれぞれ2頭出しだ。

ルイがこのレースを勝ち、さらに1〜2勝を挙げ、それに加えてンが不発に終わった場合、勝負の行方は分からなくなってくる。

パートンはこのレースでルイ厩舎のコールミーグロリアスに騎乗する。ここまで5戦3勝、前走も勝っている期待の3歳馬だ。パートンはこの日10レースに騎乗し、そのうち4レースはルイ厩舎の馬、2レースはン厩舎の馬に騎乗する。

ン厩舎の2頭は、シャティンのクラス4戦で勝利実績があるファイティングマシーンと、1戦0勝のファーストラヴだ。ルイ厩舎の騎乗馬には、メインのクラス1戦に出走するチャンチェングローリー、有望株のパッキングハーモッド、ステップスアヘッドが含まれる。

「これらの騎乗馬は、今シーズン良い走りをしており、調子もバッチリです。木曜日の調教では全ての馬に乗りましたが、みんな順調です。フェアな馬場状態で走れて、勝てるチャンスがあることを願っています」

Zac Purton Happy Valley
ZAC PURTON / Happy Valley Racecourse // 2023 /// Photo by Lo Chun Kit

2人の香港人調教師

ルイとンの最終決戦を面白くしているのが、パートンが『師弟対決』と呼ぶ二人の関係性と、両者の相反する立場だ。

「彼らはお互いに尊敬し合っています。ピエールは優秀な若手調教師で、スタートダッシュに成功しました。一方、フランシスはここ5〜6年本当に素晴らしい活躍を見せており、ゴールデンシックスティを筆頭に多くの活躍馬を世に送り出してきました。ベテランの域に差し掛かっていますが、タイトル獲得を見据えた位置にいると思います」

ピエール・ンは若手調教師として、瞬く間に台頭した。厩舎を開業してまだ2年目だが、早くもリーディング調教師の座に王手をかけている。しかし、その素質は早くから知られていたと言える。父が営むピーター・ン厩舎をスタッフとして支え、ラストシーズンで厩舎の最多勝利数更新に導いた。

その後、ポール・オサリバン厩舎ではエアロヴェロシティを支え、ジョン・サイズ厩舎ではシーズン最多勝利記録の更新に立ち会った。フランシス・ルイ厩舎で働いていた時代は、ゴールデンシックスティの活躍や厩舎の台頭を陰で支えていた。

フランシス・ルイは、それとは対極的なキャリアを歩んできた。現在65歳のルイは、調教師人生の殆どを中堅トレーナーとして過ごしてきた。10年前、ルイがチャンピオントレーナーになれると予想した人は、殆どいなかっただろう。しかし、G1馬のラッキーバブルズが現れ、不世出の名馬ゴールデンシックスティも世に送り出した。ここ数シーズンで、彼はトップ5に入る大物調教師としての地位を確立した。

Trainer Francis Lui
FRANCIS LUI, VINCENT HO / Sha Tin Racecourse // 2023 /// Photo by Lo Chun Kit

特筆すべきは、両者が香港出身の地元調教師という点だ。過去5~6年間で外国人調教師優位の風潮が変化を見せる中、地元調教師を牽引する立場にいる。

引退した名伯楽ジョン・ムーア元調教師のようなカリスマ性や、デヴィッド・ヘイズ調教師が時折見せる自信は持ち合わせていないかもしれないが、今シーズンは明確な活躍を見せている。

パートンは「2人とも自分の世界がある人です」と説明する。

「ピエールは目立つタイプではありません。朝の調教時間も厩舎で過ごしていますし、バリアトライアルでもコースに来て見守ることは少ないです。厩舎にいて、テレビで様子を見ています。厩舎の中で作業をしていることが多く、表舞台ではあまり見かけない人です」

「フランシスも淡々と自分の仕事をこなす人です。彼らは自分の仕事に専念する、職人肌の人です」

彼らは静かな勤勉さだけでなく、献身な姿勢、仕事への向き合い方、効率、人材管理、そして調教技術といった、チャンピオントレーナーに相応しい要素全てを持ち合わせている。

しかし、管理馬がゲートに入ると、そこから先は騎手に託される。日曜日、リーディングの行方を左右する馬を多く任されたのは、パートンだ。最終的にどちらがリーディング調教師に輝くのか、勝負は彼の腕に託された。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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