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逃げ馬に乗るのは簡単だと考える人がいる。序盤で楽にラップを刻み、最後の400mだけを速く走れば、後ろは届かないという理屈だ。

理論上はもっともらしく聞こえる。だが実際は、そう単純ではない。

多くの人が誤解しているのは、逃げた時の理想が「できるだけペースを落として運ぶこと」だと思っている点だ。脚を全部直線まで温存し、最後だけの短い決め手勝負に持ち込む。要するに隊列を凝縮させ、直線で後続を振り切ろうという発想である。

そういう形が合う先行馬もいるが、すべてがそうではない。

日曜の香港ダービーで、ナンバーズに騎乗するデレク・リョン騎手(カーチュン・リョン騎手)には重要な仕事がある。この馬は、そうした競馬が向くタイプではないからだ。

ナンバーズのような馬は、前でペースを落としても守りにはならない。むしろ、それで勝機を手放してしまうことさえある。

香港ダービーで向正面の流れが緩んだ時に実際に何が起きるか。後方の馬は1000m地点から、ほとんど何もしていないような形で進出できてしまう。自分のリズムのまま外から隊列をのみ込み、気づけばこちらの外まで並びかけてくる。

そして直線に向く頃には、相手はもうスプリント態勢に入っている。勢いがあるのは向こうで、こちらにはない。本来スタミナが問われる一戦を、ただの瞬発力勝負に変えてしまうのだ。

2023年の香港ダービーは、逃げ馬がペースを緩めて運んだ時に何が起こるかを端的に示していた。

あの時、リョン騎手はキーフィで先手を取ったが、はっきり言っておきたいのは、あの騎乗自体に問題はなかったということだ。むしろ、あの馬にとっては非常に良い騎乗だった。キーフィは人気薄で、距離不安もあった。

だからこそ、リョン騎手が何とか2000mをもたせようとしたのは正しかったし、実際、あわや押し切るところだった。だが前半から中盤にかけてラップが遅かったため、アレクシ・バデル騎手はヴォイッジバブルを最後方から無駄なく運び、楽なリズムで外から進出できた。

しかも向正面で動いたことで、距離ロスも最小限に抑えられた。600m地点では4頭分外だったが、余計な体力は使っておらず、いつでも勝負に行ける態勢だった。見事な騎乗だったが、それが成立したのはペースがそうさせたからでもある。

遅すぎる流れには、もう一つの危険もある。レース中盤の早めの進出を誘ってしまうことだ。ゴールデンシックスティが勝った2020年の香港ダービーで、ブレイク・シン騎手はその典型を示した。人気薄のプラヤデルプエンテで最後方から動き、あわや勝利をさらうところだった。

流れが十分に緩めば、一頭が外から一気に全馬をのみ込んで相手の意表を突くことができる。そうして動いた馬は勢いをつけたまま直線へ向くため、なかなか止まらない。

だからこそ、日曜のナンバーズとリョン騎手には大きな役割がある。この馬は最も分かりやすい逃げ候補であり、2400mをこなせることも示している。

14頭立てのうち12頭は、これまで2000m以上を経験していない。だからこそ、リョン騎手はこのレースをスタミナが問われる形にしなければならない。

Derek Leung and Numbers win a 2000m race at Sha Tin in December 2025
NUMBERS, DEREK LEUNG / Sha Tin // 2025 /// Photo by HKJC

では、「スタミナが問われる形」とは何か。前半は無理をせず、先手を取ることだ。

狙いは、後ろの馬、特にこの距離が初めての馬に行きたがらせ、脚を使わせることだ。最初のコーナーまでを飛ばしすぎて、後続が引っ掛からずにリズムよく運べる流れにしてはいけない。

向正面に入ってからが本当の勝負だ。速すぎてもいけないが、絶対に遅すぎてもいけない。ナンバーズの武器はスタミナであり、リョン騎手はそれを生かさなければならない。

1000m地点から徐々にペースを引き上げ、後続に外を回って脚を使わせる。本格的なスタミナ勝負に持ち込む必要がある。

鍵になるのは、残り1000mからじわじわと圧をかけることだ。逃げて突き放すのでも、自分の馬を早々に苦しくさせるのでもない。少しずつペースを上げ、後ろの馬が「楽に」外から進出できないようにすることが大事だ。

ペースが流れている時に、700m地点から大外を回って脚を使い続けるのはほとんど不可能に近い。コーナーで外を回り、そのまま直線に入れば、それだけで確実に脚を削られる。リョン騎手がうまくやれれば、追う側は残り100mで急に苦しくなるはずだ。

もう一人の責任重大な騎手、ヴィンセント・ホー

香港クラシックマイルの勝ち馬、リトルパラダイスに騎乗するヴィンセント・ホー騎手には、リョン騎手とは逆の仕事がある。

少なくとも血統面から見る限り、この馬は本質的な2000m馬には映らない。ホー騎手の役目は、とにかく折り合いをつけ、行きたがらせないことだ。枠順次第で、4、5番手あたりまで前で運ぶこともあれば、外を引けば中団から後方になる可能性もある。

リトルパラダイスは、外枠から無理に前へ行く形では勝てない。前半で位置を取りに行くために余計な脚を使い、さらに引っ掛かって体力を消耗してしまうからだ。

そうなると、この馬にとっての2000mは2000mではなく、2200mのように感じられる。内枠なら無理なく4、5番手に収まり、理想的な形を作りやすい。

香港クラシックマイルを楽に勝ち切った走りも、香港クラシックカップでいくつか噛み合わない点がありながら最後はしっかり脚を使った内容も、誰もが見た通りだ。

リトルパラダイスにも香港ダービーでの勝機はある。だが、もしリョン騎手がナンバーズで前を取って理想的にレースを運べば、リトルパラダイスにとっては大きな痛手になり得る。

長く脚を使う形では持ち味を発揮し切れないかもしれず、この馬の強みは、むしろ一瞬の決め手にあるからだ。

Little Paradise winning the G1 Hong Kong Classic Mile under Vincent Ho
LITTLE PARADISE, VINCENT HO / G1 Hong Kong Classic Mile // Sha Tin /// 2026 //// Photo by HKJC

ジョッキーはどうやってペースを測っているのか?

読者から寄せられた質問の一つに、「騎手は自分がどれくらいのペースで走っているか、どうやって分かるのか」というものがあった。

これは早いうちから学ぶ。私の場合は12歳の時、ニュージーランドのマタマタで、デイヴ・オサリバン調教師のもとにいた頃だった。

調教コースには200mごとに標識がある。1200m、1000m、800mといった具合だ。若い頃に調教へ乗ると、「1ハロン15秒で行け(いわゆる15-15)」と教えられる。

ハロンというのは古い距離表現で、おおむね200mのことだ。1ハロン15秒は、4分の3のペースと呼ばれる。遅くはないが、全力でもない。駆け出しの頃は、まずそれを覚えなければならない。

では、どうやって覚えるのか。秒数を数えるのだ。私は乗りながら「ワン・アンド・ア・ツー・アンド・ア・スリー・アンド・ア・フォー……」という具合に、1秒ごとのリズムを刻んで数えていた。1200mから1000mまでが12秒だったなら、速すぎると分かるので、そこで修正することができる。

それを続けていくうちに、いちいち数えなくても感覚で分かるようになる。優れた騎手や調教騎乗者ができるのは、まさにそれだ。誰かが「あの騎手は頭の中に時計を持っている」と言う時、それはそういう意味である。

デレク・リョン騎手のもう一つの仕事「トラックバイアス」

ナンバーズでリョン騎手が考えなければならない要素は、ペースを整えることだけではない。トラックバイアスを読むことも重要だ。

今季の「Aコース」はバイアスが強く、しかも安定しなかった。特に香港国際競走の日は、ラチ沿いの内が悪く、外より5〜10馬身ぶん遅いほどで、外へ持ち出さなければいけない状態だった。

1月18日も、内は再び悪かった。2月19日も、中団待機と馬場の真ん中を通る馬が有利な強いバイアスがあった。もっとも、開催の途中でローラーが入ると、その後は前で運ぶ馬が有利な馬場へと変わり始めた。あの日ほど、香港で開催中に馬場傾向が変わった例を私は見たことがない。

リョン騎手にとって幸いなのは、香港ダービーが大抵、8レースもしくは9レースに組まれることだ。大一番の前にそれまでの全レースを見て、ナンバーズをどこへ置くのが最善かを判断できる。

ザック・パートン騎手が香港スプリントのカーインライジングに騎乗した際も、それができていた。レース中ずっとラチ沿いに張り付いていたわけではなく、4角を回って直線に向くと4、5頭分外へ持ち出していた。

これがリョン騎手にとって、ひょっとすると唯一の機会になるかもしれない。地元騎手なら誰もが夢見る、香港で最も重要なレース、香港ダービーを勝つための大一番だ。

シェーン・ダイ、Idol Horseのコラムニスト。 オーストラリアとニュージーランドで競馬殿堂入りを果たし、1989年のメルボルンカップ(タウリフィック)、1995年のコックスプレート(オクタゴナル)では名勝負を演じた、G1・通算93勝の元レジェンドジョッキー。また、香港競馬では8年間騎乗し、通算で382勝を挙げている。

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