今年のチャンピオンズデーで起きたリバティアイランドの悲劇について、香港ジョッキークラブのウインフリート・エンゲルブレヒト=ブレスゲスCEOは安楽死の処置に至るまでのプロセスを全面的に検証すると明言。その上で、獣医部門との連携は「改善が必須」だと語った。
日本の三冠牝馬、リバティアイランドは4月27日のQE2世カップで左前脚の種子骨靱帯を断裂する大怪我を負い、予後不良と診断。その場で安楽死の処置が施された。ファンから愛されたヒロインを襲った突然の悲劇に、競馬界全体は悲しみに包まれ、京都競馬場の馬像には献花が相次いだ。
先週、ノーザンファーム副代表の吉田俊介氏は東京競馬場でマスコミの取材に応じ、リバティアイランドの安楽死について初めて公の場でコメントした。
「馬主側として何かを判断できる立場ではあったから、何か違う判断をどこかで下していたことによって、何か変わらなかったかなと。今となっては遅いですけども、今まで仕事をしていて、なかなかないレベルでこたえています」
日本のメディアの前で当時を振り返った吉田氏は、安楽死の判断が下される前に、馬主や調教師への事前の連絡は一切なかったことも明かした。
「日本の場合は安楽死という話になるとしても、調教師さんやオーナーの方に連絡がいって『救えません。いいですか?』と確認があったりするのですが、香港では何もありませんでした」
「何もかもがテキパキしていて。そういう文化になじんでいない我々からしたら…。なんというか…ずっと引きずっています」
吉田氏の発言を受け、エンゲルブレヒト=ブレスゲス氏は土曜日のシャティン開催終了後、この件について言及。関係者や競馬ファンの深い悲しみに寄り添うとともに、当日の手順とHKJC内部のコミュニケーション全般について全面的に見直しを行う姿勢を明らかにした。
エンゲルブレヒト=ブレスゲス氏はIdol Horseの取材に対し、「このような非常に悲しい出来事を受け、多くの方が失意に暮れていること、そして『救えなかったのか?』や『これが最善の策だったのか?』という疑問を抱いていることは理解しています。私自身もそれは同じです」と話した。
「我々は改めてプロセスを見直し、改善の余地があるのならば必ず改善いたします」
「あくまで個人的な考えですが、私としては内部で議論すべき点がいくつか存在すると考えています。アンドリュー(ハーディング、HKJCの競馬部門エグゼクティブディレクター)が香港に帰国したので彼と話し合い、報告書としてまとめます」
また、エンゲルブレヒト=ブレスゲス氏は、獣医師は競走馬の福祉を最優先に考え、時にはその場で辛い決断を下さなければいけないと改めて強調。その一方、通常時の手順を見直す必要性があると認めた。
「時には獣医師がその場で決断を下さなければいけない場合もあります。通常の手順としては、まずは馬の状態を落ち着かせ、可能であれば診療所に搬送する流れになります。(リバティアイランドを)担当した獣医師は当時、異なる判断を下したわけですが、その点も含めて改めて検証します」
「また、『どうにかして決断を遅らせる方法はないか?』という疑問もあります。その場合はまず、馬が落ち着いていて苦痛を感じていないことが条件です。多くの場合は一刻の猶予も許さない緊迫した状況ですし、現場での判断が求められます」
「まずは検証結果が出てからです。現時点でただ一つ言えるのは、獣医部門との連携には改善の余地があるということです」
エンゲルブレヒト=ブレスゲス氏は全面的な調査の一環として、リバティアイランドの診断画像を外部の専門家に送り、負傷箇所の分析を依頼したことも説明。
さらに、HKJCとノーザンファームの間で引き続き協議が進められていることも強調。チャンピオンズデーの翌日、吉田氏がHKJCのジェームズ・ロス氏とともに従化競馬場(従化トレセン)を訪れたことを明かした。
「ジェームズはノーザンファームの方々と定期的に連絡を取り合っていますし、今週の水曜日か木曜日にも話し合いがありました。私自身も日本を訪れた際にはノーザンファームに出向き、検討すべき点について話し合う予定です」
再調査のスケジュールについては、結論が出るまでには「2~3週間かかる」と説明した。