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ブレット・クロフォード調教師の情熱は、預かったすべての馬それぞれの『鍵』を見つけ出すことにある。新たに香港で “新人調教師” として再スタートする彼は、そのために最適ともいえる少数精鋭の厩舎での日々を満喫している。

南アフリカ競馬の頂点に上り詰めたクロフォード師は、馬優先主義のスタイルで知られている。ケープタウンの厩舎を離れる時点では、管理馬は実に180頭に達していた。

先週行われたプレシーズンの恒例行事、『バイサン』の会場でIdol Horseの取材に応じた際、落ち着いた様子だったのも不思議ではない。厩舎の初出走は日曜のシーズン開幕日を予定しているが、慌ただしい雰囲気は微塵も無い。

「こうしてスタートできるのがいいところです。以前は多くの馬を抱えていましたが、今は25頭です」とクロフォードは語る。「つまり、1頭1頭に細部まで目を配れる時間が持てるということです。ここではその点がとても新鮮で、本当にうれしいですね」

この伝統行事には、50人以上の馬主に加え、多くのメディア関係者が出席した。バイサンは各厩舎がシーズン開幕の2週間前までに行う恒例の儀式だ。

クロフォードは、オリンピックステーブルの馬房を引き継いだ。以前厩舎を使っていたジェイミー・リチャーズ調教師は開業3シーズン目で22勝まで数字を落としたこともあり、心機一転としてメイン厩舎エリアへ移る選択をしている。

かつてこのオリンピックステーブルズは、一部の元調教師から批判を受けていた。ショーン・ウッズ、アンドレアス・シュッツ、デヴィッド・フェラリスといった歴代の調教師はここに拠点を構えていたが、最低勝利数の基準を満たせず、香港の調教師ライセンスを更新できなかった。

しかしその後、マーク・ニューナム調教師、ダグラス・ホワイト調教師、そして長年のテナントであるマイケル・チャン調教師が、この施設に新たな息吹を吹き込んだ。今では広い馬房と十分なスペースを備えた設計が評価されている。

クロフォードはリチャーズの後任となる機会を逃さず、馬房の窓を改修して馬が外を見渡せるようにし、換気も改善できるよう要望を出した。また、コース入り口までの距離が長い点についても、マイナスではなくプラスに変えていくつもりだ。

「ここの馬房は気に入っていますし、厩舎全体に余裕があって採光がいいのも気に入っています」

「コースまで歩く距離が長い件については、正直なところ、私はその “歩いて小走りで向かう” 過程が結構好きなんです。少し遠いという人もいるのは承知していますが、馬にとっては、調教に入る前にウォームアップして体をほぐす良い時間になると思います。世界のトレセンを見渡しても、コースのすぐ脇で調教しているところは多くありません」

「それに、窓の仕様を変えることは大きなプラスになると考えています。馬が外を見られるようになりますし、換気の面でも良い効果が得られるはずです」

Horse trainer Brett Crawford at Sha Tin
BRETT CRAWFORD (R), ROY CHEUNG / Bai-sun ceremony // Olympic Stables, Sha Tin /// 2025 //// Photo by Idol Horse

この日のバイサンには、キーガン・デメロ騎手、ライル・ヒューイットソン騎手に加え、モーリシャス出身のカリス・ティータン騎手も登場。南アフリカと縁があるチームで、厩舎の門出を祝った。

ティータンは2013年にシャティンへ移る前、南アフリカでトップジョッキーとして活躍。クロフォード厩舎の活躍馬、ジャクソンに騎乗してG1レースを2勝している。

「彼は “馬の声に耳を傾ける” タイプの人です」とティータンは話す。「馬ごとに適性を見極め、回復のプロセスを重視して向き合うのがクロフォード流のやり方です」

「それにロイ・チョンという優秀な助手がいますから、大きな助けになるでしょう。朝の調教で何頭かに跨りましたが、どの馬もとても感触が良かったです」

ティータンが調教で騎乗し、バリアトライアルで好印象を残した1頭には、前走勝ちのスピーディースマーティーがいる。引退したベンノ・ユン調教師の厩舎から転厩してきた同馬は、クロフォードにとって日曜のシーズン開幕日に送り出す初出走馬となる見込みだ。

「ハンデは33ですが、まだ伸びしろがあると感じています。状態は良好です」とクロフォード。厩舎全体の指針としては、初年度に挙げたい勝利数の目標はあえて定めない方針だという。

「私にとって大事なのは、各馬それぞれの “持ち場” で結果を出すことです。たとえば、その馬の力がクラス5相当なら、クラス5でしっかり勝負になるように仕上げることです」

「それが私の鍵であり、それができれば勝利は自然とついてくるはずです。勝利数にノルマは設けませんが、多ければ多いほど良いのはもちろんです」

「要は、毎回の出走で、その馬からベストパフォーマンスを引き出すことに尽きます」

マイケル・コックス、Idol Horseの編集長。オーストラリアのニューカッスルやハンターバレー地域でハーネスレース(繋駕速歩競走)に携わる一家に生まれ、競馬記者として19年以上の活動経験を持っている。香港競馬の取材に定評があり、これまで寄稿したメディアにはサウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ジ・エイジ、ヘラルド・サン、AAP通信、アジアン・レーシング・レポート、イラワラ・マーキュリーなどが含まれる。

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