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ここ数シーズンのいつだったか、デレク・リョン(カーチュン・リョン)騎手がふと香港のジョッキールームを見回したとき、あることに気づいたという。それは「香港人騎手の中では上から2番目の年長者になった」ことだったと、彼は苦笑いしながら話す。

香港の商業地区、コーズウェイベイのヨガスタジオで熱のこもったセッションを終えたリョンは、汗を拭きながら取材に語ってくれた。「でも、老け込んではいません。経験を積んだだけです。まだ37歳、これまで以上に体調はいいですよ」と補足した彼の表情は、不敵な笑みが浮かんでいた。

リョンにとって、競馬の内外で積んだ『経験』こそが彼の強みとなっている。

彼は今、香港競馬史上15人目となる500勝という大きな節目が目前に迫っている。リョンがこれまで歩んできた道のりは、『黄金世代』と称される同世代の香港人騎手たちとの比較の中で語られてきた。

香港の競馬学校では、今もライバルのマシュー・チャドウィック騎手やキース・リョン騎手が同期だった。また、ひとつ下の学年には、現在は厩舎のアシスタントトレーナーを務めるベン・ソー・ティクホン氏が、さらにひとつ下の学年には、ヴィンセント・ホー騎手がいたという。

この5人の騎手たちは、合わせて2,153勝以上を挙げている。なによりも重要なのは、彼らが香港の地元出身騎手に対する世間の認識を変えたことだ。

「僕たちは互いに刺激し合っているんです」とリョンは語る。 「マシューはデビューしてすぐに大活躍しました。その後はヴィンセントがゴールデンシックスティとのコンビで一時代を築きましたね。僕たちはみんな一生懸命に努力し、互いを支え、常に強くなって戻ってきているのです」と話した。

リョンは、この向上心と自己管理が、彼を鋭敏に保っているのだと考えている。

「若い頃よりも今は自分の体をより大切にしています。ヨガ、トレーニング、食事、すべてにおいて、よりプロフェッショナルになりました」

彼の考え方は、育ってきた環境に根差している。九龍地区でタクシー運転手の息子として育ったリョンは、質素な公営住宅に住んでいた。「ごく普通の地元の子どもでした」と彼は当時を振り返る。

「近所の友だちと遊んだり、走り回ったりしていました。そうした経験が、地に足の着いた人間にしてくれたのだと思います」

彼の子どもができたことで、その強固な意志はさらに研ぎ澄まされた。彼はメディアコメンテーターのキティ・リー・キットインと結婚し、2人の幼い子どもがいる。

「子どもができて、より忍耐強くなりました」とリョンは話す。「責任感が生まれます。健康を維持し、お金を稼ぎ、生活費を払わなければなりません。無駄にできる時間はないんです」

37歳になったリョンだが、彼の現役生活はまだ終わっていない。あと5年、いや10年は騎手を続けられると見ている。

「フィジカルもメンタルもいい状態です。ただひたすら、自分の『履歴書』をより良いものにしていきたいんです。もっと勝利数を増やし、願わくばビッグレースももっと勝ちたいですね」

その “ビッグレース” のひとつが、9月28日に中山競馬場で行われるG1・スプリンターズステークスになるかもしれない。リョンはラッキースワイネスの鞍上として参戦する予定となっている。

「彼はとても素晴らしい馬です。ケガから復帰して、レースを走るごとにどんどん良くなっています。もし彼とG1を勝つことができたら、特別な瞬間になることは間違いなしです」

しかし、今のところは次の2勝、そして500勝目に焦点を当てている。そして、彼の『経験』が単なる年齢を意味する婉曲な表現ではなく、彼の強みであることを証明しようとしている。

マイケル・コックス、Idol Horseの編集長。オーストラリアのニューカッスルやハンターバレー地域でハーネスレース(繋駕速歩競走)に携わる一家に生まれ、競馬記者として19年以上の活動経験を持っている。香港競馬の取材に定評があり、これまで寄稿したメディアにはサウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ジ・エイジ、ヘラルド・サン、AAP通信、アジアン・レーシング・レポート、イラワラ・マーキュリーなどが含まれる。

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