2025 G1 フェブラリーステークス: G1レビュー
競馬場: 東京競馬場
距離: 1600m
総賞金: 2億6040万0000円(174万5016米ドル)
フェブラリーSは、日本のG1レースカレンダーの幕開けを飾る一戦であり、多くの馬にとってその年で最初のJRA・G1への挑戦機会となる。
2025年のフェブラリーSでは、異なる意味での新たな幕開けがあった。イギリス出身で現在オーストラリアを拠点とし、日本では短期免許で騎乗中のレイチェル・キング騎手が、この国際G1レースにおいて女性騎手として初めての勝利を挙げたのである。
レース展開
スタートでやや後手を踏んだコスタノヴァは、最後方からの発走となったが、その差はわずかだった。
しかしキング騎手の手綱捌きにより、すぐに加速を見せた。このレースでは、多くの馬がそれぞれのポジションを受け入れ、流れに任せるような走りを見せていたが、キング騎手の積極的なレース運びこそが勝敗を分ける決定的な要因となった。
コスタノヴァは先行勢の背後、6番手で追走。ペースを作ったのは人気薄のミトノオーで、極端に速い展開ではなかったものの、ウィリアムバローズ、サンデーファンデー、エンペラーワケアらが前方でプレッシャーをかける形となった。
コーナーに差し掛かる頃、多くの馬が苦しむ中、コスタノヴァは余裕を持って走り、キング騎手は彼を外4頭分の位置へ導いた。直線に入るや否や、内にいる馬たちを楽々と交わし、あとは後方からの追撃を凌ぐだけとなった。
最後に迫ったのは、内を突いた個性的な走りのサンライズジパングと、大きな支持を集めた1番人気のミッキーファイト。しかし、コスタノヴァは一足先に抜け出し、キング騎手の力強い騎乗によって、3/4馬身差で勝利を収めた。
勝者・コスタノヴァ
2023年末、コスタノヴァは名馬イクイノックスの『前座』のような存在だった。
イクイノックスが圧巻の走りでジャパンカップを制するわずか2レース前、コスタノヴァはリステッド競走のアプローズ賞(ダート1600m)を勝利。この時の鞍上はクリストフ・ルメール騎手で、管理する木村哲也調教師とのコンビは、75分後にイクイノックスで世界的な勝利を挙げることとなる。
しかし、今回のフェブラリーSでコスタノヴァは、もはや前座ではなく、『主役』としての輝きを放った。
コスタノヴァはロードカナロア産駒として11頭目のG1馬となり、ダートG1制覇は2023年のサウジカップを勝ったパンサラッサに次いで2頭目となる。
これで通算10戦7勝。すべての勝利をダートで挙げており、ここ最近は6戦5勝と絶好調だ。

2着・サンライズジパング
わずか2週間前、サンライズジパングは中東遠征を予定しており、土曜日に行われるG2・レッドシーターフハンデキャップ(芝3000m)への出走が計画されていた。
しかし、この決定は突然覆され、管理する音無秀孝調教師(3月4日をもって引退予定)がフェブラリーSへの出走を選択した。
距離、馬場ともに異なる翌日(日曜日)のG1レースを選ぶのは一見奇妙な判断にも思えたが、実際には彼にとってより適した条件だった。
彼は1800mのダートG3を勝利しており、さらにJpn1・ジャパンダートクラシック(ダート2000m)では、後にG1・サウジCを制するフォーエバーヤングの2着に入った実績がある。
その実力を存分に発揮し、最後の直線で鋭く追い込み2着に入った。
なお、音無調教師にとって最後のG1出走となった3頭の管理馬のうち、サンデーファンデーは10着、デルマソトガケはかつての輝きを失い14着に沈んだ。
注目の記録
レイチェル・キング騎手は、JRAの国際G1競走において女性騎手として初の勝利を挙げたが、厳密にはJRAのG1レースを制した最初の女性騎手ではない。
その栄誉は、ニュージーランド出身のロシェル・ロケット騎手が2002年に中山大障害でギルデッドエイジに騎乗し優勝した際に獲得している。
しかし、中山大障害は障害競走であり、国際基準ではG1競走とは見なされていない。そのため、今回のキング騎手の勝利が「JRAの国際G1で女性騎手が初めて勝利した」とされている。
キング騎手は、昨年のアメリカ・ブリーダーズカップで堀宣行調教師の管理馬に騎乗し、既に日本でも注目される存在となっていた。
また、この日の東京競馬場では、堀調教師が管理するケンタッキーダービー候補のルクソールカフェがキング騎手を鞍上に迎え、その才能を見せつけた。キング騎手は、今後アメリカの名門レースであるケンタッキーダービーに出場する可能性もあり、オーストラリア拠点の騎手として初めて同レースに騎乗するかもしれない。

一方、不在の騎手たちは…
香港では、ジェームズ・マクドナルド騎手が土曜日のサウジCでロマンチックウォリアーに騎乗し2着、そのわずか14時間後にG1・香港ゴールドカップ(芝2000m)で勝利を収めた。
しかし、サウジアラビアから東京への距離はさらに遠く、土曜日のリヤドでの騎乗後、多くの日本の騎手たちは日曜日の東京開催に間に合うことはできなかった。
そのため、武豊、川田将雅、坂井瑠星、クリストフ・ルメール、菅原明良、三浦皇成、松山弘平、津村明秀、団野大成、西村淳也といった上位騎手を含む面々は、フェブラリーSに騎乗することが叶わなかった。
彼らのうち6名は2024年のJRAリーディング10位以内に入る実力者であったが、それでも今回のフェブラリーSには国際G1経験を持つ騎手が16名中13名と、非常にハイレベルなレースとなった。
その中でキング騎手は、明らかに卓越した手綱さばきを見せ、日本で現在活躍するトップジョッキーたちと肩を並べる存在であることを証明した。
勝利コメント
レイチェル・キング騎手(コスタノヴァ、1着): 「とても感動しています。女性として初めてG1を勝ったことを誇りに思いますが、それ以上に、日本のファンの皆さんが私を『女性騎手』ではなく、『騎手』として迎え入れてくださったことを誇りに思います。私は常に、騎手は平等であり、同じ扱いを受けるべきだと考えてきました。そうした形で私を受け入れてくださった日本の皆さんに、心から感謝しています」
「コスタノヴァは非常に乗りやすい馬でした。今回が初騎乗でしたが、事前に彼のレース映像をたくさん見て、たくさんのアドバイスもいただきました。今後もG1戦線で活躍できる馬だと確信しています」
木村哲也調教師(コスタノヴァ、1着): 「こういう戦績の馬なので、将来的には種馬になれるような道へ導いてあげないと思っている。距離は1400~1600メートルくらいだと思っている。またファンのみなさんに競馬を楽しんでいただけるような走りを絶えずしていかないといけないと、強く再認識した、そんな1日でした」
この先は?
コスタノヴァはここでひと息入れ、今後のダート戦線へ向けて調整される見込みだ。
一方、2着のサンライズジパングはドバイワールドカップ、またはドバイゴールドカップのいずれかへの登録を済ませている。しかし、音無秀孝調教師の引退により、新たな指揮官のもとで中東遠征をするかどうかの判断が下されることになる。