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歴史を受け継ぐ戦い、チーム・ロマンチックウォリアーの未知への挑戦

ロマンチックウォリアーのサウジカップ挑戦を支えるのは、確固たるチームワークで結ばれたサポートチームの存在だ。世界の舞台で香港を代表する戦いに挑む一方、シャム調教師は遠征競馬のノウハウを次世代に伝承しようとしている。

歴史を受け継ぐ戦い、チーム・ロマンチックウォリアーの未知への挑戦

ロマンチックウォリアーのサウジカップ挑戦を支えるのは、確固たるチームワークで結ばれたサポートチームの存在だ。世界の舞台で香港を代表する戦いに挑む一方、シャム調教師は遠征競馬のノウハウを次世代に伝承しようとしている。

ダニー・シャム調教師は、まるでアイルランドのリーディングトレーナー、エイダン・オブライエン調教師のようになりつつある。オブライエンは、どんな大レースを制した際にも、成功の裏にいるスタッフの名前を一人ひとり挙げて感謝を示すことで知られる。時には、厩舎の猫の名前まで挙げるほどだ。

それと同じように、シャム調教師もロマンチックウォリアーの挑戦について語るとき、常に『チーム』を強調する。調教師が結果を出すには、優秀なスタッフの支えと信頼が欠かせない。シャム厩舎の場合、ヘンリー・チャン、ゲイリー・ラウ、アンディ・ルク、マーカス・チョン、ゲイリー・プーン、トム・シンプソン、そして主戦ジョッキーのジェームズ・マクドナルドの名前が、今回のサウジC挑戦に向けた準備期間中、何度も口にされた。そして忘れてはならないのが、遠征先でロマンチックウォリアーの調教を支えている僚馬、ロマンチックチャームの貢献だ。

このチームの中核メンバーは、昨年12月中旬から香港を離れ、ロマンチックウォリアーとともにドバイ、そしてサウジアラビアでの調整を続けている。

「厩舎のチーム全員に感謝したい」と、シャム調教師はリヤド北部のキングアブドゥルアジーズ競馬場での木曜朝の記者会見で語り、改めてスタッフの名前を挙げてねぎらった。

シャム調教師と妻クリスティを中心とした『チーム・ロマンチックウォリアー』は、今年に入ってすでにドバイでG1・ジェベルハッタを制し、さらなる大舞台への準備を整えている。サウジCの後には再びメイダンを目指し、6月には日本遠征の可能性も示唆されている。過去16ヶ月間でオーストラリアと日本でもG1タイトルを獲得しており、その際にはチームの一員であるベン・ソー氏も現地でサポートしていた。

水曜夜に行われたサウジCのゲート抽選会では、ロマンチックウォリアー陣営に新たなメンバーが加わった。主戦ジョッキー、ジェームズ・マクドナルドの妻であるケイトリン・マリオンさんが、土曜の2000万ドルを賭けた決戦に向けた枠番抽選の役目を担った。彼女が引き当てたのは14頭立ての3番枠。

会場のステージ前方左手に陣取っていたシャム厩舎のチームは満足げな表情を浮かべ、シャム調教師と妻クリスティは、戻ってきたマリオンを温かく抱きしめた。

しかし彼女がステージを降りる前に、家族のロマンチックウォリアーへの思いを語る場面があった。

「私たちには小さな娘が2人いるのですが、彼女たちはロマンチックウォリアーが大好きなんです。オーストラリアの自宅から応援していますよ」

シャム調教師にとって、こうした世界の大舞台で戦うことは初めてではない。彼はかつて、アイヴァン・アラン厩舎の一員として、香港調教馬がまだ国際G1競走に馴染みのなかった1990年代末から2000年代初頭にかけて、海外遠征の最前線に立っていた。

フェアリーキングプローン、インディジェナス、オリエンタルエクスプレスといった名馬たちと共に、国際G1制覇を目指し、世界を転戦した時代である。

Danny Shum and Ivan Allan at Sha Tin for Fairy King Prawn's farewell ceremony in 2003
DANNY SHUM, FAIRY KING PRAWN, IVAN ALLAN / Sha Tin // 2003 /// Photo by Kenneth Chan

2000年にはフェアリーキングプローンが東京競馬場のG1・安田記念を制覇したが、翌2001年のG1・ドバイデューティーフリーでは、ジムアンドトニックの2着に敗れ、悔しい思いも味わった。

しかし、それらの遠征経験はシャム調教師に大きな影響を与えた。彼は、自身が学んだことをスタッフにも経験させたいと考えている。

「遠征競馬は厩舎スタッフにとっても重要な経験になる。個々のキャリアアップにもつながるし、香港競馬のさらなる発展のためにも必要なことだ」と語る。

香港競馬の歴史を切り拓いてきたシャム調教師は、今まさに自身のチームを率い、新たな伝統を築こうとしている。

「香港のために、アシスタントトレーナー、馬房スタッフ、装蹄師たちがこのような経験を積み知識を得ることは非常に重要なことです」とシャム調教師はIdol Horseに語った。

「今回の遠征でやっていることは、次の世代のためでもある。香港の競馬関係者がこれを見て、話し、そして彼ら自身もサウジアラビアや日本、ドバイ、オーストラリアへ行ってみたいと思うようになるだろう。私のチームのメンバーも、将来的にはその知識を持って香港を飛び出し、経験を受け継いでいくことになる。だからこそ、この機会を大事にしたいんです」

現在64歳のシャム調教師は、『現場主義』のトレーナーとして知られる。厩舎の馬たちのケアや調教の細部にまで目を配り、自ら視察に出ることも多い。

ロマンチックウォリアーのサウジC挑戦を決断する前にも、ドバイとサウジアラビアを訪れて施設を確認し、特に話題となっているダートコースの馬場状態を直接歩いて確かめた。果たしてロマンチックウォリアーは適応できるのか……そんな議論が続く中、シャム調教師は慎重に準備を進めてきた。

しかし、彼はすべてを自分だけで管理しようとしているわけではない。チームの力を信じ、円滑なコミュニケーションによって馬の状態を把握している。

「スタッフは全員、何をするべきか理解している」

「馬の写真や動画を撮影し、歩様確認を行い、飼葉の量や馬の体温まで細かく記録する。それらの情報はすべて私、馬主のピーター、そしてジェームズ・マクドナルドにも送られ、チーム全体で共有する。毎日の調教の様子や馬の感触なども報告し、適切な判断を下すために欠かせない情報源になっている。私が現地にいないときは、スタッフの報告は非常に重要です」

そんなチームの中でも、ロマンチックウォリアーの調教を担当するゲイリー・ラウ調教助手の存在は特に重要だ。馬に跨る彼の感覚がシャム調教師の判断を支えており、その手腕は直前の追い切りでも発揮された。

レース4日前、ロマンチックウォリアーが落ち着いたキャンターで直線に向かっていたとき、内側から2頭の日本馬、ウィルソンテソーロとウシュバテソーロが一気に並びかけた。

ロマンチックウォリアーは生粋の競走馬だ。ウィルソンテソーロとウシュバテソーロが内側から勢いよく迫ると、彼の闘争心に火がつき一緒に加速しようとした。しかし、鞍上のゲイリー・ラウ助手は即座に反応し、外ラチ沿いへと持ち出して強めに抑え込み、不必要なエネルギー消費を防いだ。

「日本馬が通り過ぎた時、ロマンチックウォリアーはすぐに競りかけようとしたんです。だから、前の馬の後ろから少し外に出してみたら、彼は『行け』の合図だと思ったんでしょう。普段、自分が騎乗しているときも、引き出して加速させることが多いですから。でも今回は抑えなければならなかった。日本馬が抜けた瞬間、彼はレースモードに入ってしまったんでしょう」とラウ助手はIdol Horseに語った。

現在54歳のラウ助手は、香港ジョッキークラブ(HKJC)に30年以上携わるベテランだ。競馬への関心は母親から受け継いだ。「母は競馬が好きで、少し馬券を買ったりもしていたんだ」と語る。彼はアレックス・ウォン厩舎で見習い騎手としてキャリアをスタートさせ、数年の騎乗経験で1勝を挙げた。しかし、その後は調教騎乗担当の道を選び、ジョン・ムーア調教師、デヴィッド・ホール調教師を経て、ここ5年間はシャム調教師の厩舎で働いている。

「ロマンチックウォリアーは乗りやすい馬ですよ。とても紳士的で、おとなしくて扱いやすい。若い頃は少しやんちゃだったけど、今は本当に落ち着いている。とはいえ、時々少し敏感になることはあるけどね。ただ、彼は決して悪さはしない。ちょっと警戒することはあっても、コントロールはしやすいんです」とラウ助手は説明する。

Romantic Warrior works ahead of the G1 Saudi Cup
ROMANTIC WARRIOR (L), ROMANTIC CHARM / King Abdulaziz Racecourse, Riyadh // 2025 /// Photo by Shuhei Okada

サウジアラビアのリヤドで、そして世界中の競馬ファンが注目している最大の疑問は、ロマンチックウォリアーがダート適性を示せるのかということだ。リヤドのダートコースは、メイダンや北米のダートよりも深く柔らかいため、ペースが遅くなりがちだと言われている。そのため、芝馬でも好走する可能性があるとされている。

シャム調教師は、過去のレース結果や自身のトラック視察を踏まえ、慎重ながらも前向きな姿勢を崩していない。

「ロマンチックウォリアーがダートをこなせることについてはかなり自信はあるが、正直なところ分からない」とシャム調教師は語る。

ラウ助手の見解も同様に、前向きではあるが慎重だ。「香港で調教しているダートとは違う。ここのダートは柔らかい。でも、実際に乗った感触は変わらない。普段と同じように動いている」と述べた。

シャム調教師の脳裏には、かつてフェアリーキングプローンがドバイのダートで苦労した記憶が鮮明に残っている。だからこそ、今回の挑戦が『一度きり』であることに変わりはない。

「ダートは今回限りだ」とシャム調教師は断言する。「二度走るのは負担が大きすぎる。彼には厳しすぎるレースになってしまいますから。それに、もしドバイターフを勝てば、ジェベルハッタのボーナスとして10%の追加賞金がある。約400万香港ドル(約8,000万円)です。それなら、そちらを狙わない手はないでしょう?」

シャム調教師の狙いは、単にサウジカップの1,000万米ドルの優勝賞金や、オーナーであるピーター・ラウ氏のチャレンジ精神を満たすことだけではない。彼は、香港競馬の存在感を世界に示し、過去にアイヴァン・アラン、デヴィッド・ヒル、デヴィッド・オートン、リッキー・イウといった香港の調教師たちが切り拓いた道をさらに広げたいと考えている。

彼は、ロマンチックウォリアーの海外遠征の成功が、香港の馬主やファンに広がり、競馬の国際的な側面への理解を深めることにつながることを願っている。それは、単にレースの結果だけでなく、馬の個性や特徴、そしてそれを支えるチームの存在を知ることにもなる。

「これは非常に重要なことだと思っています」とシャム調教師は、木曜の記者会見後、スタンド前を歩きながら語った。

「今回、私はサウジCに初めて挑戦するという一歩を踏み出した。この挑戦をきっかけに、ほかの調教師や馬主も海外遠征に目を向けてくれることを期待している。我々が成功すればもちろん嬉しいが、たとえ結果が出なくても、誰かがまた挑戦し、香港競馬の国際的な発展につながると思っている」

「ロマンチックウォリアーのような馬と、オーナーのピーター・ラウ氏のような存在がいることで、新たなストーリーが生まれる。それがファンの興味を引き、競馬の話題をより豊かにする。こうした流れが、他の馬主や調教師を刺激し、香港を代表して世界で勝ちたいという思いを持たせるきっかけになればと思っています」

「ファンにとって、こうしたストーリーを知り、それをリアルタイムで体験することは非常に重要です。それは香港ジョッキークラブにとっても大きなプラスになる。香港競馬を知る人が増えれば増えるほど、クラブにとっても、そして香港にとっても良いことですから」

Romantic Warrior works ahead of the G1 Saudi Cup
ROMANTIC WARRIOR, GARY LAU / King Abdulaziz Racecourse, Riyadh // 2025 /// Photo by Shuhei Okada
Danny Shum at Riyadh ahead of the 2025 Saudi Cup
DANNY SHUM / King Abdulaziz Racecourse, Riyadh // 2025 /// Photo by Shuhei Okada

ロマンチックウォリアーの物語は、すでにリヤドに集結した国際的な競馬関係者の間でも話題になっている。その中には、サウジカップで対戦するラトルンロールの指揮官、ケニー・マクピーク調教師の姿もあった。アメリカ競馬界の名伯楽であるマクピーク調教師も、香港のチャンピオンホースについて語らずにはいられなかった。

「ロマンチックウォリアーはユニークな馬だ」とマクピーク調教師は語る。

「私はこれまで数多くのセリで馬を見てきたが、馬の骨格を見てどの馬場が合うのかを見極めるのも仕事の一つだ。彼はアクラメーションの産駒で、その血統にはロイヤルアプローズがいる。これを考えれば、明らかに芝向きの馬と言える。だからこそ、彼がダートでどんな走りを見せるのか非常に興味深い。競馬の面白いところは、優れた馬ならどんな馬場でも走れることだ。これは決して科学的に解明できるものではないが」

シャム調教師とそのチームは、ロマンチックウォリアーがどんな馬場でも走れる名馬であることを証明し、この挑戦がドバイへとつながることを願っている。4月初旬のドバイターフを視野に入れつつ、何よりもダート挑戦を終えて無事に戻ってくることを最優先にしている。すでに10度のG1制覇を果たした名馬であり、これ以上何かを証明する必要はない。

「ロマンチックウォリアーはしっかりとケアしていくつもりです。最優先すべきは、ロマンチックウォリアーが健康でいることです」とシャム調教師は語る。

それでも、馬が万全である限り彼とそのチームは最後まで全力を尽くす使命がある。それは、国際舞台での成功と経験を香港競馬界の次世代へと伝えていくことだ。

「私もベストを尽くすし、チーム全員が全力を尽くす。より多くの人々に香港競馬を知ってもらえれば、それが香港のさらなる発展につながることになるだろう」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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