「再び海外を目指す」ロマンチックウォリアーのオーナーが語る、馬主としての原動力とは

ロマンチックウォリアーの馬主、ピーター・ラウ氏がIdol Horseのインタビューに登場。国内外の目標、世界賞金王のタイトル、そして馬主として追い求める『喜び』について語ってくれた。

「再び海外を目指す」ロマンチックウォリアーのオーナーが語る、馬主としての原動力とは

ロマンチックウォリアーの馬主、ピーター・ラウ氏がIdol Horseのインタビューに登場。国内外の目標、世界賞金王のタイトル、そして馬主として追い求める『喜び』について語ってくれた。

“ピーター・ラウ”こと、馬主のパッファイ・ラウ(劉栢輝)氏は、ロマンチックウォリアーのさらなる活躍を楽しみにしている。

それもそのはず、これまでオーストラリアのG1・コックスプレート、日本のG1・安田記念、そして香港国内での圧倒的な成績によって、すでに歴史に残るチャンピオンであることを証明しているのだ。

オーナーは、4月に達成したG1・クイーンエリザベス2世カップの3連覇に加え、もう一つ3連覇の偉業を追加しようとしている。香港カップの3連覇だ。

そして、調教師のダニー・シャムと相談した上での話になるが、3度目の海外遠征も視野に入る。その差は1520万香港ドルに迫るゴールデンシックスティ(1億6700万香港ドル)を交わして、世界の賞金王に上り詰めることが新たな目標だ。

「私の愛馬が獲得賞金総額の賞金王になればいいなと思っています。充分、射程圏内だと思っています」

「ドバイ、もしくはサウジアラビアへの遠征を考えています」

ラウ氏は海外遠征に積極的な姿勢だが、仮に国内専念になった場合も新たな目標があると説明する。

「香港三冠馬はリヴァーヴァードンだけです。香港カップの後、三冠路線を目指すか、サウジやドバイに行くか決めることになります。彼ももう7歳ですから、レースごとに柔軟に決める方針です」

香港三冠は古い概念であり、これに挑戦を試みる馬は極めて希だ。マイルのスチュワーズカップ、1ヶ月後に行われる2000mのゴールドカップ、そして3ヶ月後に待っている2400mのチャンピオンズ&チャターカップを全て勝って、晴れて三冠達成となる。

Romantic Warrior wins G1 Hong Kong Gold Cup
ROMANTIC WARRIOR / G1 Hong Kong Gold Cup // Sha Tin /// 2024 //// Photo by HKJC

競馬への熱意

しかし、ラウ氏の熱意は流行には左右されない。幼い頃、父親や祖父とともに見たテレビの競馬中継が忘れられない。そのときの思い出を、彼に託している。

そして、輸入業のビジネスで培われた先見の明と戦略的思考も、彼の持ち味だ。輸出入ビジネスで成功し、International Housewares Retail Co Ltdを創業、香港のあちこちで見かけるジャパンホームセンター(日本城)を経営している。

「この会社を創業したとき、2つの目標がありました。1つめは香港証券取引所に上場させること、2つめは馬主資格を取得することでした。2013年、この2つを同じ年に叶えることができました」

水曜日の午後3時30分、ラウはZoomを使ってIdol Horseのインタビューに応じてくれた。この日の2日後にはシーズン終了後の表彰式を控えている。彼は、愛馬のロマンチックウォリアーがゴールデンシックスティとの争いを制して、自身初の年度代表馬(香港馬王)に選ばれることを期待している。

34度の真夏日だったが、数時間後にはハッピーバレー競馬場で行われる開催に足を運ぶという。67年間、生涯の大半を費やした競馬というスポーツを今でも楽しんでいる。

「馬券が買える年齢になる、ずっと前からやっていました。毎週末のようにテレビの競馬中継を見て、画面の中のヒーローを応援していました。トニー・クルーズやゲイリー・ムーアはベッカムやペレのような存在でしたし、ジョージ・ムーア厩舎はマンチェスター・ユナイテッドに見えました。私にとって、スポーツ界のアイドルは彼らです」

「トニー・クルーズは若手時代から見ていました。ゲイリー・ムーアと騎手タイトルを争っていた頃は、最高の時代でした。当時の競馬は今以上に香港の大きな娯楽でしたし、レース当日の競馬場は満員を表す赤旗が掲げられることもありました。入場するには数時間前から並ぶ必要があります。本当に大きなイベントでした」

Tony Cruz and Co-Tack
TONY CRUZ, CO-TACK / Hong Kong Champions & Chater Cup // Sha Tin /// 1984 //// Photo by C. Y. Yu

ラウ氏の競馬愛と思い出は、彼の馬主としてのスタイルに現れている。まず第一にスポーツマンであり、積極的なチャレンジ精神を持っており、それを行動と財政面の両方で支えるタイプの馬主だ。2017年の香港インターナショナルセールで、一頭の馬に1050万香港ドルの大金を投じて話題になったり、最近ではエイダン・オブライエン厩舎のキャピュレットを非公開ながら大金と見られる額でトレードした。

海外遠征という険しい道

昨年、国内専念という安定の選択肢を捨てて、ロマンチックウォリアーが未知の要素である海外遠征に挑戦すると決まったときも、彼の信念に揺るぎはなかった。

近年、香港の多くの馬主はチャンピオンクラスの馬を海外の厳しい環境に連れて行くことに消極的だ。ビューティージェネレーションが最後まで海外遠征しなかったことも、その例の一つだ。しかし、ラウ氏は挑戦を楽しみ、チャンピオンホースが果たすべき責任とレガシーを理解している。

「こんな素晴らしい馬と出会えるのは、一生に一度かもしれません。もし、香港だけに留めておくなら、それは国内大会で金メダルなのにオリンピックを辞退するようなものです」

「このチャンスを逃したら、いつまたこのような機会が訪れるか分かりません。香港の賞金が高いレースを3つ勝ちましたし、もちろんまた勝ちたいです。しかし、それは海外遠征を取りやめる理由にはなりません。リスクは承知の上ですが、そのリスクは取るべきだと思います」

昨年のコックスプレート制覇について、ラウ氏はこう振り返る。

「まるで複雑な長編映画のような展開でした。最初は困難が待ち受ける酷い展開でしたが、最後はそれを乗り越えてハッピーエンドでした」

Romantic Warrior wins the Cox Plate
ROMANTIC WARRIOR / G1 Cox Plate // Moonee Valley Racecourse /// 2023 //// Photo by Jay Town

国内最後のバリアトライアル(実戦形式の調教)が台風で中止になったこと、当初は食べ慣れた飼料を与えられず馬体重が減ったこと、ターンブルSで敗れたこと、序盤は多くの苦難が積み重なった。

しかし、そこから調子を取り戻し、ムーニーバレーでは気迫の走りを見せた。陣営は負けを覚悟したが、写真判定の末に勝っていたときの喜びを思い出しながら語ってくれた。

他にも、香港ダービーや2度の香港カップ制覇など思い出はいくつもあるが、その中でも6月の安田記念勝利が一番印象に残っていると、ラウ氏は明かした。

「オーストラリア遠征ではこの舞台でも勝てるんだぞという、彼の力を証明したいという思いが強かったです。ですが、日本では古い友人に会いに行くという意味合いもありました」

「40年以上にわたって日本とのビジネスを展開をしてきましたし、日本人の友人も数多くいます。日本で勝つということは、より多くの意味を持っています。そして、日本の競馬ファンも大好きです。とても熱心に競馬を観ているし、日本のメディアも競馬を熱心に報道してくれます」

ラウ氏は日本で買った競馬新聞を取り出して、カメラの前で見せてくれた。表面と裏面に、ロマンチックウォリアーとジェームズ・マクドナルド騎手の安田記念勝利を報じる記事が大きく掲載されていた。

「この勝利は交友関係の面でも、競馬場の雰囲気の面でも、最大級の嬉しい瞬間でした。もちろん、安田記念は競馬界の重要なレースですから、私にとって最も幸せなレースと言えます」

Romantic Warrior Yasuda Kinen
CHRISTINE SHUM, DANNY SHUM, JAMES McDONALD, PETER LAU, SUKI TANG / G1 Yasuda Kinen // Tokyo Racecourse /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

馬主としての人生

それでも、ラウ氏の馬主人生が順風満帆だったかと問われると、決してそうではなかった。

初めての所有馬、キングオブハウスホールド(King of Household)は25戦して未勝利。2番目の所有馬、ハウスホールドシェフ(Household Chef)も6戦1勝。香港インターナショナルセールにて、1050万香港ドルで落札したハウスホールドキング(Household King)に至っては、2戦1勝のあとは一度も出走できなかった。

現在はロマンチックヒーロー(Romantic Hero)という所有馬もいるが、11月にデビュー戦を走って以降は脚部不安で休養入りしている。

「これが競馬というものです。3週間後にもう一度検査をして、ロマンチックヒーローが調教に復帰できるか判断します。無事を祈っています」

その一方で、クールモアの元所有馬で、英ダービー前哨戦のリステッド・ディーSを勝ったキャピュレット(Capulet)に対しては、かなり期待を寄せているという。この馬は香港の競馬ファンが集うネットの掲示板で、既に注目の的になっている。

「キャピュレットという馬名はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』が由来とのことですが、それはこの馬を買った後に知りました」

ラウ氏はそう説明し、冠名の『ロマンチック』から連想してこの馬を選んだという説を否定する。

「馬名は新しく名付けましたが、まだ香港ジョッキークラブからの承認が下りていないので、発表は後日になります。ただ、その馬名を予想しているサイトがあって、数日前に見たら一人当てていたんですよ」

Capulet and Ryan Moore
CAPULET, RYAN MOORE / The Boodles Raindance Dee Stakes // Chester Racecourse /// 2024 //// Photo by Alan Crowhurst

彼の代理人、スタンダードブラッドストックのエリック・ジー氏が、キャピュレットの取引を仲介した。現在はスキー・タン・シャンファン氏と共同所有しているという。

また、シャム調教師への感謝も語ってくれた。高額な取引である以上、一つでも多くの情報を集めたかったというラウ氏の意向を耳にして、この馬の主戦騎手だったライアン・ムーア騎手に連絡してくれた。

「ライアンはこの馬について、1000ワードに及ぶ詳細なレポートを送ってくれました。その内容はほとんどがポジティブな内容だったため、購入を決めることができました。4歳クラシックシリーズを目指すことができれば、嬉しいですね」

「私のモットーは、悪い馬を買うよりも、良い馬を間違った価格で買った方がマシという考え方です。良い馬を高値で買っても、私は気にしません。時にはコストパフォーマンスの良い馬を手に入れられる機会があるかもしれませんが、私は投資の回収を求めているわけではありません。『喜び』に投資しているんです」

この喜びを追求する姿勢こそが、ラウ氏の馬主人生を創り上げてきた。道なき道を進み続ける彼の開拓精神も、ここから来ている。

もちろん、大金を投じることができる財力があり、チャンピオンホースに巡り会うという幸運にも恵まれてきたのだろう。

しかし、彼の喜びを追い求める原動力は、スポーツへの真摯な姿勢と、生涯をかけて愛してきた競馬のロマンなのは間違いない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

デイヴィッド・モーガンの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録