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2024 有馬記念: G1レビュー

競馬場: 中山競馬場
距離: 2500m 
総賞金: 10億8500万0000円 (693万4900米ドル)

有馬記念はまさに世代交代を象徴するレースだった。今年の年末の大一番は木村哲也厩舎のレガレイラが勝利、60年を超える月日を経て、3歳牝馬が再びこのレースを制した。

前年勝ち馬のドウデュースは金曜日の段階で出走取消。レースは主役を失ったかのように見えたが、事前に予想されていた『戴冠式』のような様相から一転、多くの馬にチャンスが巡ってくる面白い展開へと変わった。

最終的にゴール前まで競り合ったのはサンデーレーシングの2頭、若き才能のレガレイラとベテランのシャフリヤール。写真判定の末、レガレイラにハナ差で軍配が上がった。

鞍上の戸崎圭太騎手は、10年前に同じサンデーレーシングの勝負服を身にまといジェンティルドンナを引退レース優勝に導いたが、今回の勝利はそれ以来となる自身2度目の制覇。シャフリヤールにとっては引退レースとも目されていたが、有終の美を阻む形となった。

レース展開

レースは違っても、トレンドは変わらない。最初の1000mが60秒を大きく上回る異例のスローペースが相次いでいた日本競馬の秋シーズンG1だったが、今回も例外ではなかった。最初の1000mを62.9秒で通過すると、残り1600mから1400mまでの1ハロンは13.3秒という驚異的な遅いタイムを記録した。

コックスプレート2着のプログノーシスは、またしてもスタートに失敗。彼がスタートに成功したのは前走のムーニーバレーが唯一だったが、皮肉なことに、当時のレースはゆっくりと後ろから進めた方が有利な展開だった。

アーバンシック、ローシャムパーク、レガレイラもスタートは少し遅めだったが、すぐにリカバリーして中団の位置に付ける。一方、息子の横山和生騎手が騎乗したベラジオオペラ、父の横山典弘騎手が騎乗したダノンデサイルは逃げ争いを繰り広げる。最終的にはダノンデサイルがハナを奪う展開となり、菊花賞では見られなかった積極策での競馬となった。

レガレイラはスターズオンアースとディープボンドに挟まれる位置で5番手。シャフリヤールは中団に位置取り、内から3頭分の外側を走っていた。

向こう正面では馬群が凝縮し、残り800m地点ではダノンベルーガを除く全馬が6馬身以内に集まる大接戦となる。レガレイラは手応え良く上がってきたが、密集した馬群をいかに捌けるかが勝負の鍵となっていた。一方、クリスチャン・デムーロ騎手のシャフリヤールは大外を豪快に回って、中山の短い直線に入っていく。

逃げるダノンデサイルの失速とともに、勝負は2頭の争いに切り替わる。ジャスティンパレスやローシャムパークなどの後方勢も鋭く末脚を伸ばしたが、時すでに遅く、差し届くまでには至らなかった。

The field crossing the line in the Arima Kinen
REGALEIRA / G1 Arima Kinen // Nakayama /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

勝者・レガレイラ

レガレイラは3歳牝馬としては異例の道を歩み続けていた。有馬記念で歴史的な快挙を成し遂げたのも、この馬なら不思議ではない。

昨年、シンエンペラーを破ってG1・ホープフルステークスを制したが、同じサンデーレーシングのチェルヴィニア、アスコリピチェーノ、クイーンズウォークらに牝馬クラシックを譲る形となり、自身は牡馬クラシックに挑戦。皐月賞ではジャスティンミラノの6着、ダービーではダノンデサイル相手の5着に終わった。

同世代の牝馬と戦った秋華賞トライアルのG2・ローズステークス、古馬牝馬との初対戦だったG1・エリザベス女王杯では、いずれも勝ち馬には届かず掲示板止まり。惜しい結果に終わっていた。

父のスワーヴリチャードはジャパンカップの勝ち馬。父の初年度産駒からは2頭のG1馬が誕生しており、もう一頭は近親馬でもあるアーバンシックだ。牝系を辿っていくと、ディープインパクトの母であるウインドインハーヘアに行き着く。

調教師の木村哲也にとっては2022年のイクイノックス以来となる優勝、騎手の戸崎圭太は10年ぶりの有馬記念優勝だった。

Regaleira after winning the Arima Kinen
REGALEIRA / G1 Arima Kinen // Nakayama /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

2着馬・シャフリヤール

シャフリヤールの前回の勝利は1000日以上前、正確には1001日前まで遡る。2022年のアラビアンナイト、メイダン競馬場で行われたG1・ドバイシーマクラシックが最後の勝利だ。

それ以降、ロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズステークスで4着、ジャパンカップでは2着、BCターフでは2年連続の3着、今年のドバイシーマクラシックは2着と、世界の舞台で上位争いを演じてきた。

手応え良く最終コーナーを回って直線に入ってきたとき、これ以上ない有終の美かと思われた。しかし、大外の15番枠というロスは最後まで響き、その影響はハナ差の2着という結果に表れていた。

彼が現役を続けるか、引退するかはまだ決まっていない。しかし、幾度となく敗北から立ち上がり、日の丸を世界の舞台で掲げてきた名馬であることは間違いない。

3歳世代の活躍

レガレイラ、ダノンデシル、アーバンシックは、それぞれ1着、3着、6着と健闘し、今年の3歳世代が古馬に引けを取らない実力を持っていることを証明した。

3歳世代はこれまで、シンエンペラーとチェルヴィニアがジャパンカップで2着・4着、ステレンボッシュが香港ヴァーズで3着と好走を続けている。

2025年以降の古馬戦線、彼らが主役を担っていくことだろう。

Danon Decile after running third in the Arima Kinen
DANON DECILE / G1 Arima Kinen // Nakayama /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

ターフを去る競走馬たち

シャフリヤール(2着)、スタニングローズ(8着)、スターズオンアース(14着)といった馬たちの去就については、まだ判断が下されていない。ただし、5歳牝馬の2頭はこれを最後に繁殖入りすることが確実視されている。

スターズオンアースは2022年の牝馬三冠最初の2戦(桜花賞・優駿牝馬)を制覇したが、三冠達成を狙った秋華賞ではスタニングローズが勝利し、歴史的快挙を阻んだ。

その後、スタニングローズは今年のエリザベス女王杯も制した。一方、その後のスターズオンアースはG1で入着を4回果たすなど善戦を見せたが、勝ち切れずに終わった。

さらに、ディープボンド(13着)もこれを最後に引退、京都競馬場で誘導馬となることが決まった。

ディープボンドはフランスのフォワ賞も含めてG2を4勝を挙げ、G1では7回も4着以内に入る活躍を見せたが、惜しくも悲願のG1タイトルには手が届かなかった。

馬券売上

日本では、今年の有馬記念の売上が550億円(約3億5200万米ドル)を超え、昨年比で5億円(320万米ドル)増加した。さらに、香港で500万米ドル超、その他の地域でも500万米ドル程度が投じられ、総売上は3億6200万米ドル(567億円)を上回った。

参考までに、イギリスのグランドナショナルは今年が約3億1400万米ドル、ミスティックダンが勝ったケンタッキーダービーは2億1070万米ドル、そしてメルボルンカップの売上ピークは2020年の約1億4000万米ドルだ。

有馬記念が『世界で最も馬券が売れるレース』であることの裏付けである。

The Arima Kinen is the biggest betting race in the world
REGALEIRA / G1 Arima Kinen // Nakayama /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

スローペース

日本のレースは通常、速い展開で知られているが、今年のトップレベルのレースにおいては極端にペースが遅い傾向が目立った。しかも単に落ち着いたペースという程度ではなく、驚くほどのスローペースだった。

イクイノックスの現役時代にはパンサラッサの存在があったし、近年はキセキのようにレースを引っ張る馬がいることで、常に速いペースが形成されていたのかもしれない。

願わくば、来シーズンの3歳世代の中から先行脚質の馬が出てきて、2025年のビッグレースにスピード感を与えてほしいところだ。

データ

レガレイラは有馬記念を制した2頭目の3歳牝馬となったが、これは驚くべきことに1960年以降、初めての快挙である。

これまで有馬記念に挑戦し、勝利を逃した3歳牝馬には、初代三冠牝馬のメジロラモーヌを始め、ファインモーション、ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタといった一流馬が名を連ねている。

勝利騎手コメント

戸崎圭太騎手(レガレイラ、1着): 「本当にレガレイラに感謝したいと思います。スタートが鍵だと思っていて、少し出遅れたと感じましたが、その後の二の脚も良くて、スムーズなポジションとリズムで追走することができました。ホームストレートでの反応は良かったですが、隣の馬とも接戦だったので、気持ちで負けないようにと思って追っていました」

「(勝ったかはすぐに分かったか?)分からなかったです。勝利が分かった瞬間、心の底から嬉しさがこみ上げてきました。オーナーさん、調教師、スタッフの皆さんに感謝したいです」

「(2014年のジェンティルドンナ以来の勝利)長い年月が空いてしまいましたが、また勝てて嬉しく思いますし、さらにまた頑張りたいなと思います」

Keita Tosaki claimed his second Arima Kinen win
KEITA TOSAKI / G1 Arima Kinen // Nakayama /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

この先は?

レガレイラは、次走を中東で迎える可能性が高い。2025年最初のレースは、4月上旬に行われるG1・ドバイシーマクラシックとなる見込みだ。もしシャフリヤールが現役を続行するのであれば、2頭の再戦はドバイワールドカップデーの目玉の一つになるかもしれない。

レースリプレイ: 2024 有馬記念

アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの国際担当。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。

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