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世界最高峰としての復権へ、ジャパンカップにヨーロッパのスターが帰還

国際競走として設立されたジャパンカップだったが、近年は国内のスターホースが主役だった。しかし、今年はヨーロッパの王者、オーギュストロダンとゴリアットが来日を果たした。

世界最高峰としての復権へ、ジャパンカップにヨーロッパのスターが帰還

国際競走として設立されたジャパンカップだったが、近年は国内のスターホースが主役だった。しかし、今年はヨーロッパの王者、オーギュストロダンとゴリアットが来日を果たした。

ついに、ジャパンカップにヨーロッパの真の王者が帰ってきた。

なんとも新鮮な味わいだ。オーギュストロダンとゴリアットの来日は、かつてジャパンカップが創設時の役割を果たしていた時代を思い起こさせる。つまり、トップクラスのG1馬が次々と日本を訪れ、日本勢の高い壁として君臨していた時代のことだ。

エイダン・オブライエン厩舎のオーギュストロダンは、これまでのキャリアでG1レースを6勝している。英愛ダービー、BCターフ、愛チャンピオンS、プリンスオブウェールズSの計6勝である。

2011年のジャパンカップで6着に入った、同年の凱旋門賞馬で後のキングジョージ勝ち馬、デインドリーム以来となるG1タイトルの数だ。実に10年以上ぶりとなる、大物実績馬の来日が実現した。

今週、ライアン・ムーア騎手はメディアの取材に対して「オーギュストロダンは昔のジャパンカップを制したヨーロッパの名馬に近い存在だ」と語ったが、まさにその通りと言える。

JRAも真のスターが来日したことに対して、感謝と安堵の意を隠さない。ディープインパクトの息子であるクールモアのオーギュストロダンだが、レース直後に東京競馬場で引退式が執り行われることになった。通常、JRAでの引退式は日本のスターホースが対象のため、外国馬の引退式が開催されるのは史上初の出来事だ。

AUGUSTE RODIN, RYAN MOORE / G1 Breeders’ Cup Turf // Santa Anita Park /// 2023 //// Photo by Keith Birmingham

一方、フランシス・グラファール厩舎のゴリアットの来日も実現した。キングジョージ勝ち馬の参戦は、2009年のウオッカが制したジャパンカップで4着に入ったコンデュイット以来となる。

キングジョージでのゴリアットは、後の凱旋門賞馬であるブルーストッキングやBCターフを制したレベルスロマンス、そしてオーギュストロダンらを撃破している。ヨーロッパのこの路線ではこれ以上ない実績だ。

破格のボーナス

今年のジャパンカップは、JRAにとっても重要なレースだ。大物外国馬の来日という流れを取り戻すため、これらの2頭のうちどちらかは好走してくれることを期待していることだろう。

ジャパンカップが迷走を始めてから、かなりの年月が経つ。外国馬の来日は減り、その質も全体的に低下した。JRAは2017年に『報奨金』制度を増額し、指定された国際競走を勝った馬がジャパンカップを勝つと得られるボーナスを200万ドルに倍増させた。

しかし、それでも効果は薄かったため、外国馬が対象のボーナスを300万ドルに増額、ヨーロッパのトップホースを招致すべくインセンティブ制度を拡充している。ジャパンカップそのものは日本のチャンピオンホースたちの共演が見られる素晴らしいレースであるものの、本来の役割を果たせなくなりつつあるという危機感はここに現れていた。

今年、上記の2頭のほかには、ドイツのチャンピオン牡馬であるファンタスティックムーンも参戦する。勝てば350万ドルの1着賞金に加え、300万ドルの追加ボーナスが手に入る。2着ならば120万ドル、3着で75万ドル、4着以下でも20万ドルと、それぞれ豪華なボーナスが用意されている。

Goliath and Christophe Soumillon win the King George VI
GOLIATH, CHRISTOPHE SOUMILLON / G1 King George VI And Queen Elizabeth Stakes // Ascot /// 2024 //// Photo by Steven Paston

ジャパンカップの役割

1981年に創設されたジャパンカップは、世界中の競馬界の目を日本競馬に向けさせることを目的として設立され、海外から一流馬たちを招待し、日本国内のトップホースと対戦させるレースだった。海外の競馬先進国が誇る強豪馬たちと競い合い、日本競馬の発展を確かめる場としての意義があった。

2000mの天皇賞秋と、年末のグランプリ有馬記念の間に挟まれる時期に開催されるジャパンカップは、国内の競馬番組を盛り上げるという意味でも一役買っていた。しかし、それらと一線を画す魅力として、国際レースという異色の意味合いがあった。

レースが始まると、その試みはすぐさま成功した。第1回はアメリカのメアジードーツが勝利し、第2回も同じくアメリカのハーフアイストが勝利。第3回はアイルランドのスタネーラが1着で駆け抜けた。その後、1984年と1985年は日本のカツラギエースとシンボリルドルフが制したが、11回までに外国馬が9勝するという目論見通りの結果となった。

外国馬の不振

それから先は、日本馬と外国馬が台頭に競い合う時代に突入する。日本馬が3連勝の次は、外国馬が4連勝。さらに日本馬が4連勝したかと思いきや、外国馬が勝利。2005年にはイギリスのアルカセットが日本馬の連勝を2でストップしたが、それ以降は外国馬の勝利がなく、日本馬の18連勝が続いている。

この状況は、21世紀に入ってからの日本馬の中距離での強さが大きな要因だ。この18年間の勝ち馬リストには、ディープインパクト、アーモンドアイ、コントレイル、ジェンティルドンナ、キタサンブラック、イクイノックスといった名馬が名を連ねている。

Kitasan Black wins 2017 Japan Cup
KITASAN BLACK, YUTAKA TAKE / G1 Japan Cup // Tokyo /// 2017 //// Photo by Lo Chun Kit

それと同時に、外国馬の出走数と質も低下の一途を辿っている。特に過去11年間はその傾向が顕著だ。

1995年から2005年にかけて、外国馬は73頭がジャパンカップで出走し、年間平均で6頭が来日していた。その間に外国馬は4勝、それ以外にも3着以内の入着は7頭いた。2006年から2023年までの18年に絞ると、外国馬の来日は僅か57頭。勝ち馬は0頭、3着以内も2006年のウィジャボードただ一頭のみだ。年間平均で見ると、外国馬の出走は1年につき3頭まで減ってしまった。

過去11年の来日馬は27頭で年間平均は2.5頭未満、最高着順はグランドグローリー、アイダホ、ドゥーナデンの5着となっている。4頭が出走した2018年以降、外国馬の参戦は2頭、0頭、1頭、3頭、3頭、1頭と低調に推移している。

21世紀が進むにつれて、外国馬の質は著しく低下している。ヨーロッパからはシングスピール、エリシオ、ファンタスティックライト、モンジュー、ファルブラヴ、ウィジャボードが、香港からはインディジェナス、北米からはチーフベアハートやジョハー、オーストラリアからフィールズオブオマーが参戦していた時代と比べると、その傾向は明白だ。

Singspiel wins the G1 Japan Cup
SINGSPIEL, FRANKIE DETTORI / G1 Japan Cup // Tokyo /// 1996 //// Photo by Anton Want

ジャパンカップに来た外国馬でビッグタイトルのG1を制した馬は、2012年の凱旋門賞を制したソレミアが最後だ。しかし、ロンシャンの重馬場にて番狂わせで制したG1が唯一のタイトルだったその成績を考えると、その1年前のデインドリームが最後の大物と言えるだろう。それ以降に参戦した馬は、どれもチャンピオンどころか、スターホースにも及ばないレベルの馬が多くを占めていた。

イスパーン賞やパリ大賞のような穴場のG1を制したり、ドイツの『重馬場』のG1レースを制して獲得したタイトルにも価値はある。しかし、凱旋門賞やキングジョージ、BCターフのようなレースとは比較にならないのは確かだ。残念なことに、後者のようなタイトルを持つ馬はジャパンカップから長らく遠ざかっている。

強力な日本勢

オーギュストロダンやゴリアットは過去の栄光を彷彿とさせるが、それでも地元勢は手強い強敵だ。イクイノックスのような馬は今年の日本馬にはいないが、強豪G1馬のドウデュース、3歳世代牝馬のスターであるチェルヴィニア、ドゥレッツァ、シンエンペラー、ブローザホーンといったメンバーが揃っている。

Do Deuce wins G1 Tenno Sho Autumn
DO DEUCE, YUTAKA TAKE / G1 Tenno Sho Autumn // Tokyo /// 2024 //// Photo by Shuhei Okada

地元勢は決して軽視できない。そして、オーギュストロダンのG1レース6勝という実績も軽視はできない。だが、今年に入って5戦1勝という成績からは、彼の卓越した輝きの中に脆さが垣間見える部分でもある。端的に言うと、無敵のチャンピオンというわけではないことの現れだ。

フランスの騸馬、ゴリアットはより未知数の存在である。ここまで2連勝中だが、東京競馬場はこれまで経験したことのない馬場だ。多頭数での競馬も今回が初、この馬にとって正念場の一戦となるだろう。

その結果に関わらず、正真正銘のヨーロッパのトップホースがジャパンカップに帰ってきたことは歓迎すべき出来事だ。世界最高峰の馬が集結するレース、かつてJRAが望んでいたような光景を取り戻すための希望となるだろう。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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