2024 宝塚記念: G1レビュー
競馬場:阪神競馬場
距離:芝2200m
賞金総額:4億7520万円(約360万米ドル)
乱ペース、そして雨が降ってトリッキーな状態となった馬場。日本のG1レースでは異例とも言える展開が揃った今年の宝塚記念だったが、勝ち馬のブローザホーンもまた『異例』の存在と言えるだろう。
今年からこの馬を預かることになった48歳の若手調教師・吉岡辰弥と、23歳の若手騎手・菅原明良にとっては、これが初めてのG1勝利だった。そして、ブローザホーンが歩んできた異色の経歴も特筆すべきものがある。
ブローザホーンは当初、定年で引退した中野栄治厩舎に所属していた。初勝利までに9戦かかり、ちょうどこの時期に函館の未勝利戦で記念すべき1勝目を挙げた。しかしその2年後、重馬場巧者に向いた天候と菅原騎手の好騎乗が合わさり、京都のこのレースで待望のG1初制覇を挙げた。なお、宝塚記念は阪神で開催されるが、改修中のため京都での開催となった。
ブローザホーンに敗れた多くの馬は、重馬場で苦戦を強いられた。その中には、凱旋門賞への参戦を取り沙汰されている人気馬のドウデュースも含まれていた。
レースは中盤で雨が強まり、出走馬と観客は滝のような雨に打たれた。この雨は馬場を悪化させただけでなく、レース前半の視界の悪さにも影響していた。
レース展開
今回の菅原騎手は機転を利かせた好騎乗が光ったというよりも、難しい状況の中でいつもの騎乗を見せる冷静さが印象的だった。これが勝利の鍵となったのだろう。
レース前日と当日、京都とその周辺地域は豪雨に見舞われていた。レース前には一部の地域に洪水警報も発令されていた。このようなコンディション下では、戦術の重要度が増してくる。
ブローザホーンと菅原騎手は13頭立ての12番枠からスタートすることになったが、思い返せば悪い枠順ではなかったのだろう。今日はより良い馬場を求めて外を回す馬が相次いでおり、コーナーを回るたびに外へと膨れていた。
レースでは常に外側を回っており、残り1200m地点ではほぼ最後方の位置で追走していた。向こう正面の上り坂を過ぎた辺りで、進出を開始した。この瞬間、ペースが緩んでいたのだ。800m過ぎからの2ハロンは25.4秒、1200m過ぎからの2ハロンは25.1秒だった。
一方、単勝2.3倍で1番人気のドウデュースに騎乗していた武豊騎手は、ブローザホーンと共に動くという選択肢もあったが、イン側に留まることを選択した。
2024 宝塚記念: レース映像
レース後コメント
菅原明良騎手「この馬場、悪い馬場でも馬が頑張って走ってくれたのがポイントかなと思います。第4コーナー回ってくるときもとても余裕があって、手応えがあったので、追って伸びてくれたなと思って追い出しました。凄く良い脚で、とても気持ちよかったです」
敗れた人気馬
ドウデュースは2022年の凱旋門賞に挑戦しているが、この時は重馬場に苦しんで自分の競馬をできなかった。それもあって、人気馬ながらこの馬場状態が最大の懸念点と見られていた。
今回は敗因が明確な敗北だった。菅原騎手が動いたとき、近い位置にいたドウデュースも外に持ち出すことは可能だったが、イン側で待機を選択。結果、荒れた馬場での戦いを強いられた。
ドウデュースの6着という着順は、状況を考えると意外と悪くない結果なのかもしれない。しかし、凱旋門賞での勝利という目標を叶えたいのならば、当日のロンシャンが今日の京都よりマシな馬場であることを祈るしかない。
名誉挽回の兆し
ソールオリエンスの復活、そして大阪杯勝ち馬のベラジオオペラが前走に引き続き強さを見せたことも、このレースの見どころだった。2023年のクラシック世代は「弱い世代」というレッテルを貼られているが、それの反論材料となるだろう。
この弱い世代という評価は、タスティエーラの不調も大きな要因だった。日本ダービーの勝利以降は4戦走るも勝ち星が遠のいており、今年に至っては2戦とも着外に終わっている。
ベラジオオペラは2023年のダービーで4着に入り、今シーズンは好調を維持している。今回もタフなレースで3着に粘り込み、強さを見せつけた。年末のビッグレースでも、有力な存在として数えられるだろう。
ソールオリエンスは皐月賞で驚異的なパフォーマンスを見せたものの、その後は6戦未勝利。今年の2戦も不甲斐ない内容で敗れていた。この馬が今回好走したのは重馬場巧者のおかげなのか、それともあの話題を呼んだ皐月賞馬が復活したのか。議論を呼びそうだ。
今後は?
このレースを見ていたオーストラリアの競馬ファンは「メルボルンカップへどうぞ!」と考えていたかもしれないが、どうやら国内専念のようだ。秋のジャパンカップ、そして年末の有馬記念を目指す可能性が高い。
前走から4kg増えているが、ブローザホーンの馬体重は428kg(994ポンド)しかない。吉岡調教師はレース間隔を空けた方が良いと考えているようで、次走は10月に京都競馬場で行われる2400mのG2・京都大賞典ではないかと思われる。