「フューチャーチャンピオンズフェスティバル」と呼ばれるこの開催では、ニューマーケットで金曜と土曜の2日間に渡って、注目の2歳戦が組まれる。初日は牝馬のG1・フィリーズマイル、翌日は英国の2歳王者を決めることも多いG1・デューハーストステークス、どちらも将来への期待に満ちた2歳戦だ。
クラシックを狙える素質馬が早くも頭角を現すと、秋の欧州競馬界は期待に沸く。未来のスター候補たちは、その走りで2歳馬としての評価をさらに高めていく。
1875年に始まったデューハーストSでは、第1回から第4回までの勝ち馬がいずれも翌年のクラシックを制した。重要な一戦としての評価は早くから定まり、歴代の勝ち馬も実に豪華だ。
今年のデューハーストSは7頭立てとなり、そのうち6頭をゴドルフィンとクールモアが所有する。残る1頭は、カタールの馬主が所有するジェントルハリケーンだ。
ゴドルフィンの筆頭格は無敗馬のデザートキャッスル。すでに来年の牡馬クラシック初戦、G1・英2000ギニーの本命に推されている。
クールモアからは、G1・ゴールデンフリースステークス制覇のダークネスフォールズと、G2・コヴェントリーステークスを制したグレートバリアリーフが有力だ。デューハーストSは勝ち馬の種牡馬としての評価を高める一戦だけに、どの馬が勝っても期待はさらに膨らむだろう。

しかし、2歳戦だけでは王者にはなれない。ニューマーケットの宣伝文句が示すとおり、ここで語られるのはあくまで「未来の王者」だ。真の王者と呼ばれるには、十分に成長し、実力を証明した馬たちと競い、打ち負かす必要がある。
先週日曜のG1・凱旋門賞で目にしたのは、まさにそれだった。競走馬としての絶頂期にあり強さを発揮した4歳馬のダリズが、さまざまな世代、国から集まった、レース運びにたけ、幾多の戦いをくぐり抜けた一流馬たちを突き放した。
日本競馬では、世代を代表する3歳牡馬が4歳になっても現役を続け、5歳まで走ることも珍しくない。
一方、欧州の競馬界ではスター級の牡馬を3歳で引退させることが長く一般的だった。2歳で引退する例さえある。種付け料による収入の魅力があまりに大きく、敗戦や故障のリスクを避けたい思いも、引退の決断を早めてしまう。種牡馬としての価値を守らなければならない、というわけだ。
だからこそ、ダリズを3歳シーズンの後も現役に留める決断を下した、ザラ・アガ・カーン王女と同馬の陣営に、競馬界とファンは感謝すべきだろう。同じ決断をする人は少なかったはずだ。過去を振り返れば、故アガ・カーン殿下自身であれば、おそらく1年前にダリズを種牡馬入りさせていただろう。
それだけに、ダリズのフランシス=アンリ・グラファール調教師が語った言葉は興味深かった。日曜の凱旋門賞制覇後、「この馬で3勝目を狙わせてもらえたらと思うのですが、おそらく許してはもらえないでしょうね」と同師はコメントした。
グラファール師には、ダリズとともに凱旋門賞三連覇を挙げたいという願いがあった。だが、それは叶わぬ夢だろうとも感じていた。
それでも、ダリズが凱旋門賞を連覇した数少ない牡馬の一頭となったことは間違いない。偉大な王者が一段抜けた存在になるのは、4歳馬でも走り、馬齢差による斤量の利を若い馬に与えながら、クラシック世代の馬たちよりも強いと示したときだからだ。

デューハーストSの長い勝ち馬一覧を眺めれば、ニューアプローチ、シャマーダル、ロックオブジブラルタル、ペニカンプ、ザフォニック、ジェネラスといった名が目に飛び込む。これでも過去35年の勝ち馬にすぎない。
さらに歴史を遡れば、エルグランセニョール、グランディ、そして歴史に名を残したニジンスキーも勝ち馬の一覧に存在する。
だが、おそらくニジンスキーを除けば、デューハーストSの勝ち馬の中でも、フランケル、ミルリーフ、ベイヤード、ハイペリオン、オーモンドほど際立つ馬はいない。それはなぜか。その5頭は、クラシックシーズン後も走り続け、不動の王者としての地位を確立したからだ。
ミルリーフを除く4頭は、4歳になっても若い馬より重い斤量を背負う条件で競い、3歳時・4歳時の戦績を結ぶとともに、世代をまたぐ力関係を測る手がかりとなった。4歳での走りによって強さと輝きを改めて示し、その物語を豊かにして伝説をさらに確かなものにした。ファンが彼らに親しみ、愛したのもそのためだ。
ミルリーフも4歳初戦から2連勝したが、故障によりそれ以上の機会を奪われた。「もし現役を続けていたら、どうなっていたか」という問いは、消えるか、少なくとも小さくなった。
傑出した3歳馬が引退するとき、「もう証明することは何もない」とよく言われる。だが、それは空虚な言葉だ。
4歳シーズンでも現役を続け、成熟した競走馬として3歳時の高い水準を維持できることを示してほしい。精神面でも揺るがず、歴史上の偉大な牡馬のほとんどが到達した基準を満たしてほしい。
ダリズは、そうした王者の一頭であることを証明した。競馬というスポーツにとっても喜ばしい。2度の凱旋門賞制覇と、4歳の春から秋にかけて見せた輝きによって、その名は記憶に残るだろう。すべての馬主やオーナーブリーダーが、ザラ王女のように馬を走らせることを大切にしてくれたら、と願わずにはいられない。
今現在の夢は、今年のデューハーストS覇者が「未来の王者」という呼び名に応えることだ。しかし、最も望ましく、競馬界に必要なのは、その牡馬が4歳でも走り続け、王者としての地位を疑いようのないものにすること。
そして何より、競馬への関心が薄れつつあるこの時代に、競馬ファンを惹き付け続けることだ。
世界の競馬場から
前年の米三冠馬アファームドと、この年に3歳のスターとなったスペクタキュラービッドは、1979年10月6日のジョッキークラブゴールドカップで、最初で最後の対戦を果たした。
注目を集めた対戦結果は、4歳馬のアファームドが3/4馬身差で勝利。アファームドは競走馬として初めて生涯獲得賞金200万米ドルを超え、この年の米年度代表馬にも選ばれた。
イタリア競馬が誇る名王者のリボーは、1956年10月7日に凱旋門賞連覇を達成。16戦無敗で引退した。
セクレタリアトは1973年10月8日、芝12ハロンのマンノウォーステークスに出走。5馬身差の圧勝で駆け抜けた。

世界の注目馬リスト
今週の注目馬は、先週日曜にアイルランドのカラ競馬場で行われたレースから選んだ。ブラックベアード産駒の牝馬、パイレートアンボニーだ。
パディ・トゥーミー調教師が管理する同馬は、前月にネース競馬場の6ハロン戦で見どころのある2着に入り、2戦目となる7ハロンの未勝利戦に臨んだ。初戦では残り2ハロンで先頭に立ったものの、プレッシャーを受けると幼さを見せ、左右にふらついた。
今回はそうした様子はなかった。ただ、見た目にはまだ若さがあり、成長の余地も大きそうだ。ビリー・リー騎手を背に鋭くゲートを出ると、耳を立てたまま逃げ切り、強く追われることなく楽々と6馬身半差をつけた。馬場は軟らかく、相手関係もおそらく手薄だったが、その勝ち方はさらなる飛躍を予感させる。
血統にも注目したい。パイレートアンボニーは名門モイグレアスタッドの牝系に属する。祖母のサファイアはG1で入着し、G2・英チャンピオンズフィリーズ&メアズステークスを制した。
サファイアは長距離王者のキプリオス、G1・プリンスオブウェールズステークスを制したフリーイーグル、G1・愛セントレジャーを2度勝ったサーチフォーアソング、G2を勝ったカスタムカット、チェスターカップ勝ち馬のファルコンエイトの半兄弟に当たる。
これほどの顔ぶれを輩出した繁殖牝馬はポリッシュトジェム。その母はG1・愛1000ギニー勝ち馬のトラステッドパートナーだ。
父ブラックベアードはG1・モルニー賞とG1・ミドルパークステークスを制した一流馬だが、2歳シーズンを終えると現役を退いた。産駒にスピードを伝える種牡馬だが、パイレートアンボニーはマイルにも問題なく対応できるはずで、来春には英1000ギニーを狙う牝馬へ成長するかもしれない。
ワールドレーシングカレンダー:今後の注目レース
フィリーズマイル・デー
ニューマーケット(英国)、10月9日
エイダン・オブライエン調教師は、53年の歴史を持つフィリーズマイルで最多の7勝を挙げ、過去3年でも2勝している。今年は月曜の出走確認の段階で12頭中6頭が残り、出走馬の半数を占める可能性がある。
ただし、今年のバリードイル勢はやや小粒に見え、その中ではダンドーク競馬場の未勝利戦を勝ったヘイヴンが最も有力だろう。ゴドルフィンの無敗馬ミュージカルタイムズは、前走のG2・メイヒルステークスを鮮やかに勝ち、1番人気になりそうだ。
エド・ベセル調教師が管理するローグパッションは、前走のフランスG2でアミュージングリーを破った。そのアミュージングリーは先週末、G1・ジャンリュックラガルデール賞で牡馬を難なく退けている。
アンドリュー・ボールディング調教師が管理するフォービドゥンファイアは、前走のリステッド競走で、デューハーストS出走候補のロックモントリオールを下した。
デューハーストステークス・デー
ニューマーケット(英国)、10月10日
デューハーストステークスは、ゴドルフィンとクールモアがほぼ一騎打ちの構図をつくる。両陣営とも3頭ずつ登録を残した。
ゴドルフィンの筆頭格は、チャーリー・アップルビー調教師が管理するデザートキャッスル。前走のG2・シャンペンステークスを勝ち、現在はG1・英2000ギニーの本命に推されている。
クールモアの有力候補は2頭。エイダン・オブライエン調教師が管理するG1・ゴールデンフリースステークス覇者のダークネスフォールズと、G2・コヴェントリーステークスを制したグレートバリアリーフの名前が挙がっている。
アップルビー師は過去7年でこのレースを3勝。オブライエン師は通算8勝で、うち6勝を過去13年に挙げている。
アンドリュー・ボールディング師は昨年を含む過去4年で2勝し、ゴドルフィンとクールモア以外で唯一の出走馬、ジェントルハリケーンを送り出す。馬主はカタール王族のアラヌード・ビント・ハマド・アル・サーニ夫人だ。
過去にこのレースを制したロジャー・ヴェリアン調教師も、ゴドルフィンのロックモントリオールを出走させる可能性がある。
マイトアンドパワーステークス
コーフィールド(オーストラリア)、10月10日
1886年に始まったこのレースは、以前はコーフィールドステークスと呼ばれ、伝統的にコックスプレートへ向かう2000メートルの前哨戦だ。
ゴールデンイーグルへ向かうスター牝馬、シーザアリバイが出走予定。初めてマイルを超える距離に挑む。
相手には、G1・ドゥームベンカップでこの距離への適性をすでに示し、前走のG1・アンダーウッドステークスを勝ったバードマンがいる。もう一頭の一流牝馬、トレジャーザモーメントも出走を予定している。