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凱旋門賞を勝ちたい。武豊騎手は、この願いを長年掲げ続けてきた。32年前、3番人気のホワイトマズルで6着に終わった初挑戦から、これまでに11回も凱旋門賞に騎乗している。しかし、今年のパートナーはあまり注目されていない。

メイショウタバルや、もう1頭の日本馬アドマイヤテラに関心がないわけではない。日本馬はフランス最高峰の一戦に長く挑みながら、いまだ勝利に届いていない。パリではいつも報道陣の注目を集める。それでも欧州のオッズを見る限り、今年こそ悲願が叶うと考える人は少ないようだ。

レースまで4日を切った時点で、英国のブックメーカーが付ける凱旋門賞の前売りオッズはメイショウタバルが34~41倍、アドマイヤテラが51倍となっている。

今年の2頭は、過去に凱旋門賞へ挑んだ日本の超大物たちのような存在ではなく、前評判もさほど煽り立てられていない。

さらに、日本の平坦で時計の出やすいコースを離れ、より軟らかい芝と起伏のあるコースで欧州の強豪に挑む難しさも、いまでは広く知られている。そうした事情が、この日本馬たちに対するオッズにも表れている。

昨年のクロワデュノール、ビザンチンドリーム、アロヒアリイが勝てなかった。さらに過去を振り返れば、ディープインパクト、オルフェーヴル、ドウデュース、タイトルホルダー、キズナ、ゴールドシップ、ヴィクトワールピサ、メイショウサムソンといった名馬も届かなかった。

今年だけ違う結果になると、そう言い切れる根拠は弱い。

Orfevre defeated by Solemia in the Arc
SOLEMIA (L), ORFEVRE / G1 Prix de l’Arc de Triomphe // Longchamp /// 2012 //// Photo by Kenzo Tribouilllard (AFP via Getty Images)

だが、57歳の武豊騎手は、凱旋門賞に挑める機会が残り少ないことも覚悟している。メイショウタバルと挑戦する待望の舞台、注目度の低いこの馬が歴史をつくる可能性もある。

思い出したいのは、当時、伏兵と見られていたナカヤマフェスタだ。2010年の凱旋門賞、23倍の評価で臨み、勝ったワークフォースにアタマ差の2着。日本馬が勝利に最も近づいた一戦だった。

ナカヤマフェスタは日本のトップレベルで安定した成績を残していたわけではないが、パリでの激走の4カ月前、雨の影響を受けた馬場で行われることも多い初夏のグランプリ、G1・宝塚記念を制していた。

メイショウタバルにも成績の波はある。しかし、宝塚記念を2度制しており、連覇となる2勝目を挙げた4カ月前の馬場も渋っていた。

凱旋門賞を4日後に控え、フランスギャロがシャンティイで開いた記者会見で、武豊は「凱旋門賞はやっぱり特別なレースですし、今まで良い結果残せてないんですけど、いつか勝ちたいという気持ちをずっと抱いているレースです」と話した。

「今回、またこうやってチャンスをもらえて、非常に今は嬉しく、誇らしく思います」と武豊は続けた。過去に騎乗した馬たちも念頭にあったのだろう。中でも思い起こされるのは、ディープインパクトで3着に入線しながら、失格となった一戦だ。

メイショウタバルが凱旋門賞を目標に定めたのは、昨年の夏の終わりだった。故・松本好雄氏と、息子で現在の馬主である松本好隆氏が、2025年は国内で経験を積ませ、2026年秋の海外遠征につなげる方針を決めた。

5歳馬のメイショウタバルは9月22日にシャンティイ入りしたが、最初の週に行った主要な追い切りは、武豊にも石橋守調教師にも物足りなく映った。

石橋師は「先週、ロンシャン競馬場に運びまして追い切りしたんですけど、その追い切りは僕は動画でしか日本で見なかったんですけど、正直ちょっと物足りないなという気持ちではありました」と話した。

「普段、日本では豊君を調教に乗せてないんですけど、あえて乗ってもらうようにしました。実際乗った瞬間に、僕が見る限り、ちょっと馬がピリッとしたんで、いい方向に向いてるなと思いました」

「そして最終追い切り見たんですけど、これで先週よりかなり動けてるなという印象を受けたので、追い切り自体はうまくいったと思います」

レゼルボア調教場の芝直線コースで行われた追い切りについて、武豊も石橋師と同じ見方を示した。メイショウタバルは鞍上が強く促すまでもなく、先行する併走馬を落ち着いた走りで難なくかわした。

「調教で乗ったのは今日が実は初めてなんですけど、先週の私も映像でですけど見た感じが、少し動きが重いのかなという印象があって。石橋さんと僕が話して、少しスイッチ入れていいよというのが、今日の調教の意図としてはあったと思います」

「それが、ギャロップ行く段階で、自分が思ってたより『戦闘モード入ってるな』という感覚だったので、今日はもうそんなに強く追うこともなく馬が走ってくれたというか、改めていい馬だなと思いました。動きもすごくよかったです」

石橋師は、JRAの重賞実績が豊富なトレーナーというわけではない。元騎手の石橋師が2014年に栗東で開業して以来、重賞を勝った管理馬はメイショウタバルだけだ。13シーズンの通算勝利数は194勝で、最多は2023年と2024年の各23勝となっている。

凱旋門賞に挑めるほどの馬を管理することなど「夢にも思わなかった」と石橋師は振り返る。

Yutaka Take and Meisho Tabaru win the 2025 Takarazuka Kinen
MEISHO TABARU, YUTAKA TAKE / G1 Takarazuka Kinen // Hanshin /// 2026 //// Photo by Shuhei Okada
Yutaka Take has won a Group race in Japan in each of the 40 years he has been riding
YUTAKA TAKE, ADMIRE TERRA / G2 Hanshin Daishoten // Hanshin /// 2026 //// Photo @kenta11312

一方、友道康夫調教師は数々の一流馬を手がけてきた。過去に凱旋門賞へ挑んだ日本馬、ドウデュースとマカヒキも友道厩舎が世に送り出した日本ダービー馬だ。

友道師が管理するアドマイヤテラは、メイショウタバルより1日早くシャンティイの調教場で追い切りを決行。クリスチャン・デムーロ騎手を背に、芦毛の馬体が朝もやの中を駆け抜けた。

デムーロは現地での調教を、「調教ではアドマイヤテラに2回乗りました。1回はロンシャン競馬場で、こちらの指示にとてもよく応えてくれました」と振り返る。

「昨日の朝も乗りましたが、本当に状態は良かったです。ロンシャンでの最初の追い切りからさらに良くなり、今は最高の状態です。日曜日の凱旋門賞はうまくいくよう祈っています」

ただ、アドマイヤテラは凱旋門賞を勝てば、大きな衝撃が走る一頭だ。5歳の同馬は2400mを超える距離で特に好走しており、今年は芝3000mのG2・阪神大賞典を制し、芝3200mのG1・天皇賞春で3着に入っている。

メイショウタバルは一方、凱旋門賞と同じ2400mを走ったことがない。2200mを超える距離への唯一の挑戦は昨年12月のG1・有馬記念、芝2500mで、結果は振るわず13着だった。

それでも武豊はメイショウタバルの凱旋門賞挑戦に自信を持っている。逃げることの多いこの鹿毛馬を、馬群の中でじっと控えさせるつもりもない。

「今までのメイショウタバルのレースは先頭走ったり、先行からというレースでいい結果出ているので、基本的にはそこは考えています」

「ただレースなので、何があるかわからないし、他の馬もいることなので、決めつけないで乗りたいなと思っています。そんなに簡単にいくレースとは思っていないので、いろんなパターンを考えて乗りたいなと思っています」

メイショウタバルの前には、手ごわい相手が立ちはだかる。昨年の凱旋門賞馬で、時には真の王者になる片鱗を見せてきたダリズ。さらに、欧州の芝約2400mのもう一つの大舞台、定量戦のG1・キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制した強豪牝馬のカルパナもいる。出走馬の顔ぶれは間違いなく強力だが、絶対的な存在はいない。

2008年、武豊は皐月賞と日本ダービーを制したメイショウサムソンに騎乗し、凱旋門賞で10着に終わった。石橋師にとってメイショウサムソンは、騎手時代に乗った最高の馬だった。皐月賞、日本ダービー、天皇賞春の勝利を含む18戦連続で手綱を取り、その後、騎乗は武豊へと引き継がれた。

今度は石橋師と武豊が、メイショウタバルとともに凱旋門賞へ挑む。日本を代表する騎手にとっては12度目の挑戦だ。長年、武豊にも日本の競馬関係者にも届かなかった勝利をつかめば、まさに夢のような結末となる。

だが、この男の言うように、これは競馬だ。何が起こるか、最後まで分からない。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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