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松山弘平騎手は、タイトルを追い求める者のような話し方はしない。

彼の話に耳を傾けていると、焦点は常に数字や順位、あるいは野心といったものから逸れ、よりシンプルな、跨っている馬やレースの直前および最中に築かれる関係性へと戻っていく。

これは、騎乗する際に何が最も重要かと問われた際に、松山が明確に言葉にする哲学である。彼は先週、Idol Horseの取材に次のように語った。

「やっぱり色んな馬がいるので、馬それぞれ性格だったり個性が違うので、そこは自分がこうしたいとかそういうのにあまりはめないと言いますか。そういう馬もいるっていうか、その馬に合った騎乗をしたいなとも思いますし、少しでも馬の気持ちをわかってあげたいなとは思いますね」

静かなるエリートとしての道を歩んできたその姿勢が、言葉にも表れている。2025年のJRAシーズンが幕を閉じようとしている今もなお、彼の展望はその姿勢が形作っている。

残り1週となり、松山はクリストフ・ルメール騎手と戸崎圭太騎手に次ぐ、JRAリーディング3位で終える可能性が高い。 2021年に記録した自己最高位に並ぶものであり、安定感と騎乗数に裏打ちされたシーズンの成果が数字に結びついている。

松山は2日の開催を残して126勝を挙げており、2021年に記録した自己最多の130勝に迫っている。 今シーズンは突発的な結果ではなく、これまでの継続した傾向の延長線上にある。6年連続での100勝達成、そしてタフさに裏打ちされた仕事の積み重ねである。

Idol Horseの取材に対し、リーディング順位について問われた松山は現実的だった。

「そうですね、もうあと1週なので、正直1位っていうのは難しいと思いますし、このままなのかなとは思います。上位の二人は本当にすごい方たちですので、1位2位は当然と言いますか……すごい方たちですね」

今年の前半、一時的に順位表のトップに立った時でさえ、“リーディングジョッキー”というタイトルに目移りすることはなかったという。

「リーディングについては、意識はないかなと思いますね。自分がそんなに取りたくて取れるものではないですし、リーディングなんて」

この視点は、松山がこれまで成功をどのように捉えてきたかと一致している。 2017年の皐月賞をアルアインで制したJRA・G1初勝利から、2020年のデアリングタクトによる歴史的な無敗の牝馬三冠に至るまで、彼が自らの功績を語ることはほとんどなかった。

「そこに関しては、自分っていうより馬が、馬にたくさん本当に感謝ですかね」

今月初め、阪神競馬場で行われたG1・阪神ジュベナイルフィリーズ。松山騎手はスターアニスとのコンビで勝利を収め、自身のJRA・G1通算7勝目を挙げた。それは力任せではなく、忍耐と感触を重視した騎乗であった。

序盤は無理をさせず、外を回って進路を確保すると、勝負どころで馬の伸び脚を信じて追った。騎乗数と安定感が際立つ今シーズン、松山にとってさらなる瞬間が今後も訪れることを予感させる勝利であり、キャリアの新たなハイライトとなった瞬間だった。

Kohei Matsumaya celebrates after winning the NHK MIle Cup on Panja Tower
KOHEI MATSUYAMA, PANJA TOWER / G1 NHK Mile Cup // Tokyo Racecourse /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada
Kohei Matsumaya after winning the NHK MIle Cup on Panja Tower
KOHEI MATSUYAMA, PANJA TOWER / G1 NHK Mile Cup // Tokyo Racecourse /// 2025 //// Photo by Shuhei Okada

その考え方は、彼の騎乗スタイルそのものにも当てはまる。松山はIdol Horseの取材に、レースにおいて自分を押し付けるのではなく、ペースや気性、感触に合わせていくことを好むと語る。

そのアプローチの原点は幼少期にある。松山が初めて競馬に興味を持ったのは、小学校4年生の時だった。その後、阪神競馬場の乗馬センターに通い始め、黄金世代の馬たちの走りを見てこのスポーツに魅了された。

「僕が競馬に興味を持ち始めて、やっぱり好きだったのはスペシャルウィークだったりとか、そのあたりがやっぱりすごく好きでしたね。サイレンススズカ、本当にその世代ですね、グラスワンダーとか」

現在35歳、デビュー17年目を迎えた松山は、今年に入って節目を次々と超え、名手としての地位を不動のものにしてきた。今年初めにはJRA通算1万3000回騎乗を史上最速・最年少で達成し、8月にはJRA全10場重賞制覇という数少ない騎手の仲間入りを果たした。

今年、その歩みに深く関わったもう一頭の馬が、パンジャタワーである。シドニーで行われたゴールデンイーグルでは5着と敗れたが、松山の信頼が揺らぐことはなかった。このコンビは、今年初めの重賞勝利や貴重な海外遠征など、重要な瞬間をともに歩んできた。

「4年ぶりにG1勝たせていただいたんですけれども、オーストラリアもそうですし、色んな経験をさせてもらっていますね。全10場もそうですし、色んなことを叶えてくれてる馬だなとは思っています」

海外遠征についても、結果だけで判断するのではなく、その過程に価値を置いていると彼は付け加えた。

「海外については、色んなところで騎乗したいなというふうには思うんですけれども、ランドウィックなんかはやっぱりすごくいい競馬場だったので、また行く機会があったらいいなとは待ってますね」

大きな見せ場はまだ控えている。有馬記念では、このレースがラストランとなるタスティエーラに騎乗する。松山はこの機会について、気負うことなく穏やかに語る。

「最後に有馬記念でタスティエーラに騎乗させていただくっていうのは本当に嬉しいことですし、最後に有終の美を一緒に飾れたら嬉しいなとはおもってます」

ビッグレースを目前にしても、松山の視線は上昇することよりも、むしろ前進することへと向けられている。来年の目標は謙虚で具体的であり、彼らしいものだ。

「来年の抱負としては、今6年連続で年間100勝させていただいているので、目標として、やっぱり来年も続けていきたいなというふうには思っていますね」

タイトルの話も、大げさな宣言もない。ただ、新たなシーズン、新たな馬たちとの出会い、そして彼をここまで連れてきた不変の指針があるだけだ。松山弘平にとって、どの順位で終わるかは決して重要なことではない。

常に、すべては馬のためなのである。

上保周平、Idol Horseのジャーナリスト。日本、海外問わず競馬に情熱を注いでいる。これまでにシンガポール、香港、そして日本の競馬場を訪れた経験を持っている。

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マイケル・コックス、Idol Horseの編集長。オーストラリアのニューカッスルやハンターバレー地域でハーネスレース(繋駕速歩競走)に携わる一家に生まれ、競馬記者として19年以上の活動経験を持っている。香港競馬の取材に定評があり、これまで寄稿したメディアにはサウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ジ・エイジ、ヘラルド・サン、AAP通信、アジアン・レーシング・レポート、イラワラ・マーキュリーなどが含まれる。

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