2025 菊花賞: G1レビュー
競馬場: 京都競馬場
距離: 3000m
総賞金: 4億3400万0000円 (約284万0844米ドル)
単勝3.8倍の1番人気に推されたエネルジコが、3歳世代の頂点へと駆け上がり、G1・菊花賞(3000m)を制した。鞍上のクリストフ・ルメール騎手、管理する高柳瑞樹調教師、そして父のドゥラメンテにとっても大きな意味のある勝利でもあった。
2021年に早逝したドゥラメンテは、現役時代にG1・皐月賞とG1・東京優駿という牡馬二冠を制したが、三冠達成のかかった菊花賞は故障により挑むことができなかった。
種牡馬としてのキャリアは、わずか5世代に限られた。それでもドゥラメンテは、タイトルホルダー(2021年)、ドゥレッツァ(2023年)、そして今回のエネルジコと、3頭も菊花賞馬を送り出している。
なお、2番人気で2着のエリキングとの着差は2馬身差だった。
勝ち馬・エネルジコ
エネルジコは2月のセントポーリア賞(1800m)を含むデビュー3連勝を飾り、4月のG2・テレビ東京杯青葉賞(2400m)を最後に一旦の小休止。高柳瑞樹調教師は「さらなる成長と成熟が必要」と判断し、その後は休養入りとなった。
そして、8月のG3・新潟記念(2000m)で復帰戦を迎えると、古馬相手の一戦で2着に入り、いきなり存在感を示した。そのうえで迎えた今回の菊花賞が、エネルジコにとってのG1初挑戦であり、その舞台でいきなり鮮烈なインパクトを刻んだ。
勝利騎手・ルメール
クリストフ・ルメール騎手にとって、今回の勝利は菊花賞5勝目であり、さらに菊花賞3連覇となった。これで彼は、武豊騎手と並んで菊花賞の最多勝騎手となり、かつ史上初となる同レース3年連続制覇を達成した。
これはルメール騎手にとって、先週に続くG1制覇でもある。先週の秋華賞ではエンブロイダリーに騎乗して勝利しており、いずれもシルクレーシングの勝負服での戴冠となった。
そして来週、日曜日のG1・天皇賞秋では、東京優駿2着馬の実績を誇る3歳馬のマスカレードボールに騎乗し、3週連続のG1制覇という偉業に挑む。

勝利調教師・高柳瑞樹
エネルジコでの勝利は、高柳瑞樹調教師にとって3度目のG1タイトルとなった。さらに、そのG1勝利はすべてクラシックレースで挙げたものだ。
高柳調教師は、スターズオンアースを2022年に桜花賞と優駿牝馬の牝馬二冠に導いている。
さらに今回の勝利は “高柳家” の快進撃も際立つ。高柳師の弟・高柳大輔調教師は、4月の皐月賞をミュージアムマイルで制覇しており、高柳兄弟は日本の牡馬クラシック三冠のうち、二冠を分け合ったかたちとなった。
高柳瑞樹調教師は、管理馬を積極的に海外へ送り出してきた実績も持つ。スターズオンアースをドバイシーマクラシックに遠征させ、トウシンマカオを香港スプリントに送り込んだのは昨年のことだ。エネルジコもいずれ海外遠征の候補になるかもしれない。
敗れた馬たち
オーストラリアのG1牝馬・ヤングスターの初仔であるエリキングは、川田将雅騎手の手綱で、京都競馬場という小回り気味のコース形状の中、外を回らされるロスの大きい競馬を強いられ、エンジンがかかるまでに時間を要した。それでも後方近くから豪快に脚を伸ばし、2着に突っ込んだ。
エキサイトバイオは、G1初挑戦ながら人気以上の健闘を見せ、3着に粘り込んだ。今野貞一調教師が管理するエキサイトバイオは、6月のG3・ラジオNIKKEI賞(1800m)を福島で制しており、最後は鋭く追い込んできたゲルチュタールをわずかに抑え、3着を死守した。
ミラージュナイト(6着)とコーチェラバレー(7着)は、いずれも後方からじわじわと脚を使って追い上げた。一方で、マイユニバース(13着)とショウヘイ(14着)は支持を集めながらも、道中は好位で流れに乗っていたものの、中盤以降で脚が上がってしまい失速した。
レース後コメント
クリストフ・ルメール騎手(エネルジコ・1着):
「菊花賞3連覇は信じられません。長い距離のG1ですし、勝つのは難しいレースですが、毎年強い馬に巡り会っています」
「今年はスタミナがある馬に乗りましたから、スムーズな競馬で勝つことが出来ました。良い末脚を使ってくれました。スタートがあまり上手ではないので、今日は後方からの競馬を考えていました。長い距離なので挽回の時間はありますし、1周目では後ろから我慢していきました。向正面では武豊騎手の後ろに着け、良いポジションを確保できました」
「少しづつポジションを押し上げていって、最後は長く良い脚で伸びてくれました。京都に住んでいますので、京都でG1を勝つのは特別です。2週連続でG1を勝てたのは凄いことですね」
川田将雅騎手(エリキング・2着):
「素晴らしい状態で競馬場に来ることができました。精一杯走って、頑張ってくれましたが、前に強い馬が一頭いましたね」
荻野極騎手(エキサイトバイオ・3着):
「かなり気負っていましたが、レースでは自分から動く競馬できて、強いところを見せてくれました。気持ちが落ち着いてくれば、さらに良くなると思います」
坂井瑠星騎手(ゲルチュタール・4着):
「馬の状態は良かったですし、折り合いも問題なかった。初の一線級相手で、積極的に動いていきたかったですが、動きたいところで動けませんでした」
松山弘平騎手(ジョバンニ・8着):
「スタートで出遅れ、流れに乗れませんでした。良いポジションでのレースができなかった」
岩田望来騎手(ショウヘイ・14着):
「3000mはこの馬には長すぎました。適性距離ではなかったので、折り合いにも苦労しました」
今後は?
エネルジコとエリキングは、京都で示した “重馬場での強さ” を、今後の海外遠征、特にフランス遠征につなげることができるだろうか。
日本馬は、凱旋門賞で重い馬場に苦しむケースが多い。ただし、今回の京都競馬場は公式には稍重扱いだったものの、レース前の大雨で馬場がかなり柔らかい状態になっており、これは来年の凱旋門賞に向けた格好の試走となり得る。
さらにエネルジコは、ロンシャン競馬場で結果を残してきたタイプに多い、小柄で取り回しの利く体型でもある。来年のパリの大一番に挑むには、まさに適したプロフィールなのかもしれない。
その前に、12月の有馬記念が次の標的として視界に入ってくるはずだ。