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イギリスのホリー・ドイル騎手は今冬、香港で7週間の短期免許を取得する。冬の恒例だった日本滞在ではなく、香港に11月から参戦する決断に至った経緯について、本人は悩ましい選択だったと振り返る。

「日本は大好きです。ここ2年の冬は日本で騎乗してきましたし、素晴らしい経験でした。なので、私にとっては本当に難しい決断でした」

「それでも、香港はここ数年間ずっと騎乗機会を与えてくれて、親切にしてくれました。一度挑戦してみたいなと思った理由はそれです」

キャタリック競馬場の地元開催で取材に応じたドイルは、難しい胸中をIdol Horseに語ってくれた。

「日本でも短期免許資格はまだクリアしていたので、どちらを選ぶかは本当に悩ましい選択でした。2年前に来日したときは手応えの良いシーズンを送れましたが、昨年は『まあまあ』といった感じで。できるだけ多くの国で騎乗して経験を積みたいと思いますし、香港はその中でもトップクラスの場所です」

ドイルは2022年のJRA初参戦で2勝、2023年には12勝、そして2024年11月から翌年1月にかけての日本滞在では6勝を挙げた。いずれの短期免許も、夫のトム・マーカンド騎手が同時期にJRAで騎乗しており、マーカンドはそれぞれ17勝、20勝、21勝の成績だった。

今回の決断により、夫妻は年明けにそれぞれの海外騎乗を終えて母国に戻るまで、一時的に別行動となる。

「これまではトムと日本に同時に行っていました。でも今回は、同じタイミングで同じレースの騎乗依頼を “取り合う” のではなく、別々で乗るべきだと考えましたし、そう思ったんです」

欧州の女性騎手としてはトップクラスの一人であり、G1制覇の経験も複数回ある彼女にとって、香港は馴染み深い舞台だ。ハッピーバレー競馬場のインターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ(IJC)には2020年から参戦しており、IJCで勝利した初の女性騎手という栄誉も手にしている。

また今年2月、相次ぐ落馬事故により香港の騎手が急減した際には、香港ジョッキークラブ(HKJC)の “SOS” に応じてシャティンとハッピーバレーの2開催に騎乗。ジミー・ティン厩舎のビリオネアシークレットで勝利を収めるなど、香港通算成績は24戦4勝としている。

「香港では運にも恵まれてて結果が出ていますが、これまでは1日や2日だけのスポット参戦がほとんどでした。現場のシステムをきちんと経験したことはまだありません。だから今回は、どう回っているのかを学びたいのです」と、ドイルは香港独特の厳しさにも言及した。

「騎手の立場から言えば、かなり厳しい舞台です。今回の私は違いますが、通常、騎手は自分で営業をかけて騎乗馬を確保します。現地の騎手たちは3週間先まで騎乗予定が埋まっていることもありますから、私はそこに入り込んで、何とか良い馬に乗せてもらえるように動くことになります」

28歳のドイルは、今回が初の本格的な短期免許参戦となるため、HKJCのリエゾン(調整担当)チームの支援を受けて、騎乗馬の確保を進めることができる。

「私は軽量で乗れますし、これまで何度か乗りに行っているので、調教師や馬主の皆さんにも名前を覚えていただけていると良いのですが。現地に入ってみれば分かりますし、うまくいくには運も必要です。限られた短い期間ですから、最大限頑張りたいと思っています」

先月、ドイルはイマド・アルサガル氏からの専属騎乗契約を突如として打ち切られ、話題となった。彼女は同氏が所有するナシュワに、引退するまでの全17戦で騎乗し、ファルマスSとナッソーSではG1勝利を挙げていた。

Hollie Doyle wins on Nashwa
HOLLIE DOYLE, NASHWA / G1 Prix de Diane // Chantilly /// 2022 //// Photo by Julien De Rosa

同じくG1馬のブラッドセルも昨年限りで引退となり、今季のイギリスでは “看板級” の一線級に恵まれていない。それでも7月のグッドウッド開催では、ウィットネススタンドとのコンビでG2・レノックスS(HKJCとWorld Poolが看板スポンサー)を制し、自身の存在感を示した。

「勝ち星という数字だけ見れば今季は70勝ですから、悪くはありません。ただ、以前のブラッドセルやナシュワのような代表馬がいないのは事実です。大舞台の開催に限っては、そういう馬なしで臨むのは難しいものです。もちろん、山あり谷ありはこの世界の常です」

「もどかしい気持ちは確かにあります。ただ、今やるべきことをやるしかありません。調教師、馬主、騎手、誰にとってもそういうものです。ここ数年、私は素晴らしい馬に恵まれてきましたし、いずれ終わりが来るのは避けられません。次を見つけるしかないんです」

香港がその機会を与えてくれること、そして現地のファンに喜んでもらえる騎乗ができることは、ドイルが期待する願いでもある。

「ファンは香港競馬に欠かせない一部ですし、物凄く熱心なサポーターです。あの熱気は本当に凄いです」

「今のところ、香港の皆さんからは歓迎されているように感じています。でも、もしかしたら、皆さんは誰に対しても優しいのかもしれませんね」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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