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セルフインプルーブメントが、11年ぶりに香港からアメリカ・ブリーダーズカップに挑戦する馬となるのではないか。そんな期待は、早くも消えつつある。

現地時間日曜日、ソウル競馬場で行われた総賞金100万米ドル(約1億4700万円)のG3・コリアスプリントを制したセルフインプルーブメントには、11月1日にデルマー競馬場で行われるG1・ブリーダーズカップスプリントへの優先出走権が与えられた。

賞金総額200万米ドル(約2億9600万円)のBCスプリントへの出走確約、さらに出走登録料免除と遠征費補助まで付くとなれば、マン調教師と馬主のウォン家にとっては、一見すると断る理由がない誘いのように見える。

だが、セルフインプルーブメントは出走を回避する見込みだ。世界を飛び回った名スプリンター、リッチタペストリーの後を追う夢は幻に終わることになる。

多くの国際レースでは数週間前、あるいは数日前に出走登録が可能だが、ブリーダーズカップは生産者による早期登録を重視する独自の仕組みを採用している。

晴れて出走に漕ぎ着けるまでには、種牡馬、生誕、出走登録と複数回の登録手続きを経る必要があるが、その制度は競馬関係者でも混乱するほど複雑だ。

すべては種牡馬から始まる。北米の種牡馬は、毎年12月15日までに種付け料1回分と同額の費用を支払って登録することで、翌年の繁殖シーズンに誕生する産駒がブリーダーズカップへの登録資格を得る。

2024年にブリーダーズカップが公表したデータによると、北米で登録された928頭の種牡馬のうち昨年は380頭が登録されており、種付け料が5,000ドル以上の種牡馬はほぼすべてが登録されていた。

海外の種牡馬も登録可能で、北半球では種付け料の50%、南半球では25%を支払う仕組みで、毎年約250頭が登録されている。こうして登録済みの種牡馬から生まれた世界中の産駒が、ブリーダーズカップへの登録資格を持つことになる。

北米生まれの産駒は、早期登録なら400ドルの登録料で済むが、成長するにつれてその額は10万米ドルにまで跳ね上がる。段階を踏んで徐々に登録料が上昇していくため、できるだけ早期の登録が推奨されている。

近年では、対象種牡馬から誕生する約1万頭の仔馬のうち、およそ65%が登録されている。

この制度を分かりやすく示す例が、コリアカップで2着に入った香港のチェンチェングローリーだ。

同馬は2020年に北米で生まれ、父のモースピリットはBCの登録種牡馬だ。生産者は400ドルの早期登録を逃したが、その後新たなオーナーが1,500ドルの追加登録料を支払い、生涯有効な登録資格を得た。そのため、もし同馬が日曜日のコリアカップを勝っていれば、G1・BCダートマイルへの優先出走権を無条件で獲得できたことになる。

一方、セルフインプルーブメントは豪州産馬なので登録料は少々異なるが、もっと根本的な部分に障壁がある。父ディープフィールドが繋養されていたニューゲートファームを含め、オーストラリアの多くの牧場が、この登録制度を利用していないためだ。つまり、同馬は登録資格を持つ馬とは見なされていない。

そのため、もしマン師とウォン家がBCスプリントに出走させたい場合は、まず20万米ドル(約2940万円)という高額な登録料を支払う必要がある。

支払い後は、出走登録料(計6万米ドル)の免除、4万米ドルの遠征費補助、そして世界最高峰スプリンターたちと肩を並べる出走権が付与される仕組みだ。

こうした背景を踏まえれば、陣営がブリーダーズカップを選ばなかったことも納得できる。12月7日、シャティン競馬場のオールウェザーコースで行われるクラス2のハンデ戦(総賞金・約5370万円)を次走に選択するであろうことは、少しも不思議ではない。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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