土曜日のG1・クイーンエリザベスステークス(2000m)には、オーストラリアと好相性のドバイオナーが登場。イギリスのウィリアム・ハガス調教師はシドニーで驚異的な好成績を収めているが、勝てばさらに実績を上積みすることになりそうだ。
ハガス厩舎からシドニーに遠征した馬はこれまで23頭いるが、勝利数はなんと11勝。G1勝利数は6勝、オーストラリアで2番目に高額な賞金を誇るゴールデンイーグルも11勝の中に含まれる。
獲得賞金の総額に至っては1436万6550豪ドル、日本円で約12億7000万円という額に上る。1レース平均を換算すると62万4633豪ドル(約5500万円)だ。
イギリスのニューマーケットを拠点とするハガス調教師にとって、オーストラリアは母国以上の大金が眠る金鉱脈だ。そして、その鉱脈を効率よく掘り進めている。もし、豪州で3戦3勝のドバイオナーが無敗記録を4に伸ばせば、先述の獲得賞金総額は1731万6550豪ドル(約15億円)に跳ね上がる。
2023年以降、イギリス国内では1404レースに出走(うち279勝)しており、累計の賞金額は824万0758ポンドを獲得している。日本円に換算すると約15億4000万円、1レース平均だと110万円ほどだ。
つまり、ドバイオナーの成績次第では逆転現象が起きることになる。母国で1400走以上して稼いだ賞金を、遠征先でのたった24レースでの賞金が上回る事態になるのだ。もちろん、イギリスでは条件戦から未勝利戦まで含まれるので、単純な比較は難しいが、それでもハーミッシュ、アルアージー、レイクフォレスト、エコノミクス、モンタシブといった名馬でビッグレースを勝った賞金が含まれるのも事実だ。
ハガス厩舎の「オーストラリア賞金王」はレイクフォレストだ。実はこの馬がオーストラリアで出走したのはたったの1回に過ぎない。ローズヒル競馬場で行われたゴールデンイーグル(1500m)を勝ったのみだが、このレースが高額賞金レースであることがその理由だ。
南半球産の4歳馬、北半球産の3歳馬のみに限定されて行われるゴールデンイーグルは近年、実力馬が揃うレースとして知られている。レイクフォレストの5着に入ったステフィマグネティカは先週、G1・ドンカスターマイルを制してその能力の高さを証明した。
当時の2着馬、ラザットはその後マイル戦を2回使ったが、いずれも不本意な結果に終わっている。ジェローム・レイニエ調教師はIdol Horseの取材に対し、スプリント路線に一旦戻すことを示唆。来月、シャンティイ競馬場で行われる直線1200mのリステッド、セルヴァンヌ賞を復帰戦に使うと明かした。
もし、復帰戦で良い走りを見せるようであれば、クイーンエリザベス2世ジュビリーS、ジュライカップ、モーリスドゲスト賞といった、ヨーロッパを代表する直線競馬のスプリントG1が視野に入ってくることだろう。

ゴールデンイーグル組の好走はステフィマグネティカのみに留まらない。3着のトムキトゥン、6着のポートロックロイ、7着のジョリースター、10着のスカイバードは後にG1を制覇。日本からの遠征馬、アスコリピチェーノはサウジでG2・1351ターフスプリントを制している。
レイクフォレスト自身は4月27日の香港チャンピオンズデーで行われる、G1・チャンピオンズマイルをシーズン始動戦に位置付けている。かつて破った馬たちの好走はこれに向けて自信となるはずだ。
賞金の派手さという面ではジ・エベレストに注目が集まりがちだが、主催者のレーシングNSWが作り出した真の傑作とは、実はゴールデンイーグルの方だったのかもしれない。
コックスプレートのようなレースで歴戦の猛者と新星が対決するのはワクワクするものだが、3歳で引退して繁殖入りする馬や、香港に売却されて母国を去る馬が現れるのは避けられない現実だ。ゴールデンイーグルが創設されていなければ、このような馬がより多く増えていたことだろう。
加えて、海外から本来なら来ないような馬たちをオーストラリアへ引き寄せている面も見逃せない。
開催時期に関しては「もう少し改善の余地がある」という声もある。オーストラリアを代表する年齢別重量戦、コックスプレートの2週前に開催するべきという意見もその一つだ。
しかし、その場合はジ・エベレストの開催時期との兼ね合いが難しくなってくる。シドニーのスプリングカーニバル開催を刷新した根本的な目的、つまりはメルボルンに対抗する競馬開催を提供するという役割を揺るがしかねないものだ。
シドニーの賞金がどれだけ充実しているか、それはハガス厩舎が身を以て証明している。今年の後半には、これに追従して遠征馬を送り込んでくるヨーロッパの調教師も増えることだろう。