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ラルフ・ベケット調教師は、エプソムでのクラシック勝利の味を知っている。G1・英オークスを2勝している名伯楽は今週土曜日、G1・英ダービーに2頭出しで挑む。ベケットは、英ダービーでの栄光はまだ手にしていないが、プライドオブアラスとスタンホープガーデンズという2頭の精鋭で、その扉をこじ開けにかかる。

昨秋にはブルーストッキングがG1・凱旋門賞を制し、陣営としては一つの頂点を迎えた。だが、英ダービーでは2022年のウエストオーバーの3着が最高成績。今回の2頭で歴史を塗り替えられれば、それはあのパリの大一番さえも超える喜びとなるだろう。

プライドオブアラスは先月、ヨーク競馬場でキャリア2戦目ながら英ダービーの重要な前哨戦であるG2・ダンテステークスで制覇。一方のスタンホープガーデンズは2歳時に重賞で好走歴があり、今季はソールズベリー競馬場のマイル戦を使ってからエプソム入りするローテーションを選んだ。

ベケット調教師はIdol Horseに「プライドオブアラスは非常にバランスの取れた馬で、いい枠を引ければその利を生かせるはずです。2戦とも鋭いギアチェンジを見せており、土曜日もそれが求められる場面になるでしょう」と語る。

「血統的にも申し分ありませんし、近親の2頭がまるでレールの上を走るようにスムーズにエプソムをこなしていたので、トラック適性への不安はありません」

ニューベイ産駒のプライドオブアラスは、昨年8月にサンダウンのメイドンを難なく勝ち上がると、今春のダンテSでは18倍という評価を覆して重賞初挑戦での大金星を挙げ、一気にクラシック戦線の主役に名乗りを上げた。ロッサ・ライアン騎手の手綱で10ハロンを堂々と駆け抜けたその走りは、クラスの壁を一気に突き破る内容だった。

ベケット調教師は、そのヨーク競馬場での経験こそが、ダービー本番で大きな意味を持つと見ている。

「パドックや返し馬を含めて、ヨークでは非常に落ち着いていました。キャリアの浅い馬としては、驚くほどプロフェッショナルな振る舞いでした。まあ正直に言えば、あそこまでできるとは思っていませんでしたが、それがこの馬の強みになると思っています。今回も同じように振る舞ってくれれば大丈夫でしょうし、そうならない理由は何一つ見当たりません」

「この馬は精神的に幼かったことは一度もありません。どんな状況でもしっかり対応してきました。昨年のデビュー後に多少の問題はありましたが、それもすべて身体的なもので、しかもごく軽微なものでした。基本的には身体の成長過程によるもので、大きな心配はなかったです」

「ヨークにはどちらかというと『期待』というより『願い』に近い気持ちで臨みましたが、それでもこの馬ならやれる、という確信も同時に持っていました」

一方のスタンホープガーデンズは、香港のマーク・チャン氏が共同所有しており、ダービー当日にはエプソム競馬場に駆けつける予定だ。

ガイヤース産駒の同馬は、昨年7月にはサンダウンで後のG1・英2000ギニー馬であるルーリングコートの3着に入り、秋のG3・オータムステークスではドラクロワにクビ差の2着と健闘。今季は英ダービー2週前にソールズベリー競馬場で3頭立ての少頭数レースを快勝し、存在感を示した。

過去にはミルリーフやブリガディアジェラード、2006年の勝ち馬サーパーシーもソールズベリーで走っているが、3歳になってからマイナーな競馬場の平場戦1回のみを経てエプソムに向かうというローテ-ションは極めて異例だ。

1998年のハイライズは、まずポンテフラクト競馬場で始動し、その後リングフィールド競馬場のダービートライアルを制してから本番のダービーを勝っている。また1940年代には、ニンバスはダービーイヤーの春にサースク競馬場で勝ち、ストックトン競馬場ではダンテが勝ち、ウィンザー競馬場ではストレートディールが勝っている。さらにその前の20年間でも、エイプリルザフィフスとサンソヴィーノの2頭がバーミンガム競馬場で勝利を挙げてからダービーを制している。

だが、これらの馬たちはいずれも、スタンホープガーデンズとは異なり、ダービーの前に2000ギニーか、いずれかの主要なトライアルに出走していた。

「結局はその馬の『造り』次第なんです」とベケット調教師は語る。

「仮にプライドオブアラスを3歳初戦でソールズベリー競馬場で使ったとしたら、それは十分な前哨戦とは言えません。でもスタンホープガーデンズは2歳時にサンダウン競馬場で走って、ひと癖あるコースのビヴァリー競馬場でも勝利を挙げており、バランスの良さがうかがえます。ローリーマイルコースではダービー本命馬に近いドラクロワと接戦を演じていて、それを踏まえればエプソムに向かう下地はあります。あとは、能力が足りるかどうかです」

今回のソールズベリー競馬場での出走も当初の予定ではなかった。

「4月後半に追い切りに出した際、トラブルが出て2週間休ませざるを得なかったんです。あの時点ではもう絶望的だと思いましたが、そこから立て直してエプソムに向かえるのは、正直想像以上です」

「スタンホープガーデンズはバランスが良くて運動能力の高い馬。私はずっとエプソム向きだと感じていました。昨秋のドラクロワとの接戦を見ても、何とかこの馬を土曜日に出したいと思っていました」

Oaks contender Revoir wins her maiden at Nottingham
REVOIR, ROSSA RYAN / Maiden // Nottingham /// 2024 //// Photo by Mike Egerton

ラルフ・ベケット調教師は、土曜日のG1・ダービーに先立ち、金曜日のG1・英オークスでも勝利を狙う。送り出すのはキャリア2戦の素質馬、ルヴォワール(スタディオブマン産駒)だ。

2008年、ベケット調教師に初のクラシックタイトルをもたらしたルックヒアと同じく、ジュリアン・リッチモンド=ワトソン氏の所有馬であるルヴォワール。2代母はルックヒアの半妹にあたる。

「この牝馬は少し飲み込みが遅いところがあります。昨年のノッティンガム競馬場でのデビュー戦は、正直『お遊びレース』のようなもので、学ぶことは多くなかったですね。でも先日のニューベリー競馬場でのレースでは多くを学びました。狭いところをこじ開けて抜け出し、勝ち馬に挑み一度は並びかけましたが、そこからもう一段ギアを上げられてしまいました」

レース直後、ベケット調教師はすぐにエプソム行きを決断していたという。

「彼女はスタミナがありそうでしたし、バランスも良く、エプソムのトラックには合うと思いました。あの大舞台の雰囲気にもきっと耐えられる。耐えられると思える馬なら、私はいつだって勝負に出る覚悟があります」

ルヴォワールが挑むのは、5戦無敗でG1・英1000ギニーを制したゴドルフィンのエース牝馬、デザートフラワー。最後に英オークスを5連勝無敗で制した牝馬は1985年まで遡り、勝ち馬はあのオーソーシャープ。後に牝馬三冠を達成した名牝だ。デザートフラワーもフィリーズマイルとギニーを制しており、記録に並ぶ可能性を秘めている。

だが、ベケット調教師はあくまで距離適性を重視する。

「6月第1週の時点で、この距離を本当に走り切れる牝馬はごく少数です。もしスタミナがあると信じられて、かつ重賞実績があるなら、なぜ勝負しない手があるでしょうか?」

「その意味で、ルヴォワールこそ勝負にふさわしい1頭です。ギニーの勝ち馬に関して言えば、時期的にこの距離をこなせる牝馬は本当にわずかです。その点で、人気馬やミュージドラステークス勝ち馬(ワール)、チェシャーオークスの勝ち馬(ミニーホーク)とぶつかる意味はあります。チェシャーオークス勝ち馬は距離は持ちますが、残りの2頭はそうではないかもしれません」

同日のカードでは、古馬によるG1・コロネーションカップ(2400m)も行われ、ベケット厩舎からは昨年のG1・愛オークスを制したユーゴットトゥミーが出走する。

「昨年の英オークスで4着だったときはエプソムのコースにうまく対応していました」とベケット調教師は振り返る。「当時は、その3週前のリングフィールドで逃げ切った反動があったのではと考えていましたが、それでも走りは悪くなかったです」

「今年はいい状態で臨めそうですし、仕上がりも良好です。あとは、カランダガンや他の強豪たちを相手にどこまでやれるか。それでも、ここから始動するのは理にかなっていて、今後のローテーションも組みやすくなります。来月から秋にかけての選択肢が広がる、いいステップになりますね」

「好走してくれると思っています。勝てるか?と聞かれたら、それはわかりませんが、上位争いに加わる走りができれば、それで十分なシーズンの滑り出しです」

ユーゴットトゥミーは、ブルーストッキングが昨年歩んだローテーションをたどる可能性もあるという。

「ヨークシャーオークス、ヴェルメイユ賞、そして凱旋門賞。そこまで行けたら理想ですね」とベケット調教師。

「あとは彼女の走り次第です」

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍していた。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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