昨年11月、ブリーダーズカップ・ジュベナイルターフスプリントでマグナムフォースを勝利に導いた直後の会見で、ジャー・リオンズ調教師は躊躇なくこう断言した。
「コリンは地球上で最も過小評価されているチャンピオンジョッキーです。世界には彼の凄さに気づいてほしい」
厩舎の主戦騎手と並んで座ったその場での発言は、リオンズ調教師の本音だった。そして半年が過ぎた今も、その思いに揺るぎはない。今週配信されたIdol Horse Podcastでアンドリュー・ルジューンのインタビューに応じたリオンズ調教師は、その評価をさらに強調した。
「誰か私が間違えていると証明してほしいですね」とリオンズは語気を強める。
「彼は最高の騎手で、ようやく人々も気づき始めているようですが、なぜこんなに時間がかかっているのか不思議です。彼は世界レベルのジョッキーであり、世界レベルの人間です。そしてここからさらに良くなると私は信じています」と続けた。
30歳になったキーン騎手の近況は、その言葉を裏付ける。ジュドモントは、ジョン&セイディ・ゴスデン厩舎のフィールドオブゴールドに起用することを決定。G1・愛2000ギニーに向けて、キーラン・シューマーク騎手からの乗り替わりという形で、注目の騎乗依頼が舞い込んだのだ。
「この騎乗依頼は本当に素晴らしいチャンスです」とキーンは語る。発言の前日には、ネース競馬場でジャドモントのバブーシュに騎乗し、G3・ラッカンステークスを制していた。
シューマーク騎手の降板を巡るメディアや世間の注目もあり、今回のカラ開催の愛2000ギニーは、キーンにとっても極めて注目度の高い一戦となる。6度のリーディングジョッキーに輝き、G1・13勝という実績を誇るキーンであっても、だ。
13勝のG1タイトルの中には、リオンズ厩舎のシスキンで制した5年前の愛2000ギニーや、2022年のウェストオーバーで制したG1・愛ダービーも含まれる。共にジャドモントの所有馬、今回のフィールドオブゴールドと同じ勝負服だ。
シスキンでのクラシック初勝利は2020年5月、25歳でのことだった。父のゲリー・キーン調教師が管理するノートリミングスに騎乗して初勝利を挙げた日から、実に9年半を経ての快挙だった。そしてそれは、キーン騎手が最高峰で勝負できる騎手であることを証明する一里塚でもあった。
騎手としての基盤が築かれたのは、地元ミース県トリムのすぐ近く、ジャー・リオンズ厩舎だった。7年前、エージェントのルアイリー・ティアーニー氏が、リオンズに『近くに素質ある若手がいる』と連絡を入れたことから、縁が生まれたという。
「すぐに分かったよ。この子はただ者じゃないってね」とリオンズは回想する。
キャリア初期、キーンの年間勝利数は1勝、9勝、12勝と控えめな数字だった。だが、リオンズ厩舎の後押しを受けると、2013年にはアイルランドのチャンピオン見習い騎手ランキングで2位(年間42勝)、翌2014年には66勝を挙げてそのタイトルを手にした。2017年には初めてリーディングジョッキーとなり、2020年以降は4年連続でその座を守っている。
2021年8月28日にはアイルランド史上最速で年間100勝に到達。その年は通算141勝と、同国歴代最多記録も打ち立てた。だがその一方で、ミック・キネーン騎手やジョニー・ムルタ騎手のように世界的な名声を博した過去のアイルランド王者たちと比べ、キーンの名は国外ではあまり知られていない。

今回のフィールドオブゴールドへの騎乗が、その潮目を変える契機となるかもしれない。しかしキーン自身は、どこまでも『静かな王者』だ。現在も地元のミース県に暮らし、パートナーのケリー・リオンズ(ボスであるリオンズ調教師の娘)とともに堅実な日常を送っている。
もちろん海外での騎乗歴がないわけではない。昨年のブリーダーズカップ勝利もあれば、香港インターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ(IJC)にも3度出場している。ただ、ライアン・ムーア騎手やトム・マーカンド騎手のように頻繁に世界を飛び回るタイプではない。ミック・キネーン騎手のようにインドや香港、UAEを冬の拠点にしたこともない。
「もっと国際舞台で乗ってみたいという気持ちはあります」とキーンは昨年12月、IJC出場前に香港でIdol Horseに語っていた。
「いつでもチャンスを探していますが、なかなか巡ってきません。だから巡ってきた時に掴むしかないんです」
「香港のような場所を一度味わうと、短期で挑戦してみたい気持ちは出てきます。ただし、私たちには自分たちの厩舎と土地があって毎日忙しい。都会にいることはあまりないので、合うかどうかはやってみなければわからないんです」
「私とケリーはミースに小さな牧場を構えていて、ケリーは1歳馬向けに仔馬をピンフック(育成して販売)するビジネスも行ってるので、一年中忙しくしています。もしそういう背景がなければ決断はもっと簡単かもしれません。でも、2週間や1ヶ月だけでも試してみるチャンスがもらえるなら嬉しいですね。将来的に声がかかれば、前向きに考えたいです」
キーンの国際的な露出が少ないことについて、リオンズ調教師は自らに責任の一端があると語る。
「もっと世界中の大レースで乗るべき騎手です。だけど私自身が海外に馬を遠征させないし、そういったことに興味もない。だからチャンスを狭めてしまったと感じています」
リオンズはまた、Idol Horse Podcastの中で、キーンがいかに『深い恩義を忘れない男』であるかにも触れていた。キーンの話を聞けばそれがはっきりとわかると語った。
「ジャーがいなければ、今の自分たちはいません。父の厩舎からジャーのところに来て、今日ここまで来られたのは彼のおかげです。私のキャリアの多くは彼に捧げているようなものです。最初からずっと100%の後押しをしてくれました。彼はそういう人なんです」

もちろん、キーンのキャリアを支えてきたのはリオンズ調教師だけではない。
ダーモット・ウェルド調教師、エイダン・オブライエン調教師、そしてG1初勝利をプレゼントしたトニー・マーティン調教師らの名伯楽たちが、要所要所で騎乗機会を与えてきた。なかでもジョン・マーフィー調教師とその息子であるジョージ・マーフィー助手との縁は、ここ数年の歩みを語る上で欠かせない。
マーフィー親子が管理するホワイトバーチは、昨年のG1・タタソールズゴールドカップを圧巻の内容で制し、キーンにとってさらなる飛躍の年を予感させる存在となった。しかしその後、思わぬアクシデントにより戦列を離れることになる。
今年5月初旬、G2・ムーアズブリッジステークスでロサンゼルスの2着に入って復帰を果たしたばかりのホワイトバーチは、今週末、連覇を狙って再びタタソールズGCの舞台に戻ってくる。
「ジョンとジョージはレース後も馬の状態にとても満足していると聞いています。私自身も、週末にまた乗れるのが楽しみです」とキーンは語る。
「長期休養明けとしては完璧な走りでしたし、そこからさらに良くなるはずです。去年のゴールドカップでは本当に印象的でしたし、あのままシーズンを駆け上がっていくように見えたんですが、不運がありましたからね」
キーンに手綱が託された期待馬は、他にもいる。ラッカンステークスを勝ったバブーシュは、英G1・コモンウェルスカップを視野に入れており、スピードが自慢の2歳牝馬・レディイマンもクイーンメアリーステークスやオールバニーステークス出走を検討中。ロイヤルアスコットでの勝利にも期待が集まる。
だが、それらは少し先の話。今この瞬間、フィールドオブゴールドの騎乗こそが、キーンの実力にふさわしいスポットライトを向けている。
地に足のついたミース出身の名手は、飾らず、そして変わらない姿勢でこう語る。
「毎年、少しずつでも成長していきたいと思っています。もっと良い馬に乗れるように、そしてもっと遠くまで行けるように努めます」