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カラコンティ: 注意深くてやんちゃな性格…アメリカ唯一の日本産種牡馬

サンデーサイレンスが日本競馬界に革命を起こしてから30年。アメリカの馬産地ではまだサンデーの血は浸透していないが、ゲインズウェイのカラコンティはその間に割って入ろうとしている。

カラコンティ: 注意深くてやんちゃな性格…アメリカ唯一の日本産種牡馬

サンデーサイレンスが日本競馬界に革命を起こしてから30年。アメリカの馬産地ではまだサンデーの血は浸透していないが、ゲインズウェイのカラコンティはその間に割って入ろうとしている。

質問が終わるのを待たずして、ゲインズウェイのスタリオンディレクターを務めるライアン・ノートン氏の笑い声が聞こえてきた。答えは明白だ。

ケンタッキー州レキシントンにある、種牡馬施設のゲインズウェイファーム。ここで一番個性的な性格を持つ種牡馬について尋ねたが、カラコンティがその血統と同じくらい独特の個性を持っているということは、ノートン氏の話からも窺い知ることができた。

ハンドラー(種牡馬の引き手・世話役)は彼の母父である、あのサンデーサイレンスのような気性ではないことは幸いだと思っているが、その目立ちたがり屋な性格は周囲の皆に緊張感を持たせている。

Karakontie wins Breeders' Cup Mile
KARAKONTIE, STEPHANE PASQUIER / G1 Breeders’ Cup Mile // Santa Anita Park /// 2014 //// Photo by Kevork Djansezian

「周りをよく見ている馬です。何が起こっているのか、全てを知りたがります」

「後ろで何かが起こると、すぐそっちの方に注意が向きます。外野ではなく、真っ只中に割り込みたいんです。今、厩舎を改築中なのですが、作業の内容を誰よりも把握しているのは彼かもしれません」

「頑固者というわけではなく、何よりも好奇心旺盛なだけです。種付けの出番が来ると、すぐに仕事の準備に入り、次の繁殖牝馬を迎え入れる態勢が整います。意地悪な性格というわけではなく、やんちゃなタイプです。良い言い方をすると、そんな感じです」

サンデーサイレンスと日本

カラコンティはゲインズウェイの種牡馬の中だけでなく、馬産地全体でも際立った存在だ。アメリカの馬産地において、このバーンスタイン産駒の鹿毛馬は文字通り唯一無二の存在と言える。

過去数年間、日本血統のレベルを上げようとする数十年単位の努力が実を結んでいる。イクイノックス、パンサラッサ、ラヴズオンリーユー、ウシュバテソーロといった日本馬が世界的な権威あるレースを勝ち取り、その成果を世界は目の当たりにしてきた。

そして、5月4日のチャーチルダウンズ競馬場、矢作芳人厩舎のフォーエバーヤングもアメリカ競馬最高峰のG1・ケンタッキーダービーを母国の勝利タイトルに加え入れるところまで、あと2頭を交わすのみというところまで迫っていた。

Forever Young Kentucky Derby
FOREVER YOUNG (centre) / G1 Kentucky Derby // Churchill Downs /// 2024 //// Photo by Michael Reaves

日本馬は世界の競馬では当たり前のような存在になっているが、北米の馬産地に進出するには、まだまだ道のりは長い。カラコンティはアメリカで供用される唯一の日本産種牡馬として、2024年の繁殖シーズンは孤軍奮闘の活躍を見せた。北米全体で見ても日本産種牡馬は2頭のみ、カナダのアデナスプリングスにサイレントネームがいるのみだ。

皮肉なことだが、日本馬の飛躍的な活躍の裏には、アメリカの生産者が一頭の米国産馬を見限った背景が関係している。1990年、4歳で引退した後に殿堂入りするサンデーサイレンスだが、アメリカの馬産地は種牡馬としての素質に殆ど関心を示さなかった。圧倒的な才能とスタミナを持っていたのにも関わらず、脚曲がりのヘイロー産駒には冷たい反応が待っていた。

アメリカの生産者が冷たい反応を見せた結果、サンデーサイレンスを迎え入れた社台スタリオンステーションは日本の馬産地を一変させることになった。サンデーサイレンスが2002年の8月に亡くなったとき、それは絶対的な象徴を失うことを意味していた。そして、そのレガシーは彼の最高傑作である、ディープインパクトへと受け継がれて行った。

Sunday Silence wins Kentucky Derby
SUNDAY SILENCE, PATRICK VALENZUELA / G1 Kentucky Derby // Churchill Downs /// 1989 //// Photo by Focus On Sport

ワールドトラベラー

サンデーサイレンス産駒で日本生まれのサンイズアップを母に持ち、G3・2勝のバーンスタインを父に持つカラコンティは、フランスでG1を2勝し、初のアメリカ遠征となったBCマイルも制した。現役時代はその血統を世界的にアピールしたが、2016年にゲインズウェイで種牡馬入りしたとき、生産者にそのポテンシャルを説明する必要に迫られた。馬産地ではダートでのスピード、そして早熟性が何よりも重要視されていたのだ。

「皆に説明するとき、『ワールドトラベラー』と紹介しています。日本で生まれ、アイルランドで育ち、そしてアメリカに辿り着いたのです」

ノートン氏はカラコンティのキャリアと当時の状況を説明する。

「彼が種牡馬入りしたとき、アメリカの生産者が芝馬との交配を少し躊躇しているという課題が待ち構えていました。そして、もう一つの頭を悩ませる課題は、キャリアの殆どが海外レースだったため、アメリカの生産者は彼の実力を判断する術を持っていなかったということです。誰と戦って、誰に勝ったのか知らないのです」

「アメリカのBCマイルでどの馬に勝ったのかは皆さんご存じですが、海外のレースが中心ということは依然としてマイナスな要素です。競馬は国際化が進んでいるスポーツですが、種牡馬に関して言えば、未だにどの国もそうではありません」

Karakontie wins The Poule D'Essai Des Poulains
KARAKONTIE, STEPHANE PASQUIER / G1 Poule D’Essai Des Poulains // Longchamp /// 2014 //// Photo by Alan Crowhurst

カラコンティをよく知る人が言うように、彼は無視されることが嫌いだ。そんな彼は他の日本産馬と同様、自らの活躍で馬産地の関心を集めてきた。

15000ドルという初年度種付け料でスタッドインしたカラコンティは、あまり質の高くない繁殖牝馬が相手でも好成績を残せることを早速証明した。2022年にはスペンダレラがデルマーオークスを制覇、産駒のG1初制覇を達成した。2023年シーズンになると、G1・ナタルマステークスを勝ち、BCジュヴェナイルフィリーズターフで3着に入ったシーフィールズプリティも登場し、産駒の実績がまた一つ増えた。2024年は種付け料が前年の10000ドルから値上がりし、15000ドルに回復している。

カラコンティの産駒は芝とダートの両方で重賞を勝っており、これまでのステークス勝ち馬率は15%に及んでいる。その中には、2020年のケンタッキーダービーに出走したソールヴォランテも含まれている。

また、セールでの評価も上々だ。2022年のファシグティプトン・ノベンバーセールでは、複数の重賞勝ちがあるプリンセスグレースが170万ドルでチャイナホースクラブに落札された。2020年のキーンランド・セプテンバーイヤリングセールでは、カラコンティ産駒の1歳牡馬が9日目トップとなる50万ドルでマーシャ・ナイファイ氏に落札されている。

「ここ数年、確かに関心は高まってきています」

「特にこの1年で、スペンダレラとシーフィールズプリティという2頭のG1馬を輩出したことは大きな助けになりました。当然、それは良い宣伝になりますし、より多くの繁殖牝馬を集めることに繋がります」

「これまで2頭のG1馬を世に送り出し、たくさんの重賞馬も輩出しています。ここ2年に種付けした繁殖牝馬のリストは、初年度と同等かそれ以上の質の高さにあると思います」

Princess Grace at Flemington
PRINCESS GRACE / Flemington // 2023 /// Photo by George Sal

日本血統の価値

今後数シーズン、カラコンティの産駒は良血馬が数多く誕生する予定だ。日本血統への投資の重要性を、アメリカの馬産地に対して証明する存在になり続ける可能性は充分高い。そして、マイク・リポール氏のようにすでに気付いている人もいる。アンクルモー、フォルテ、フィアースネスなどの大物を手にしてきたリポール氏は、今年日本のセールでの購入が目立っていた。

周囲がざわつくと、カラコンティは決まって顔を出そうとする。それは周囲の人にとって緊張感が走る一瞬である一方で、この厳しい馬産地では役立つ術だ。需要のない種牡馬には冷たい反応が待っているこの業界に割り込んで、旗振り役としての地位を築いてきた。

ゲインズウェイのノートン氏はこう語る。

「サンデーサイレンスは日本最高の種牡馬ですし、それに続いたのはもちろんディープインパクトだと思います。いつか誰かが、この血統をアメリカに逆輸入しようとすると思っていました」

「しかし、日本の人々は良い馬を手放すつもりはなく、自分たちの馬産地の発展に活かしてきました。その考えは理解できます」

「ですが、カラコンティも間違いなく追いつこうとしています」

アリシア・ヒューズ、競馬や馬事文化に関する出版物に30年以上携わっており、受賞歴もある、作家兼ジャーナリスト。ケンタッキー州レキシントンに在住で、レキシントン・ヘラルド・リーダー紙の主任競馬記者、ブラッド・ホースのレーシングエディター、全米サラブレッド競馬協会の広報責任者などを歴任した。2016年から2018年までの間、全米競馬記者協会の会長も務めている。

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