新シーズン開幕直前!2025年のイギリス平地競馬を徹底討論
今週のドンカスター開催が、実質的な英国平地競馬シーズンの幕開けを告げる(BHAやマーケティング担当者の言い分はさておき)。この2025年シーズン、クラシック戦線の注目馬は?期待の騎手は?正念場の人物は?そして、数多ある英国競馬界の課題に対しての『改革の鍵』とは?
クラシック戦線開幕まであと1ヶ月余り、現時点で注目している馬は?
アンドリュー・ホーキンス:
ゴドルフィンの牡馬勢には大きな期待をしています。ケンプトンでの新馬勝ち直後に、Idol Horseの『Future Idol』でオペラバロを紹介しましたが、2戦目の同じケンプトンのマイル戦でもしっかり結果を出してくれました。
昨年の英2000ギニーを制したノータブルスピーチも、同じゴドルフィンの勝負服でこのレースからキャリアをスタートさせたので、比較されるのも当然です。
次走がどこになるかはまだ分かりません。もしかするとイギリスのクラシックではなく、フランスの仏2000ギニーや仏ダービーに向かうかもしれません。ただ、英2000ギニーに出てくるなら、有力候補の一頭になるでしょうし、昨年の最優秀2歳馬シャドウオブライトや、その僚馬で実績豊富な古馬のネーションズプライドも揃って同じゴドルフィン所属。
今春のクラシック戦線はゴドルフィンがその主役になると予想しています。
デイヴィッド・モーガン:
私は個人的にアンリマティスに注目しています。クラシック候補としてはやや過小評価されている印象ですが、実力は確かです。
たしかにシティオブトロイのような華のあるタイプではないですし、シャドウオブライトが勝ったデューハーストステークスやミドルパークステークスといった英国のG1路線は避けてきました。ただし、アイルランドの大一番であるヴィンセントオブライエンナショナルステークスでは僅差の2着、ジャンリュック・ラガルデール賞は度外視できる内容でした。
そして、ブリーダーズカップブリーダーズカップ・ジュベナイルターフではスピードと根性を見せつけてG1勝ちを飾っています。
父は名種牡馬ウートンバセット、母は名マイラーのイモータルヴァース。もし今年のクラシック世代に突出したスーパースターがいないのなら、良馬場さえ引ければ2000ギニーは彼が本命です。ダービーに関しては……まだ霧の中ですね。前哨戦から突如現れる伏兵が勝つパターンになりそうです。
ジャック・ダウリング:
僕の注目はルーリングコートです。昨年8月、G3・エイコムステークスでは1番人気を裏切る結果になりましたが、今年3月1日にメイダンの芝コースで出走した復帰戦では、6馬身差の圧勝を見せました。
ジャスティファイの産駒らしくパワーを増し、ウィリアム・ビュイック騎手のエスコートで見違えるようなレースぶりを披露。230万ユーロ(約3.7億円)という高額な価格で落札された馬ですが、2000ギニーで勝てば、その期待にも応えられ費用の一部も回収できることでしょう。

今年、競馬界で最も大きな『動き』がありそうなのは?
デイヴィッド・モーガン:
ワスナンレーシングでしょう。2023年にイギリスで4勝を挙げた彼らは、昨年は勝ち星を34まで伸ばし、勝率19パーセントという好成績を残しました。
その中でもロイヤルアスコット開催ではクイーンメアリーステークス、ノーフォークステークス、ジャージーステークスを制し、さらにG1・ブリティッシュチャンピオンスプリントステークスも勝利。
カタール首長のタミーム殿下は完全に競馬の虜となっており、今年もイギリス、特にロイヤルアスコットを中心に、さらなる成功を目指して投資を加速させるはずです。
ジャック・ダウリング:
ラルフ・ベケット調教師は、昨年の凱旋門賞制覇で一気にトップトレーナーの仲間入りを果たしました。キャリアで初めて獲得賞金300万ポンド超えを達成し、今年も大きな一歩を踏み出せる布陣が整っています。
これまで優れた牝馬のマネジメントで評価されてきたベケットですが、今年のダービー登録頭数は12頭で、これはイギリス人調教師の中で最多。ジュドモントやヴァルモント、さらには440万ギニーのフランケル牝馬を預けているキア・ジューラブシャン氏といった強力な馬主陣の後押しも受けています。
この流れに乗れば、ベケットはジョン・ゴスデン級の名伯楽に成長する可能性があり、引退したサー・マイケル・スタウト調教師の後継的な立場になることも夢ではありません。
アンドリュー・ホーキンス:
『動き』とは必ずしも飛躍だけを意味するものではありません。ということで、私は再びゴドルフィンに注目します。
この国際的軍団は年初は静かな滑り出しとなるのが通例ですが、例年3月以降に勢いを増します。今年は特にそのグローバルな方針に関する噂が飛び交っています。注目は、今後どのような方向性を取るのか、特にオーストラリアでの展開です。
シェイク・モハメド殿下の陣営が今後、イギリスを中心とする縮小路線へと転じるのか、あるいはチャーリー・アップルビー調教師がアメリカでの拠点をさらに拡大するのか。また、サイード・ビン・スルール調教師の立ち位置が今後どうなるのかも気になるところです。もし、世界展開の規模縮小があれば、それはむしろニューマーケットを拠点とする『本部』にとって、ポジティブな変化となるかもしれません。
今年注目のジョッキーは?
デイヴィッド・モーガン:
今年すでにIdol Horseでも特集されたサウジダービー制覇のジョッキー、コナー・ビーズリー騎手は確かに注目の存在ですが、私が特に注目しているのは若手見習いのウォーレン・フェンティマン騎手です。
デュラン・フェンティマン騎手の息子で、近年盛り上がりを見せているポニー競馬で基礎を学び、リチャード・フェイヒー厩舎の強力な後ろ盾を得て見習い騎手としての一歩を踏み出しました。2024年終盤にはわずか41鞍で6勝を挙げ、年が明けてからはさらに18勝を加えています。
バランス感覚、勇気、戦術眼、そして見習いとは思えない力強さを兼ね備えており、将来が非常に楽しみな逸材です。
アンドリュー・ホーキンス:
カラム・ロドリゲス騎手には、これまでいくつもの試練がありました。体重の軽さに恵まれず、ニューマーケットやランボーンといった南部の主流からは外れた北部イングランドを拠点にし、5年前にはコカイン使用による出場停止処分も受けています。
しかし、2023年にG1・スプリントカップをリージョナルで制して初のG1勝利を挙げてからは大きく飛躍しました。2024年は勝率20%で68勝を挙げ、リーディング8位にランクイン。この勝率は、上位20名の中ではオイシン・マーフィー騎手に次ぐものです。
今年も同様の成績をより多くの厩舎で残せれば、評価はさらに高まるはずです。
ジャック・ダウリング:
ディラン・ブラウン・マクモナグル騎手は、アイルランドのキルケニーを拠点にジョセフ・オブライエン厩舎の専属騎手として活動していますが、同厩舎のG1候補馬と組んでイギリスの大舞台でも活躍が期待できる若手ジョッキーです。
すでにG1・ナショナルステークスを制したスコルシーチャンプ、そしてダービー候補として名の挙がるテネシースタッドといった有力馬が控えており、21歳の彼がイギリスクラシックを勝つ可能性も決して否定できません。

今年が正念場の人物は誰?
アンドリュー・ホーキンス:
書面上では、アレン卿が英国競馬統括機構(BHA)の新会長に就任するのは素晴らしい選択のように見えます。新たな視点は本来歓迎されるべきものですが、競馬界は閉鎖的な産業であると批判されがちです。
その背景には、競馬界以外の出身者が競馬団体のトップに就任して、うまくいかなかった事例が世界各地に数多く存在するという事実もあるでしょう。直近では、レーシング・ヴィクトリアのアンドリュー・ジョーンズCEOが業界関係者との軋轢から辞任に追い込まれた例もあります。
アレン卿は明らかに競馬と関係がなく、今年後半に正式に始動する際には、数多くの困難に直面することになるでしょう。最初にして最も重要な任務は、新たな最高経営責任者(CEO)の任命です。その人選は、アレン卿がどのような組織を築きたいと考えているのかを示すことになり、懐疑的な目で見ている関係者に対して自らの手腕を試される試練の場にもなるでしょう。
デイヴィッド・モーガン:
キーラン・シューマーク騎手は、昨年ゴスデン厩舎の騎手に任命された際に多くの批判を浴びました。シーズン終盤にG1勝利を挙げたとはいえ、その視線がすぐに和らぐことはなさそうです。
実のところ、彼の騎乗内容は決して悪いものではなく、あとはシーズン序盤に大舞台での勝利を1つか2つ決めてしまえば、あの騒動も過去のものとなるでしょう。とはいえ、懐疑派を黙らせるには、確かな結果が必要です。
ジャック・ダウリング:
タディ・ゴスデン調教師には『偉大な父を持つがゆえの重圧』が常にのしかかっています。ジョン・ゴスデン調教師の息子であり、父との共同調教師体制も今年で5年目に入ります。そろそろ「クレアヘイヴン調教場の後継者として本当に相応しい存在かどうか」を証明すべき時期でしょう。
特に2024年は、ゴスデン厩舎としては物足りないシーズンでした。G1勝利数は過去3年がそれぞれ8勝、7勝、6勝だったのに対し、2024年はわずか2勝。こうした成績低下に対し、常に『親の七光り』や『恵まれた環境』が要因だと指摘する声は尽きません。2025年は、タディ自身がその評価を跳ね返すべき年になります。

2025年、イギリスで主役となる古馬は?
ジャック・ダウリング:
昨年、サセックスSの直前に呼吸器系の感染症を患ったロザリオンですが、リチャード・ハノン調教師と馬主のオバイド殿下は辛抱強く待つ選択を取りました。今年はそれが功を奏すのではないでしょうか。
ブルーポイント産駒のロザリオンは、G1・2000ギニーではノータブルスピーチの2着に敗れたものの、良馬場で真価を発揮し、G1・愛2000ギニー、G1・セントジェームズパレスSと連勝。今季はニューベリー競馬場のG1・ロッキンジSからスタートし、そのままマイル路線の覇権を握る存在になると見ています。
デイヴィッド・モーガン:
昨年のG1・愛1000ギニーを制したフォールンエンジェルには大いに期待しています。現在はワスナンレーシングが所有しており、カール・バーク厩舎に所属。まずはG1・ロッキンジSで始動し、ロイヤルアスコットへと向かう見通しです。
まだ8戦しかしておらず、この冬を越えての成長も見込まれます。肉体的にも精神的にも一段と充実した姿で、牡馬を相手に堂々と渡り合うシーズンになる可能性があると見ています。
アンドリュー・ホーキンス:
スタディオブマン産駒、カルパナが昨年末に見せた成長ぶりは非常に目を引くものでした。タイプ的には同じジュドモント所有の牝馬ブルーストッキングと似ていますが、G1・凱旋門賞のようなビッグレースを狙うには、3歳から4歳へのさらなる飛躍が求められます。
それでも昨年終盤の内容からは大きな可能性を感じさせました。今年、一気に主役級へと飛躍してもおかしくない1頭です。

英国競馬界は数多くの問題を抱えていますが、それを改善し、競馬のイメージを良くする『手っ取り早い』改革は何でしょうか?
デイヴィッド・モーガン:
どこから手をつけたらいいか迷うほどです。ただ、まず最初に言っておきたいのは、英国競馬は今も素晴らしいスポーツだということです。馬に関わる現場には本当に素晴らしい人たちがいて、驚くような仕事をしています。
とはいえ、修正が必要な問題は山積しています。資金面や賞金水準(もしくはその低さ)、増えすぎた重賞競走、海外への質の高い馬の流出、政府による支払い能力チェックの導入問題、違法ブックメーカーの急増、合法業者の影響力、素人じみた裁決制度、英国競馬統括機構(BHA)の弱体化、動物愛護団体への過剰な配慮、視野の狭いマーケティング、利害関係者の利益確保のための業界内の分断と縄張り意識、とまさに数え切れません。
そんな中でも、比較的取り組みやすい『草の根の改善』として、私は「全競馬場の女性用更衣室とシャワー施設の整備」を挙げます。2025年の今になっても、男女問わず騎手が毎日安心して使える設備が整っていないというのは、スポーツとして恥ずべきことです。整備が遅れている競馬場は、言い訳をやめてただちに行動に移すべきです。今年中にすべて終わらせるべきでしょう。
ジャック・ダウリング:
私は、業界全体に『決まった休養日』を設けるべき時期が来ていると思います。そして、それは競馬というスポーツにとって何ら損失ではありません。日曜夕方の競馬開催を覚えていますか?あれがいかに無駄な発想だったかは、今となっては明白です。
英国の競馬シーズンにおいて、日曜日の開催で本当に注目すべきレースはほとんどありません。たとえば、1000ギニーを金曜日に移すなどして、日曜日を固定の休養日にするべきです。厩舎スタッフ、調教師、騎手、日々の過密スケジュールに追われる彼らにこそ、週に一度の休息が必要です。そして、競馬そのものもその『ひと息』で救われるはずです。
アンドリュー・ホーキンス:
デイヴィッドが挙げた『重賞競走の乱立』は確かに問題です……が、オーストラリアの重賞体系の混乱ぶりと比べれば、英国のそれは夢のように整っていると言えます。
それでも、今季、海外の馬を呼び込もうとする取り組みが始まっているのは良い兆候です。次なるステップとしては、地元の馬を海外に売らず、また早期引退させずにイギリス国内で走らせ続けるような動機付けを強化することが必要です。
オーストラリア競馬には問題も多いですが、4歳以上の馬に向けた高額賞金レース体系の創設が、種牡馬入りやアジア流出をある程度食い止めることに成功しています。それにより、従来なら南半球で走ることのなかった欧州の良血馬が輸入されるようにもなりました。英国でも同様の仕組みが導入されれば、上級条件が厚くなり、それが産業全体の底上げにもつながるでしょう。