Aa Aa Aa

ジャック・カラン騎手には、香港で過ごした幼少期の良い記憶がいくつもある。

シャティン競馬場のゴール板を過ぎたカーブを見下ろす、フェンスで囲まれた居住区。レースコースガーデンズでの暮らし。ビーズリバー馬術センターでのポニー乗馬。ハッピーバレーでの調教やバリアトライアルなど。

そしてクリスマスには、兄弟そろって特別な贈り物を受け取っていたことも覚えている。

「クリスマスになると、サンタさんから勝負服をもらっていたんです」とジャック・カランは話す。

「実際には母が作ってくれていたんですが、父が着ていた勝負服の子供版みたいな服でした。ビューティーオンリーやブレイジングスピードの勝負服もありましたよ。あれを着て公園を走り回っていました」

父のニール・カラン騎手は、ビューティーオンリーで香港クラシックマイルとG2・チェアマンズトロフィーを勝利。ブレイジングスピードではG1・チャンピオンズ&チャターカップを2勝し、G2・ジョッキークラブカップも制している。

ニール・カラン騎手は当初、香港で冬季の短期免許で騎乗していたが、2014年8月、妻のトリッシュさんと幼い子どもたちを伴ってシャティンへ本格移住した。

妥協のない騎乗を貫くジョッキーとして評価を確立し、ときに歯に衣着せぬ、荒っぽさもにじむ性格ながら、目の肥えた香港ファンからは『アイアンマン』の異名で称えられていた。

香港競馬では18歳未満は本開催日に競馬場へ入れないため、ジャックと3人の弟、ヘンリー、テッド、ウィルは、ハッピーバレーのバリアトライアルではおなじみの存在だった。ときには勝負服姿で、いつも父の仕事の一部になりたがっていた。

そのジャックは今、19歳を迎えた。礼儀正しく、受け答えも明晰で聡明な青年となり、イギリス競馬界で急速に台頭しつつあるジョージ・バウヒー厩舎の見習い騎手として、自らの名を広め始めている。

英国の大学進学前資格であるAレベルの勉強と並行して、当初はアマチュアとして騎乗し、1年前に見習い免許を取得。昨季の見習い騎手王者であるジョー・リーヴィ騎手や、同じくバウヒー厩舎に所属する若き注目株、ビリー・ロックネイン騎手に続く存在として、英国の若手有望株の一人に数えられている。

初年度の見習いシーズンは故障離脱もあった。古傷だった肘を矯正する手術を受け、その後には脳震盪にも見舞われた。それでも年間50勝という好成績で締めくくり、見習い騎手リーディングでも、昨季は28勝で4位にランクイン。今季はそのタイトルに本格的に挑む構えだ。

すでに海外経験も積んでいる。年末にはオーストラリアへと渡り、アナベル&ロブ・アーチボルド厩舎に所属して騎乗し、2勝を挙げた。

「ここまでは、これ以上ないくらいうまくいっています」と彼はIdol Horseに語る。「もちろん昨年はいくつか躓きもありましたが、起きたことすべてが自分のためになったと思っています」

「一日一日を大事にしながら、その時その時で進んでいくしかありません。2日先、3日先のことすら分からない世界ですから。レースで乗り始めてまだ2年足らずですし、見習いとしてもまだ1年経っていません」

The Callan Family at Happy Valley barrier trials
NEIL CALLAN & FAMILY / Happy Valley // 2014 / Photo supplied
Brothers Jack and Henry Callan playing at Happy Valley barrier trials
JACK & HENRY CALLAN / Happy Valley // 2013 / Photo supplied

Idol Horseがジャックに話を聞いたのは、イングランド北東部のニューカッスル競馬場。春の気配がようやく差し始めたものの、冷たい風が吹く午後だった。気温が20度を下回るだけで地元の人がダウンジャケットやマフラーを身に着ける、香港のような蒸し暑い亜熱帯気候とは真逆の場所だ。

彼はすでに第1、第2レースに騎乗し、2着、3着と結果を残していた。次の騎乗は最終8レースまでない。手にしていたのは、丸めたショートパンツのように見える一着で、「時間を有効に使うためにプールへ泳ぎに行くんです」と話した。

父がG1ジョッキーであることに加え、母はデヴィッド・リンガー調教師の孫娘でもある。だからこそジャックは、騎手という仕事がどんなものかをすでによく知っている。歓喜も挫折も、興奮も危険も、そして見習い時代を越えて成功するために必要な覚悟も。

「息子たちはみんな、そういう環境で育ってきたんです」と父のニール・カラン騎手は言う。

「長い間、私が競い合う姿を見てきたし、自然といろんなことを吸収しています。騎乗後に不満をぶちまけながら帰ってきたり、『あれは勝てたのに』『こう乗るべきだった』なんて言ったりするのを聞いてね」

「本人たちは学んでいる自覚はないかもしれませんが、頭には入っているんです。そして実際に自分で乗るようになると、そういう言葉がふと蘇ってきて、ようやく私が何を言っていたのか分かる時がある」

「たぶん小さい頃は、みんな騎手にもなりたいし、サッカー選手やゴルファーにもなりたがるものでしょう。でも10代に入る頃には、物事をもう少し理解して、自分が人生でどこへ向かいたいのかが見えてくるんだと思います」

ジャックのひとつ下の弟であるヘンリーも、アマチュア騎手として競馬で騎乗している。ただし彼は見習い騎手の道には進まない。すでに兄より背が高く、自分の夢は調教師になることだとはっきり口にしている。

14歳のテッドも馬に乗り始めており、末弟のウィルはまだ小さすぎてポニー以上の馬には乗れない。それでも長男のジャックにとって、騎手になることだけはずっと変わらぬ夢だった。

「本当に、物心ついた時から夢中でした」とジャック・カランは憧れの姿について語る。

「ずっと競走馬に夢中なんです。子どもの頃は障害馬術もたくさんやりましたが、最終的な目標はいつも競馬でした」

馬との相性の良さ、父のようにプロのジョッキーとしてやっていけるかもしれない資質は、実はかなり早い段階、3歳の時点で表れていた。きっかけは、英国の親族を訪ねた家族旅行中の出来事だった。

「(ジャックが)乗っている最中にポニーが暴走してしまって」と父のニールは振り返る。

「祖父母の家の庭で、ひとりで行ったり来たりできるか試そうと、初めて手を離した時でした。家の庭からヤードへ抜ける隙間があって、ポニーがハミに逆らって、そのまま駆け出してしまった。隙間を抜けて、二つの厩舎の間を100ヤードほど走って、そのままウォーキングマシンのほうまで行ってしまったんです」

「自分は携帯を落として追いかけました。もう落馬して大変なことになっているんじゃないかと思って。でも見てみると、ウォーキングマシンのそばでまだちゃんと乗っていて、ポニーは普通に草を食んでいました」

「ちょっと驚いた顔はしていましたが、そのあと笑い出したんです。ジャックは昔からポニーに乗るのがいつも上手でした」

ジャック本人も、初めてサラブレッドでキャンターに乗った時の高揚感を覚えている。それは一家が香港からイギリスへと戻った2021年のことだった。

「ジェニー・シムコックさんと、デヴィッド・シムコック調教師のところへ行った時、ジェニーさんが『よければ乗ってみてもいい馬がいるよ』と言ってくれたんです。競馬に夢中なのを知ってくれていたみたいで」

「それでジェニーとデヴィッドの厩舎に通って乗るようになって、初めて朝の調教に立ち会ったその日、デヴィッドが僕を馬上へ上げてくれました。当時は14歳で、体格も本当に小柄でした」

「その馬は、おそらく自分の体重の20倍くらいありました。でも、すごく、すごくワクワクする感覚でした」

レースでの初騎乗もまた、胸が高鳴る体験だった。2023年4月2日、バウヒー厩舎、AMOレーシングのスターエンジェルに騎乗して、1マイル半のアマチュアハンデ戦に臨んだ。前々で運んだが、最後は脚が鈍って6着に終わった。

「本当に最高でした」とジャック・カランは当時を振り返って言う。

「もともと競馬の魅力には取りつかれていましたが、あれでさらに強くなりました。この仕事が本当に好きなんです」

「ありきたりに聞こえるかもしれませんが、人生で一日も働かなくていいような感覚に近いです。本当にそうなんです。そういう環境で育ってきたし、馬が好きで、このスポーツを取り巻くすべてが好きなんです」

Apprentice jockey Jack Callan at Newcastle Racecourse in 2026
JACK CALLAN / Newcastle Racecourse / 2026 / Photo by Idol Horse
Jack Callan wearing mini Beauty Only silks
JACK CALLAN / Photo Supplied

香港のシャティンで暮らした騎手の息子が、自らも騎手の道を選んだ例はいくつもある。ジャックもその一人だ。

チャド・スコフィールド、ザック・ロイド、キャンベル・ローウィラー、トム・プレブル、ジェイ伝・ロイド、トール・ハマーハンセンといった騎手たちもその例だ。

幼少期に近所にいたトップジョッキーや名調教師の顔ぶれは、香港競馬、ひいては世界の錚々たる顔ぶれだ。当時はそれが特別だとは思っていなかったが、今では見え方が違う。

「5歳で香港に移ったので、当時はあれが普通の騎手のレベルだと思っていました。でも実際はまったく普通じゃない。信じられないほど上手い騎手たちです」

「冬にはオーストラリアへ行って、父と一緒に乗っていた騎手たちとも一緒に乗りました。それもすごく良い経験でした。みんなやり方が本当に違うんです。しかも世界の舞台でそれをやるとなると、まったく別の次元になります」

「父はチャド・スコフィールドやリーガン・ベイリス、サム・クリッパートン、ジェームズ・マクドナルドといった騎手たちとよく一緒に乗っていました。僕が冬にオーストラリアへ行った時も、皆がそこで乗っていたんです」

「それに12月のインターナショナル・ジョッキーズ・チャンピオンシップ(IJC)で香港に行った時には、まだ香港で乗っていた騎手たちも見ました。ジョアン・モレイラ騎手は香港で本当に、本当に上手いし、もちろんザック・パートン騎手もそうです」

「自分も騎手として乗るようになると、あの騎手たちがどれほど上手いのかを、より深く実感できます」

父が到達したレベル、つまりG1を勝ち、モレイラ、パートン、ライアン・ムーア、ヒュー・ボウマン、ジェラルド・モッセらと大舞台で肩を並べた、その場所こそがジャック自身の目標でもある。

そこへ辿り着くには、まだ長い道のりがあることも分かっている。それでも、学び続け、技術を磨き続ける覚悟は揺るがない。

父のニール・カランは「アマチュアで乗っていた時は、過度に注目を浴びることなく経験を積めるし、レースを読む力も養えると考えていました」と言う。

「だから『とにかく、競馬場ごとの乗り方を覚えろ。バランスの取り方を覚えろ。でも何より大事なのは、レースを読む力だ。ペース、ポジション、そしてレース中に状況へ対応する力を身につけろ』と口酸っぱく言ってきたんです」

「(息子が)見習い騎手になった時、それがもっと自然にできるようになるように、まずレースを読むことを覚えろと伝えていました」

「だから、そこは徹底して言い聞かせてきました。もちろん完璧じゃないし、してはいけないようなちょっとしたミスもまだあります。でも本人もそれは分かっている。それを自分で分かっているだけでも大きいんです」

「ミスから学んで、引きずらずに次へ進む。そこから改善して、同じ失敗を繰り返さない。そういう細かな部分を、ずっと息子に教えてきました」

もっとも、父の助言だけが唯一の指針ではない。ジャックには、元騎手で騎手向けのコーチを務めるマイケル・ヒルズもいれば、検量室の先輩たちからの助言もある。その中には、まさに一流と呼べる騎手たちも含まれている。

そして彼は、家族ならではの勝負意識も楽しんでいる。

ジャック・カランは「父とはライバル関係ですよ」と話すと、意味深な笑みが浮かべた。

「数週間前にバーレーン競馬で一緒に乗ったんですが、それも良い経験でした。父は断然人気の馬に乗っていて、楽な手応えのまま僕をあっという間に抜いていきました」

「しかも僕ら二人の騎乗依頼を父がまとめていたので、正直あまりうれしくなかったです。父はやっぱり、エージェントより騎手のほうが向いていますね」とジャックは笑う。

「でも、そういうライバル意識は常にあります。今も実家に住んでいるので、僕はいつも父に勝ちたいし、父も僕に勝ちたがる。師匠のほうが弟子より上だと証明したいんでしょうね」

「とはいえ、父から教わった以上のものを自分で身につけたいです。それがプランです」

そして彼自身が言うように、オーストラリア競馬のような場所へ行く経験は、本当に成長の助けになる。香港で育った彼にとって、そうした国際的な視野はごく自然なものだ。そして、かつて遊び場だったシャティンとハッピーバレーで、いつの日か自分も乗りたいという思いもまた自然な願いだ。

「いつかは必ず、あそこ(香港競馬)で乗るのが目標です。短期でもいいし、もしかしたら将来的に長く乗ることになるかもしれません」

「自分のキャリアがどう進むかは分かりませんが、香港の競馬を見るのは大好きですし、オーストラリアで乗る競馬は、ある意味では香港とすごく似ています」

「いつか、そこで乗りたいですね」とジャックは語る。その日、レースの合間の水泳から戻った彼は、ニューカッスルの最終レースで先手を取ってそのまま押し切った。少なくとも、進むべき方向は間違っていないように見える。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

デイヴィッド・モーガンの記事をすべて見る

すべてのニュースをお手元に。

Idol Horseのニュースレターに登録