今年のG1・ブリーダーズカップ・クラシックで、ソーピードアンナが世紀の対決に臨む可能性が高まっている。
もし夏の2戦を無敗で突破すれば、同厩舎でケンタッキーダービー馬のミスティックダンを始め、連覇を狙うBCクラシック前年覇者のシエラレオーネ、今年のKYダービー馬・ソヴリンティ、そしてサウジカップ覇者のフォーエバーヤングといった豪華メンバーとの共演が実現するかもしれない。
管理するケニー・マクピーク調教師はIdol Horseに対し、今年は昨年制したBCディスタフには向かわず、牡馬との頂上決戦に照準を合わせる可能性が高いと明かした。
「もし2戦とも勝てば、クラシックに出すつもりです」とマクピーク師は語る。「クラシックでは牝馬の斤量減がありますし、ローテーション上も余裕があります。今年は彼女を無理に使っていないですからね」
「ディスタフにもう一度出す意義はあまり感じません。もちろん、調子が万全でなければディスタフに回りますが、個人的にはクラシックに出したいと思っています。シエラレオーネには勝っていますし、昨年はフィアースネスと互角の勝負も演じました。フォーエバーヤングとの対戦も楽しみですよ」
牝馬がクラシックを制したのは、2009年のゼニヤッタただ1頭。仮にソーピードアンナが勝利すれば、ティズナウ(2001年)以来となる米年度代表馬によるクラシック制覇、そして史上2頭目の牝馬による同レース制覇という歴史的快挙となる。
過去10年でクラシックに挑んだ牝馬は、2019年のエレイト(4着)と、2011年のハバディグレイス(4着)のわずか2頭のみ。ゼニヤッタが2009年に勝利し、翌2010年に惜敗して以降、牝馬にとってクラシックの壁は高く立ちはだかる。
「次の2戦はいずれもG1で、彼女の現在地を測るうえで大きな試金石になります」とマクピーク師は語る。
「決断を下すのはまだ先です。まずはパーソナルエンスンSに向けて順調に仕上げ、結果を見てから考えたいと思います。クラシックに出られたら、それは競馬界にとっても大きな出来事になるでしょう」
ソーピードアンナは今季、オークローンパーク競馬場でのG2・アゼリステークス、そしてG1・アップルブロッサムハンデキャップをいずれも快勝し、順調な滑り出しを見せていた。ちなみに、同競馬場があるアーカンソー州はマクピーク師の故郷でもある。
だが、ケンタッキーダービー当日の前座レースとして行われたG1・ラトロワンヌステークスでは単勝1倍台の断然人気に推されたものの、まさかの最下位(7着)に沈んだ。
それでも、6月末のG2・フルールドリスステークス(チャーチルダウンズ)で再び勝利を収め、存在感を取り戻した。しかし、その一敗が今もなおマクピーク師の脳裏に焼き付いている。
「アップルブロッサムからわずか中20日での出走でした」とマクピーク師は振り返る。
「調教では素晴らしい動きを見せていましたし、そこまで消耗もしていませんでした。だが、うまく運びませんでしたし、あのレースでは力を発揮できませんでした。彼女を責めることはできませんし、敗因はありました。もしあの敗戦を除けば、彼女に求めるものなんて何もありません。特別な馬なんです」
今年のサラトガ開催は7月10日の『開幕日』から本格スタートを切った。ベルモントパークの改修工事により、6月上旬から一部レースは行われていたが、夏競馬の本番は今。9月1日のレイバーデーまで、週5日開催が続く。
そして、多くのファンが待ち望むのは、8月23日の『トラヴァーズデー』。ソーピードアンナはその日に行われるG1・パーソナルエンスンSに出走を予定している。この日程は、昨年彼女が唯一牡馬に挑んだG1・トラヴァーズステークスと同じだ。このレースではフィアースネスのアタマ差2着に敗れている。
「先週現地入りして、今はとても順調ですよ。まだ時間は十分ありますから、焦る必要はありません。この時期のサラトガは最高の環境です」
マクピーク師はこれまで北米でG1を31勝しているが、ブリーダーズカップ・クラシックには未出走。ソーピードアンナのBCディスタフ制覇が、38回目の挑戦での初ブリーダーズカップ勝利だった。
今年は、そのクラシックで悲願の初出走を果たす可能性がある。しかも、それだけではない。2024年のケンタッキーダービー馬ミスティックダンについても、700万ドルの賞金のクラシック出走を見据えて調整されている。
「ミスティックダンも今はサラトガにいますが、次走は9月以降になりそうです。2頭とも、ニューヨーク入りの前にレキシントンのマグダレナファームで一息入れさせました。ミスティックダンは前走のスティーブンフォスターSの後も順調で、調整は順調に進んでいます」
興味深いエピソードもある。マクピーク師は、日本のフォーエバーヤングの馬主であり、人気コンテンツ『ウマ娘』を展開するCygamesの親会社・サイバーエージェントの代表でもある藤田晋氏と、セレクトセールで対面を果たしていた。
「昨年のダービーに関しては、藤田さんはそこまで怒ってはいなかったです。ですが、再戦を望んでいるようでした。だから、11月にデルマーで全員が揃うといいですね」
藤田氏もその意向を認めており、フォーエバーヤングは10月1日のJpn2・日本テレビ盃(船橋)をステップに、BCクラシック参戦を予定している。2月のサウジカップでは、マクピーク厩舎のラトルンロールを退けて勝利した経緯もあるだけに、再戦への期待は高まっている。
「あとは、本当に強い馬が勝つだけです」と藤田氏は笑った。