日曜日の深夜、東京競馬場では約4500人が集まってG1・凱旋門賞のパブリックビューイングが行われたが、日本のシンエンペラーや武豊騎手のアルリファーを尻目に秋のロンシャンを先頭で駆け抜けたのは、イギリスの牝馬ブルーストッキング。
日本のファンの期待はまたしても幻に終わった。
府中競馬正門前駅と近隣の駅からは終電が出発しており、東京競馬場に集まった熱心な競馬ファンにとっては長い夜となった。またしても、勝てなかった。武豊騎手の挑戦は20年で11度目に及ぶもまた勝てず、シンエンペラーはヴィクトワールピサ、ジャスタウェイ、マカヒキ、ドウデュース、クロノジェネシス、ハープスター、ゴールドシップといった、歴代の敗れてきた日本馬リストに名を連ねる結果となった。
エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴルのような接戦に持ち込むことも、今年はできなかった。
ブルーストッキングはアルリファーに11馬身差、シンエンペラーに12馬身差、そして2着のアヴァンチュールに1馬身1/4差を付ける勝利。シティオブトロイ、ゴリアットの不在でスター馬不足と見られていた凱旋門賞だったが、その通りの結果となった。

人気を集めたソジーは4着、愛ダービー馬のロスアンゼルスは3着に終わり、ソジーを管理するアンドレ・ファーブル調教師がIdol Horseの取材に対して語ったように、今年のヨーロッパ3歳世代は『一流』ではないという見解に拍車をかけるものだった。
とはいえ、ブルーストッキングの勝利に価値がないわけではない。24歳のロッサ・ライアン騎手、ラルフ・ベケット厩舎にとっては大きな勝ち星となった。
ライアンにとっては通算3回のG1制覇の中で2勝がこの馬で挙げており、53歳のベケットは1年前にエースインパクトの2着に終わったウエストオーバーの雪辱を果たす勝利だった。
「我々にとって最高の一日です。間違いなく」とベケットはレース後に語った。
雨が降ったパリの午後、ブルーストッキングは人気を上げていた。2年前にアルピニスタが勝った年ほどでは無かったものの、馬が駆け抜けると水しぶきが飛ぶような馬場コンディションのレースだった。
ブルーストッキングは3番枠からの発走、エイダン・オブライエン厩舎のロスアンゼルスがペースを刻む中、その真後ろというボックスシート(絶好の位置)で追走。直線では早々と先頭に立ち、キャリア史上最高の走りを見せて先頭で駆け抜けた。
「枠に助けられました。ロッサは良い位置を取ってくれましたし、全てが計画通り、上手く行きました。昨年はウエストオーバーがラスト1ハロンで先頭に立ったので、今年も後ろの差し馬を警戒していましたが、今日は最高の結果でしたね」
「なにより、この馬は体質の強さが素晴らしい。5月に始動して、キングジョージ、インターナショナルSと全てのレースをきちんと走り、敗れてもまた立ち上がる。タフなレースのヴェルメイユ賞を走った3週間前に走ったばかりなのに、今日この走りをするなんて並外れた馬じゃないと無理です」

ブルーストッキングは、G1・キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスではゴリアットの快勝を前に2着、G1・インターナショナルステークスではシティオブトロイを尻目に4着に敗れている。この2頭の勝ち馬の不在は、レースをより混戦模様とさせ、ブルーストッキングや日本勢への期待も高まっていた。
実際、過去の日本からの挑戦馬はシンエンペラーよりも実績馬が多くおり、なおかつその馬たちですら敗れてきたが、今年の『混戦』は日本競馬界の悲願にとって好都合なシナリオとなるはずだった。2020年の凱旋門賞馬ソットサスを全兄に持つ血統、そして3週間前のG1・愛チャンピオンSでの3着健闘も相まって、期待は日に日に高まりつつあった。
シンエンペラーは好位置でレースを進め、5番手で追走していたが、フォルスストレートの段階では7番手に後退。鞍上の坂井瑠星騎手が追い始めたとき、シンエンペラーは殆ど手応えが無く、アルリファーの一つ後ろである12着でゴールした。

前走ベルリン大賞を圧勝したアルリファーにとってはこの馬場は味方していたはずだが、武豊騎手の念願の初勝利という夢は、最終コーナーを回って直線に入った段階で夢のまま終わってしまった。
東京競馬場に集まった競馬ファンの希望は打ち砕かれたが、ベケットとオーナーのジュドモントの期待は報われた。G1・ヴェルメイユ賞の勝利を受けて、2週間前に12万ユーロを支払って追加登録。当時2着だったアヴァンチュールも凱旋門賞で2着に入り、その慧眼の正しさを証明した。
ジュドモントファームにとっては7度目の勝利、故ハリド・アブドゥラ殿下が築き上げた強力な帝国が、20世紀半ばの巨人マルセル・ブサック氏が持つ記録を抜き、歴代最多勝オーナーに浮上した。レインボウクエスト(1985年)、ダンシングブレーヴ(1986年)、レイルリンク(2006年)、ワークフォース(2010年)、そしてエネイブル(2017年・2018年)に次ぐ勝利となる。
今年の凱旋門賞は牝馬のワンツーフィニッシュとなったが、牝馬優勢の流れが勢いを取り戻しつつあることを証明するような結果となった。2011年以降、牝馬はこのレースで9勝している。
深夜の東京競馬場に集まった観客はどうやって家に帰ったのか、どうやって夜の間を過ごしたのか。それと併せて、『チームジャパン』はどうすれば凱旋門賞に勝つ日が来るのか。さまざまなことを考察し、思いを巡らせる結末となった。