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ローズヒル競馬場「4700億円」売却案は否決、会員投票で再開発構想を阻止

18ヶ月に渡って論争を招いたローズヒルガーデンズ競馬場の売却案が、ATC会員の反対により否決された。50億豪ドルの再開発案は、競馬界と地域社会を巻き込んで大きな議論を呼んだ末、白紙撤回となった。

ローズヒル競馬場「4700億円」売却案は否決、会員投票で再開発構想を阻止

18ヶ月に渡って論争を招いたローズヒルガーデンズ競馬場の売却案が、ATC会員の反対により否決された。50億豪ドルの再開発案は、競馬界と地域社会を巻き込んで大きな議論を呼んだ末、白紙撤回となった。

補足:この記事は英語版記事の短縮版です。全文は英語版をお読みください。

あの名牝、ウィンクスの本拠地として知られる100年の歴史を誇るローズヒルガーデンズ競馬場の売却案。オーストラリア・ニューサウスウェールズ(NSW)州政府の後押しを受けて進められていたが、今週の臨時総会でオーストラリアンターフクラブ(ATC)の会員投票により否決された。

推定50億豪ドル(約4,700億円)の土地売却によって、シドニー全体の競馬インフラを大幅に刷新する資金を得ると同時に、2万5000戸の住宅街として再開発される構想だったが、投票では56%の会員が反対票を投じ、政府や一部の有力競馬関係者の支持にもかかわらず計画は頓挫した。

オーストラリアの著名な実業家で長年の馬主であるジョン・シングルトン氏は、集会の途中で退席する際にその場の空気を的確に捉えていた。投票結果が発表される前から結果は明白だったと示唆し、自身は売却を支持していたものの、「賭けてもいいくらいだ!」と流れの変化を皮肉った。

この否決により、シドニー競馬の将来的な資金確保は不透明となった。また、不動産価格の高騰と賃貸住宅不足に苦しむ、シドニーの住宅危機に対する州政府の対応にも打撃を与えることとなった。

NSW州のクリス・ミンズ首相は、「結果が接戦だったことで、かえって受け入れがたいものになった」と、提案が否決された重みを認めた。

議論の中心にいたのは、ATC会長で元連邦大臣のピーター・マクゴーラン氏だった。政府の任命を受けてクラブを率いるマクゴーラン氏は、競馬の財政難を解決する未来志向の施策だと売却を主張したが、会員の間では不信感も根強く、ATCの説明不足や透明性の欠如が批判された。

「本当に有能な人物なら、公に出す18ヶ月前から周到な準備を進めていたはずだ」と語ったのは、元連邦野党党首で、現在は極右勢力の一角をなす政治家のマーク・レイサム氏。彼の言葉は、多くの反対派の不満を代弁していた。

売却反対の機運を高めたのは、ゲイ・ウォーターハウス調教師と元ATC理事のジュリア・リッチー氏が中心となって展開した『セーブ・ローズヒル(ローズヒルを救え)』キャンペーンだった。計画の不透明さを批判し、愛された競馬場を手放す文化的損失の大きさを訴え、オンラインと現場の双方で会員の広範な支持を獲得。草の根の声が巨大プロジェクトを押し戻す結果となった。

今回の売却案否決は、競馬界の統括団体であるレーシングNSWにも飛び火した。提案には表向き賛同していたものの、議論が紛糾する中で裏方に徹し、リーダーシップの欠如を指摘する声が高まっている。

同団体のピーター・ヴランディスCEOは、オーストラリアラグビーリーグ委員会の会長も兼任するスポーツ界屈指の重鎮だが、今回の結果を受けて政府による監督強化を求める声も上がり、その立場が揺らぎつつある。

PETER McGAURAN / Asian Racing Conference // Melbourne /// 2023 //// Photo by Hong Kong Jockey Club

この否決はタイミングとしても厳しいものだ。馬券収入は減少傾向にあり、競馬という文化そのものが若年層の間で薄れつつある。ローズヒルを含む複数の競馬場施設の老朽化も深刻だと報じられている。

「シドニーの4つの競馬場は、今や深刻な老朽化が進んでいる」と、ゲイ・ウォーターハウス調教師はレーシングNSWによる支出の優先順位を厳しく批判した。

この売却案の頓挫は、オーストラリア競馬界にとって一つの転機となる可能性がある。将来世代に向けた資金確保のチャンスを失ったとの声もある一方で、これを機に業界が持続可能性や会員との対話、そして社会からの信頼回復に目を向けるべきだという声もある。

トレードマークの蛍光色の靴を履いて会場を後にした、賛成票を投じたジョン・シングルトン氏の皮肉を込めた一言は、まさにその空気を象徴していた。

「負けるのが常さ。ここは競馬場だからね」

アダム・ペンギリー、ジャーナリスト。競馬を始めとする様々なスポーツで10年以上、速報ニュース、特集記事、コラム、分析、論説を執筆した実績を持つ。シドニー・モーニング・ヘラルドやイラワラ・マーキュリーなどの報道機関で勤務したほか、Sky RacingやSky Sports Radioのオンエアプレゼンターとしても活躍している。

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