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今年も国際色豊かな顔ぶれが集結したG1・メルボルンカップは、オーストラリア生まれのステイヤー、ハーフユアーズが勝利の栄光を勝ち取った。

一方で、ステイヤーの生産地としてはるかに名高いニュージーランドの生産馬は、「地球上で最も速い馬」として名乗りを上げた。ジ・エベレストを制した、香港のカーインライジングだ。

さらに、ダート競馬の本場であるアメリカでは、フォーエバーヤングがG1・BCクラシックを制し、日本調教馬として初めて同レースを制覇。米国が誇るダート最強軍団を打ち破った。

この1か月で、競馬界に長く根付いてきた定説が揺さぶられた。

メルボルンカップを愛したアメリカの小説家、マーク・トウェインの「私の死の報告は大いに誇張されている」という名言を借りよう。

もし、ハーフユアーズのメルボルンカップ制覇が偶然ではないとすれば、『豪州長距離馬オワコン説』は大いに誇張されていたということだ。

メルボルンの北へ車で1時間半、ユーロアのブルーガムファームで生まれたハーフユアーズは、往年のメルボルンカップを彷彿させる存在だ。輸入馬ではなく“自国産の英雄”に愛国的な喝采が送られた時代、1970年代からタイムスリップしてきたかのような一頭だ。

この半世紀でレースは様変わりした。1975年には豪州産が9頭、ニュージーランド産が11頭。今年はアイルランド産8頭、フランス産7頭、英国産3頭、ニュージーランド産と米国産がそれぞれ2頭、豪州産馬は日本産馬と並んで、たった1頭のみという顔ぶれだった。

それでもなお、4大陸から集った多様な出走馬を退けたのは、12代連続で豪州産馬が血統内に連なるハーフユアーズだった。その父は、アイルランド生まれでニュージーランドのG3勝ち馬であるセントジーンだ。

輸入馬全盛期の時代にあっても、豪州産がメルボルンカップを勝つこと自体は珍しくはない。ヴァウアンドディクレア、ナイツチョイスが近年それを証明している。だが、ハーフユアーズの勝利は、いくつもの点で異例だった。

オーストラリア生まれ、その中でもヴィクトリア州の生産馬がメルボルンカップを制したのは、1973年のガラシュプリーム以来、52年ぶりの記録となる。

しかも、その3日前に開催された今年のG1・ヴィクトリアダービーはオブザーヴァーが勝利。ダービーとカップをヴィクトリア州の生産馬が制したのは1944年以来、歴史的な“ダブル”が実現した。

さらにハーフユアーズは、1939年のリヴェット以来となる、コーフィールドカップとメルボルンカップの“カップス・ダブル”を制した豪州産馬ともなった。

GALA SUPREME / G1 Melbourne Cup // Flemington /// 1973 //// Photo supplied

オーストラリア競馬は依然として、スプリント路線で世界の競馬界をリードしている。1000mからマイルの芝スプリントでは、その総合力で世界を牽引し、仮に一括りに勝負するなら世界を席巻するだろう。

豪州の馬産地も長らく、強みである短距離馬に偏重してきた。

皮肉なのは、2着に入ったアイルランド馬、グッディートゥーシューズの父がファストネットロックであることだ。同馬は現役時代、フレミントンの直線1000mで行われたG1・ライトニングステークスを制しており、“スピード至上”を体現する種牡馬の一頭だ。

しかし、マイルを超えると層の薄さが目立ってくる。多くの大手陣営が自家生産で馬を育てる欧州や日本と比べ、豪州の競走馬生産は1歳馬セールでの売却と、2歳戦での早期回収に軸足が置かれる。晩成の長距離馬は輸入に大きく頼ってきたのだ。

ハーフユアーズの勝利が大復興の狼煙とは限らない。それでもこのメルボルンカップ制覇は、「豪州には強いステイヤーを生み出す土壌が今も根付いている」ことの証左である。この瞬間が再生の号砲となるのか、つかの間の閃光に終わるのか、それはこれから分かる。

ハーフユアーズの歴史的勝利、カーインライジングの電撃戦、そしてフォーエバーヤングの本場での覇権は、競馬がいかにグローバルになったかを示している。国境は曖昧になり、スタイルは交わり、従来の常識は覆されている。

いまのところ、彼らは定説を覆した。常に“確実な勝ち筋”を追い求めるこの競技にあって、その行方は痛快なまでに不確かだ。だからこそ、たまらなく魅力的なのだ。

Idol Horse reporter Andrew Hawkins

Hawk Eye View、Idol Horseの国際担当記者、アンドリュー・ホーキンスが世界の競馬を紹介する週刊コラム。Hawk Eye Viewは毎週金曜日、香港のザ・スタンダード紙で連載中。

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