「目標を高く設定しなければ、高いところには到達出来ません」
デヴィッド・イーガン騎手はそう話す。
水曜日のキャタリック競馬場は、総賞金41,150ポンドの6レースが組まれており、数千人の観客が競馬を楽しんでるが、あまり盛り上がっている様子ではない。イーガンはレース前にチャリティのサッカーシュートアウト(PK戦)に参加し、5本中2本のシュートを決めていた。
イーガンが掲げる目標からすると、ノースヨークシャーのローカル競馬場で平日に行われる小さなハンデ戦で勝つことは、優先順位リストの上位には入らないだろう。
しかし、アモレーシングの専属騎手としての仕事は、地味な競馬場でもキャリアの節目に挑戦する舞台を提供してくれる。
キャッタリック競馬場は、イーガンがまだ勝利を収めていない唯一のイギリスの競馬場だ。アモレーシングの勝負服で走るジョージ・スコット調教師の4歳騙馬、プリンスマキシが、イーガンの59競馬場全制覇の希望だ。
「ここではあまり乗る機会がなく頻繁に来ることもありませんが、今回は勝てたらと期待しています」
イーガンが話をするために立ち止まった検量室の周りには、あらゆる年齢の観客が行き交っている。
「全競馬場制覇を完成させるのは良い目標ですが…」と彼は同意する。しかし、プリンスマキシは先頭に立った後に3着に後退し、イーガンは4回の騎乗全てで勝利を逃した。この日フルセット達成とはならなかった。
25歳になったばかりのイーガンにはもっと大きな野望がある。
彼はすでに、前の所属先であるロジャー・ヴェリアン調教師のエルダーエルダロフでセントレジャーを制し、英国クラシック競走での勝利を収めている。また、ミシュリフとは3つのG1勝利を挙げ、3年前に世界的注目を集めた。
彼は中東やアメリカ合衆国でも成功を収め、2022年から2023年の冬には日本でも注目を集めた。2022年のWASJでJRAデビューを果たすと、2ヶ月間の短期免許期間中にヴェルトライゼンデでのG2・日経新春杯を含め、19勝を挙げた。


昨年、エルダーエルダロフでのG1・アイリッシュセントレジャー勝利を除き、大レースでの躍進は少し落ち着きを見せていた。
しかし今、彼はアモレーシングとの2年間の契約と、チャンピオンメーカーのトニー・ハインド氏に代わる新しい代理人によるサポートで、高い目標を達成出来ると確信している。2023年12月、イーガンはキア・ジューラブシャン氏が率いるアモレーシングと専属の主戦騎手契約を結ぶと、これまでにいくつかの注目すべき勝利を収めてきた。
まず、ミスタープロフェッサーで歴史あるリンカーンハンデキャップを制し、次に5月には、エイドリアン・マレー調教師に調教されたアモの代表馬であるブカネロフェルテと、今シーズンのG1・フェニックスSの有力馬と見込まれているアリゾナブレイズでG3レース2勝を挙げた。今年のイギリス全体での勝率は約12%に達し、これまで37勝を挙げている。
「勝率はかなり良いですね」
「今年は新しいエージェントとして、チャーリー・サットンが付きました。今のところ専属で他の騎手は担当していないので一緒にうまくやれています。彼とはロジャー・ヴェリアン調教師のところで一緒に働いたことがあり、引き継いでからも素晴らしい仕事をしています。彼は調教師との関係も良好です」
「アモレーシング以外でも、多くの異なる人々のために勝利を挙げることができたのは重要です」

専属契約外の陣営とは、合計20人の調教師と29勝を挙げている。アモレーシングは今シーズン、すでに英国で60頭以上の馬が、アイルランドでは16頭が走っており、大々的な活動を行っている。
それでも、クールモアやゴドルフィン、シャドウェルやジャドモントのような規模ではない。成功を収めるためには外部での成功も必要だが、大レースの日に質の高い機会を得られることを期待している。
「アモレーシングとの専属契約は大きな利点です。先の日程を事前に把握出来るからです。一方、調教師から依頼を受けて働く場合、どのレースに出走するかは日程が近づくまで決まらないことがありますが、アモレーシングとは出走計画を事前に決めています」
「5〜6日前からその開催に乗れることが分かれば、さらに何頭かの騎乗馬を見つけることができます。それが勝利に繋がったり、新しい依頼に繋がるかも出来るかもしれません」
そう話す彼は、真夏の重要な開催であるグッドウッドフェスティバルを見据えている。彼が憧れるのはそういった開催だが、今回はアモレーシング関係での参加は重賞レースではなくハンデ戦になりそうだ。
昨年のG1・フェニックスステークスを制したブカネロフェルテはG2・キングジョージステークスにエントリーしていたが、調子が戻ってこないため回避することが決まった。
「先週、調教に戻して、現在はカラでの調教を予定しています。まだ目標は決まっていません」とマレー調教師は2日後、電話での取材に回答した。
次に、イーガンの話題に移る。彼は5月のG3・ラッカンステークスでこの馬を勝利に導いたが、G1・コモンウェルスカップへの挑戦は実現しなかった。
「彼は一流の若手で、しっかりした男です」と、マレー師はイーガンについて語る。
デヴィッドの父親はベテラン騎手のジョン・イーガン、母親のサンドラ・ヒューズは元調教師だ。そして、祖父は元調教師の故デジー・ヒューズ氏、叔父は騎手から調教師に転身したリチャード・ヒューズという、まさに競馬一家の家系に生まれた。
「彼のフィードバックは非常に優れていて、そこが本当に好きなところです。展開を読む力もあり、出走前から入念に計画を立てていて、他の馬についても把握しています。集中力があるジョッキーなんです」

イーガンは常に勝利を目指して集中していると語る。
グッドウッドでは、前回ヨークのジョン・スミスズハンデキャップで3着に入ったトニーモンタナに大きな期待を寄せている。
彼は長期的な目標と、自分が目指す場所を常に意識している騎手だ。以前からいつかはチャンピオンジョッキーになり、G1レースの常連騎手になりたいと語っており、アモレーシングとの関係がそこに至る一歩だと信じている。たとえ、その道に小さな競馬場での不本意の日があったとしても、だ。
2年前のロッサ・ライアン騎手や昨年9月のケビン・ストット騎手など、馬主のジューラブシャン氏が過去に何人かの専属騎手と決別しているが、イーガン自身は特に気にしていないという。
「キア(ジューラブシャン)はリスクを恐れず、馬をチャレンジングなレースに送り込むことでその価値を証明してきました」とイーガン。
「私がキアとアモレーシングとの出会った当初、未勝利馬で51倍のオッズだったモジョスターで英ダービーに騎乗し、2着に入ったことがあります。彼らは挑戦を恐れないことを示してきましたし、私も同じような志を抱いてきました」
イーガンとアモレーシングは、今年も英ダービーにオッズ51倍のダラススターで挑んだが、結果は前回の再現とはならなかった。ダラススターはダービー後に飛節の骨折が判明したが、順調に行けば来年に復帰できる見通しだ。
イーガンの中期的な計画としては、寒く暗い冬の季節にはアメリカの『サンシャイン・ステート』に戻る予定だ。将来的には再び日本に戻ることも歓迎されるだろうが、今は昨冬も騎乗したフロリダを見据えている。
「昨冬はフロリダでアモレーシングのために騎乗していましたが、ガルフストリームパーク競馬場で他の多くの人々とも繋がりを持つことが出来ました。今年もそこに戻るかもしれません」
「まだ若く、勝利を目指す以外に気を散らすものはないので、出来るだけそれを目指すつもりです」
もしかしたらその中に、キャタリック競馬場での小さな節目の勝利も含まれるかもしれない。