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世界を巡るゴリアットの挑戦: 『ご意見番』ジョン・スチュワート氏の闘志

アメリカの実業家で馬主のジョン・スチュワート氏は、国際競走、ファンとの交流、そしてアフターケアに関する意見を物申すご意見番だが、その言葉を行動で証明している。

世界を巡るゴリアットの挑戦: 『ご意見番』ジョン・スチュワート氏の闘志

アメリカの実業家で馬主のジョン・スチュワート氏は、国際競走、ファンとの交流、そしてアフターケアに関する意見を物申すご意見番だが、その言葉を行動で証明している。

ジョン・スチュワートが話し始めると、周囲の耳目が彼に集中する。G1・ジャパンカップ(2400m)に出走予定のゴリアットの主要オーナーとして、木曜日の朝、東京競馬場で行われた多言語対応の記者会見でマイクを握った瞬間、会場にざわめきが広がった。

「最高の馬たちが世界中を旅して互いに競い合うことが、このスポーツにとって必要だし、求められていることだと思います」とスチュワート。「それが期待されていることだし、だからこそゴリアットとともにここに来られたことを本当にうれしく思っています」

「信じられないことですが、私が競馬に携わるようになってまだ1年しか経っていません。それなのに、オーストラリアのゴールデンスリッパーやケンタッキーダービー、ロイヤルアスコットといった世界の名だたるレースに参加できました」

「ジャパンカップもその一つで、競馬を始めた時から興味を持っていました。日本の人々が最高のものを愛するのはよく分かっていますし、これは私もこのスポーツにおいて強く共感している部分です」

Christophe Soumillon, John Stewart and Francis-Henri Graffard ahead of Goliath's Japan Cup tilt
CHRISTOPHE SOUMILLON, JOHN STEWART, FRANCIS-HENRI GRAFFARD / Tokyo // 2024 /// Photo by Lo Chun Kit

「日本の人々は、チャンピオンホースがその実力を最大限に発揮する姿を望んでいます。勝者が決まった時に、それが“最高の中の最高”であることを確信できる。それは私も望むことです。他の馬が力を出し切れない中で勝ちたくはありません」

「日本競馬は過去数十年で大きく進化してきたと思います。ただ、世界最高の芝のレースはヨーロッパにあると思いますし、それは皆さんもわかっていることだと思います。そのため、ヨーロッパの最強馬を日本に連れてくることは、日本競馬の進化を測る上で素晴らしい試金石となるでしょう。」

競馬界の御意見番

アメリカの『レゾリュートレーシング』の創設者であり、トヨタ自動車での成功を足掛かりにしたスチュワートは、過去1年間で世界屈指の馬主として頭角を現した。特に、SNS上での発言は注目を集めており、競馬における国内外の問題に対する率直な意見がしばしば議論を呼んでいる。

木曜日の東京での記者会見での発言は穏やかで控えめだったものの、今年初めには日本競馬を批判する鋭い言葉を投稿していた。

「日本が外国馬主に門戸を開かない限り、ケンタッキーダービーへの参加を認めるべきではありません」とスチュワートは4月、X(旧Twitter)に投稿。「馬主資格を取得する手続きに制限が多くまた煩雑すぎるため、国際的な競争相手が日本競馬の賞金をほとんど獲得できない状況です」

さらに、1986年のケンタッキーダービー馬ファーディナンドが2002年に日本で屠殺処分された事件にも触れ、「#boycottjra(JRAボイコット)」というハッシュタグを付け加えていた。

過去の発言を撤回することなく、ジョン・スチュワートは日本競馬の『保護主義的なアプローチ』が業界の発展を妨げているという持論を貫いている。それでも、日本競馬に挑む意欲は衰えず、『飛び込み参戦』の形で日本のカレンダー上の大レースをターゲットにし続けると明言している。

「日本で馬主になるための障壁は信じられないほど高いと思う」とスチュワートはIdol Horseに語った。「日本の競馬関係者に対しては大いに尊敬の念を抱いていますが、もし本気で国際的な競争を求めているのであれば、もっと門戸を開くべきでしょう。それは日本のためにも良いことです」

「問題を解決したいなら、まずは問題について話さないといけません。私は誰かを批判したいわけではありません。この業界に入ってまだ日が浅いので、特定の人に肩入れするつもりもない。ただ、競馬というスポーツをより良くしたいと思っているだけです。だから、解決可能な問題だと思えば、率直に意見を言います」

スチュワートは、批判だけでなくJRAの対応にも一定の評価を与えている。「JRAは非常に親切に私たちを迎えてくれました。日本人は本当におもてなしの心を持った人たちです。ただし、彼らが私に日曜日の賞金を持ち帰ってほしいと思っているかどうかは別の話です。競争相手として歓迎してくれますが、勝って賞金を持ち帰ることまでは望んでいないでしょう。それは、我々が日本馬にケンタッキーダービーを勝たれたくないのと同じです」

さらに彼は、日本競馬の発展について次のように述べた。「良くなってきていますが、競争を開放してお互いに競い合うことでしか真の実力を試すことはできません。これからも日本には最高の馬を連れてくるつもりです。これが私の方法です。日本の厳格な馬主資格制度を経ることなく競争に参加する唯一の手段なんですから」

スチュワートはまた、競馬界全体で特定の勢力が支配的であることにも触れた。「日本では、競馬業界の60%が一つの家族(吉田家)によってコントロールされていますが、これは日本だけの話ではありません。アメリカでもヨーロッパでも同じことが起きています。多くの人がエイダン・オブライエンが現れて全てを勝ち取る状況にうんざりしているでしょう」

それでもスチュワートは、そうした勢力に対して敬意を表している。「私はエイダンもクールモアも大好きですし、彼らが育てたオーギュストロダンの大ファンでもあります。ブリーダーズカップターフスプリント勝ち馬のカラヴェルも来年は彼のところに行く予定です」

「私は彼らを尊敬していますが、日曜日には打ち負かしたいと思っています。そして、人々もそれを見たいのではないでしょうか。誰かが現れて既成勢力に挑む姿を期待していると思います。また、競争の駆け引きというものも楽しめるものです。自分の意見を堂々と表明し、それを信念を持って貫き実行する姿を、人々はきっと評価してくれると思います」

Caravel wins Breeders' Cup
CARAVEL, TYLER GAFFALIONE / G1 Breeders’ Cup Turf Sprint // Keeneland /// 2022 //// Photo by Horsephotos

ヒールかベビーフェイスか

日本のある記者は、スチュワートの発言や挑戦的な態度が、まるでプロレスラーがリングに上がる前に対戦相手を挑発するパフォーマンスのようだと評した。しかし、彼が競馬界で『ヒール(悪役)』として扱われるという予想は外れたようだ。過去のJRAへの批判にもかかわらず、日本競馬界はスチュワートを『仲間』として受け入れていて、つまりベビーフェイス(善玉)として映っている。

「私はただ正直で、ファンの皆さんと同じ立場なんです」と語るジョン・スチュワート。「競馬界の新しい風として、透明性を重視し、裏側の世界をファンに見せることを目指している。それは神秘的なことだからです」

「馬主や調教師、そして素晴らしい馬たちと近い距離で接する機会というのは普通なかなか得られないものです。だからこそ、私はその体験を人々に共有し、そうした機会を一緒に楽しんでもらえるようにしてきました。既存の業界の枠外からこの世界に入ってきた自分の姿を見て、共感してくれる人もいると思います」

「『誰もがやりそうな方法でやってみよう』というのが私のスタンスです。ただ、私には幸運にも大きな資金を投入できる余裕があったので、それを活かしてこの競馬界のトップで挑戦してきました。そして初年度からステークスレースを11勝することができましたが、これはまだ始まりに過ぎません」

Didia wins at Saratoga
DIDIA / G1 New York Stakes // Saratoga /// 2024 //// Photo by Joe Labozzetta / Coglianese Photo

スチュワートが率いるレゾリュートレーシングのビジネスモデルには、ファンとの交流が不可欠な要素として組み込まれている。その姿勢は、ファンを中心に据える東京競馬場にもフィットしているようだ。木曜日にはメディア関係者に『ゴリアット』のロゴが入ったキャップを配布し、日曜日のレース当日には多くのファンにそれを手にしてもらう計画だという。

「ブリーダーズカップでは、120人のファンを無料でスイートに招待しました」とスチュワート。「最高の食事、シャンパン、ワインを用意しました。周りからは『正気か? なぜそんなことをするんだ?』と言われました。でも、今の大きなイベントはとても高額で、普通のファンが手の届かない存在になっています。例えば、3,000ドルのチケット代を払うのか、それとも子どもの矯正歯科治療を優先するのかを悩むような状況です」

「それを無料で提供しながら、アフターケアのための資金も集められるなら、やらない理由がありません。こういったイベントをどこでもやりたいんです。ファンが競馬にアクセスしやすくなるように。そして、一般の人がビッグイベントに参加できなくなるほど敷居を高くするべきではありません。それは競馬に限った話ではなく、サッカーのワールドカップやNFLなど、どんなスポーツにも当てはまることです」

「こうした取り組みを楽しみながらやっているんです。正直、最高に楽しいですよ」

とある日本人との縁

ジョン・スチュワートがジャパンカップの舞台に立つ道は、1989年にトヨタで働き始めたところから始まった。ケンタッキー州ジョージタウンの工場のライン作業員として19歳でキャリアをスタートし、最終的にはトヨタのヨーロッパ製造部門を統括するまでに昇進した。

「19歳のとき、大学の学位も持たずにトヨタで働き始めました。その後、働きながら学位を取得し、組織内で昇進していきました。トヨタでの経験がなければ、今の自分はありません。トヨタが私を育ててくれたんです」

スチュワートは当時の上司であり師匠でもあった横井秀司氏への感謝を忘れない。「横井さんは私にビジネスとオペレーションのすべてを教えてくれました。彼の息子であるユウジさんは今、私の会社で働いていて、私も彼に同じような教育をしています。横井家とはとても良い関係を保っていて、この週末も名古屋から彼が観戦してくれるはずです。」

Goliath and Christophe Soumillon win the King George VI
GOLIATH, CHRISTOPHE SOUMILLON / G1 King George VI And Queen Elizabeth Stakes // Ascot /// 2024 //// Photo by Alan Crowhurst

ジョン・スチュワートの言葉通り、彼のフランス調教馬ゴリアットはすでに次なる挑戦を見据えている。ジャパンカップからわずか2週間後のG1・香港ヴァーズ(2400m)へ招待されたほか、来年4月にはG1・ドバイシーマクラシック(2400m)を早期目標に掲げている。さらに来年はG1・メルボルンカップ(3200m)も視野に入れており、フランスギャロップが驚きの決定でG1・凱旋門賞(2400m)に騸馬の出走を認める場合には、そちらに方向転換する可能性も示唆している。

唯一出走の可能性が排除されているのがG1・ブリーダーズカップターフ(2400m)だ。2024年に地元アメリカのデルマー競馬場で開催されるが、そのきついコース形態が理由で見送られるようだ。

「同じ年に複数のレースで勝った馬を、翌年もまた同じレースだけに出走させるというスタイルには興味がありません。それが世界中で普通に行われていることですが、私は違うアプローチを取りたいと思っています。ゴリアットのような馬が異なる大陸を巡り、ビッグレースで競い合い、ファンにその素晴らしさを感じてもらう機会を提供することが重要だと考えています」

見据える先は世界

スチュワートの発言は行動によって裏付けられている。ゴリアットを東京の舞台に送り出したこと自体が、その意図を明確に示している。

「このプロセスを実現し、推進することは私にとって本当に重要です。私はまず情熱的な競馬ファンであり、他のファンがこうした挑戦を楽しんでいるのを理解しています」

「アメリカはひどいものです。私はアメリカのトップクラスの調教師たちに、ロイヤルアスコットへ馬を連れて行ってほしいと頼みましたが、誰も行きたがりませんでした。理由は『賞金が少ない』というものです。でも私は賞金なんてどうでもいい。世界との競争がしたいんです」

「優れた馬がいるなら、他の場所に連れて行き、真剣に試してみたい。彼らがどれだけの力を持っているのかを証明し、世界の舞台でどの位置にいるのかを見極めたいんです」

「ゴリアットはみんなにその姿を見てもらうべき馬だと思います。だからこそ、彼を世界中のレースで走らせたいと考えています」とスチュワート。「日本はこの壮大な旅の最初の一歩に過ぎません。我々はとてもワクワクしています」

アンドリュー・ホーキンス、Idol Horseの副編集長。世界の競馬に対して深い情熱を持っており、5年間拠点としていた香港を含め、世界中各地で取材を行っている。これまで寄稿したメディアには、サウス・チャイナ・モーニング・ポスト、ANZブラッドストックニュース、スカイ・レーシング・オーストラリア、ワールド・ホース・レーシングが含まれ、香港ジョッキークラブやヴィクトリアレーシングクラブ(VRC)とも協力して仕事を行ってきた。また、競馬以外の分野では、ナイン・ネットワークでオリンピック・パラリンピックのリサーチャーも務めた。

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