2024 チャンピオンズカップ: G1レビュー
競馬場:中京競馬場
距離:1800m
総賞金:2億5920万円(約173万米ドル)
チャンピオンズカップ(旧ジャパンカップダート)は、その名に反して真の『チャンピオン』を生むことが稀なレースとも言える。
しかし、その称号にふさわしい馬がいるとすればそれはレモンポップだ。2000年の創設以来、レースを2度制したのはトランセンドとレモンポップのみ。この快挙を成し遂げたゴドルフィンのレモンポップは、6歳という年齢で現役を引退し、レース2時間後には引退式が執り行われた。
このレースは、2戦しかないJRAのダートG1という貴重な存在であり、日本全体でも3つ(地方含む)しかないG1ダート戦のひとつ。今年の出走メンバーには、G1馬レモンポップ、ペプチドナイル、ドゥラエレーデ、地方競馬のJpn1覇者ミックファイアとウィルソンテソーロ、コリアカップ連覇のクラウンプライド、安田記念4着のガイアフォースなどが名を連ね、多彩な顔ぶれが揃った。
レース展開
2番ゲートから好スタートを切ったレモンポップは、坂井瑠星騎手の手綱で自然な形で先頭を奪取。4番ゲートからは今年のフェブラリーステークス覇者ペプチドナイルがプレッシャーをかけつつ、ミトノオーが1コーナーに入るところで、外からレモンポップに並びかけていく展開。
その結果、最初の400mは非常に速いペースとなり、1600mから1400m地点のラップタイムは11.0秒と、この日唯一の11秒台が記録された。坂井はペースを緩めようと試みるも、全体の流れは引き締まったまま、馬群は一団で進んだ。
レモンポップは、向正面でミトノオーを突き放し、3馬身のリードを奪取。しかし、この1800mという距離は同馬のスタミナの限界に近い挑戦であり、ラスト1ハロンは坂井にとっても永遠に感じられたに違いない。
後方からウィルソンテソーロを操った川田将雅騎手は、最後のコーナーで馬群に包まれたものの、進路を見い出して追撃を開始。しかし、これが勝敗を分けた可能性が高く、先に抜け出したレモンポップを捉えるにはわずかに及ばず、僅差の2着に終わった。
一方、ドゥラエレーデに騎乗したライアン・ムーア騎手は、巧みに内を突き、最後の追い込みで3着に食い込んだ。内を利して進路を確保したその技量は見事だった。
勝者・レモンポップ
レモンポップほど国内で安定した成績を残した馬は少ない。日本で16戦13勝、その他の3戦も僅差の2着(クビ差、1馬身差、1馬身1/4差)という素晴らしい成績を誇る。
G1レースでは、JRAの国際G1を3勝(チャンピオンズカップ2勝、フェブラリーステークス1勝)し、地方競馬のNAR G1も3勝(マイルチャンピオンシップ南部杯2勝、さきたま杯1勝)を収めた。これら地方G1は国際的にはリステッド競走扱いだが、レモンポップの実力を証明するには十分な結果だ。
唯一の課題を挙げるとすれば、海外遠征では国内のような輝かしい結果を残せなかった点だろう。昨年のG1・ドバイゴールデンシャヒーン(メイダン競馬場・1200m)では14頭立ての10着、今年のG1・サウジカップ(1800m)では20馬身差の14頭中12着と大敗を喫している。
勝利ジョッキー・坂井瑠星
坂井瑠星にとって2024年はフラストレーションの多い一年だったかもしれない。それでも、G1・高松宮記念(マッドクール)に続き、今回のチャンピオンズカップ制覇と重要な勝利を手にしている。
ケンタッキーダービーではフォーエバーヤングで勝利まであと一歩のところまで迫り、同馬とともにブリーダーズカップクラシックでも3着。また、シンエンペラーで東京優駿(日本ダービー)とアイリッシュチャンピオンステークスでは3着、ジャパンカップでは2着に終わった。これらのわずかな差がなければ、坂井騎手は日本人騎手として史上最も素晴らしい一年となっただろう。
しかし、レモンポップでの騎乗は冷静かつ的確で、同馬の持ち味を存分に引き出して勝利を収めた。2025年初頭には、シンエンペラーとフォーエバーヤングが中東遠征を予定しており、坂井にとってこの挑戦が忘れられないシーズンの幕開けとなる可能性もある。
データ
2023年と2024年のチャンピオンズカップで、1着レモンポップ、2着ウィルソンテソーロ、3着ドゥラエレーデという同じ組み合わせの三連単という結果だった。このような結果がJRAの平地G1で続けて生じたのは初めてのことだ。
障害競走では、2016年と2017年の中山大障害(G1・4100m)でオジュウチョウサン、アップトゥデイト、ルペールノエルが連続して1着から3着を占めた例があるが、平地では極めて珍しい記録となる。
世界的にも稀な事象で、直近では2021年と2022年のG1・チェアマンズスプリントプライズ(シャティン・1200m)で、ウェリントン、コンピューターパッチ、スカイフィールドが同じ着順で入着している。
2024年に世界的なG1で同じワンツーが繰り返された例としては、ロマンチックウォリアーとプログノーシスがG1・クイーンエリザベス2世カップ(シャティン・2000m)で2年連続の1着・2着を達成したケースがある。チャンピオンズカップはその2例目となった。
勝利陣営コメント
坂井瑠星(レモンポップ、1着)
「彼にとって最後のレースとなりましたが、勝って引退式に臨めたらと思っていたので、本当に最高の結果になりました。なるべくロス無く行きたいと思っていて、去年と同じイメージで乗りました。(ウィルソンテソーロが最後迫ってきて)勝ったなとは思ったのですが、凄い勢いで来たので分からなかったです。それでも結果的に勝つことができて良かったです。国内ではG1レースで6戦6勝ということで、こうした馬はなかなかいないと思いますし、その背中にいられたことを誇りに思います」
ハリー・スウィーニー(レモンポップのオーナー代表)
「なんというレース、なんという馬、そしてなんという走りでしょう。来年から種牡馬生活に入る彼の宣伝資料には『Lemon Pop – Drink Him In!(レモンポップ、彼を心ゆくまで味わえ!)』と書かれていますが、その言葉通り、彼のようなG1を6勝もする馬は滅多に現れません。日本で最も安定した活躍を見せた馬の一頭であり、今日の引退式にふさわしい存在です」
「6歳牡馬を現役続行させるのは常にリスクを伴う決断ですが、今年G1タイトルを3つも追加し、JRAで走った歴代最高のダート馬の一頭として種牡馬入りする結果となり、ほっとしています。この成功に関わった全ての人々に敬意を表します」
今後は?
レモンポップは北海道のダーレージャパンで種牡馬入りし、その種付け料は後日発表される予定だ。
ウィルソンテソーロは、昨年ウシュバテソーロの2着に敗れた東京大賞典(2000m)を回避し、来年2月のG1・サウジカップ(1800m)を目標にする見込みだ。一方、ドゥラエレーデは2022年のG1・ホープフルステークス(2000m)での大金星に続くG1タイトルを求め、東京大賞典は魅力的なレースになるかもしれない。