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クリスマスシーズンで賑わいを見せる、川崎の街。クリスマスまであと1週間を切る中、75周年を迎えたJpn1・全日本2歳優駿が川崎競馬場で行われた。競馬場に集った誰もが夢見たのは、待ちに待ったクリスマスではない。5月のチャーチルダウンズ競馬場だ。

昨年の優勝馬、惜しまれつつも6月に命を落としたミリアッドラヴが描かれた巨大な垂れ幕には、“目指せケンタッキー”のキャッチコピーが掲げられていた。このレースがケンタッキーダービーに向けた選定ポイント対象レースであることは、多くの人が意識していた。

ゴドルフィンの自家生産馬、パイロマンサーは、そのケンタッキーへの夢を叶える馬になるかもしれない。吉村圭司調教師が管理するこの牡馬は、満員のスタンドを前に、首差で接戦を勝利。無敗の連勝記録を3に伸ばし、ケンタッキーダービーの選定ポイント20点も獲得した。

パイロマンサーの勝利が、ゴドルフィン陣営にG1・ケンタッキーダービーへの遠征を決断させる決定機になったかどうかは、まだ定かではない。だが、2年前にこのレースを勝ったフォーエバーヤングがその後に見せた活躍は、「ケンタッキーダービーも攻略できる」という自信を日本の関係者に与えている。

実際、フォーエバーヤングは『ランフォーザローゼス(KYダービーの別名)』では不利もあり、際どい3着に敗れたものの、その後はリヤドでG1・サウジカップを制し、カリフォルニアではG1・BCクラシック制覇の快挙も成し遂げている。

パイロマンサーの吉村圭司調教師は、レース後インタビューへ向かう途中、この先はケンタッキーダービーが目標になるのかと尋ねられた。

吉村師は笑みを浮かべながら、「オーナーとまだ今後のプランについて話し合っていないので、今の段階ではまだ早いですが、可能ならば行けたらいいですね」と今後の展望を口にした。

だがその前に、パイロマンサーは世界の舞台での真価を問うため、まずは中東を目指すことになる。

吉村師は「オーナーとも相談して、UAEダービーは行きたいなと思っています」と明かした上で、次のように語った。

「もちろん、(ケンタッキーダービー)は憧れですよね。僕が記憶しているのは、武豊騎手がスキーキャプテンでケンタッキーダービーに乗った時のことを今でも覚えていますし、馬が関係者と一緒に迎え入れられる入場行進の光景は、いつも見ても感動します」と語った。

30年前、武豊騎手とスキーキャプテンが挑戦した時、自分は23歳だったと吉村師は振り返る。ケンタッキーのセールには行ったことがあるものの、ケンタッキーダービーを現地で見た経験は一度もないという。

「夢のようなレースという印象です。ぜひ生で観てみたいという気持ちはありますし、行ってみたいですね。『My Old Kentucky Home』をみんなで歌うシーンは感動すると思います。ですが、まずは一戦一戦、しっかりと結果を出していかないといけないです」

マイル戦の全日本2歳優駿は、日本の2歳ダート路線の頂点に位置するレース。東京の中心部と横浜の間に広がる川崎の市街地、その中心部に位置する地方競馬の川崎競馬場で行われる。

このレースは例年、JRA所属馬が好成績を残しているが、今年は門別から参戦した地方所属の無敗馬、ベストグリーンが1.9倍の1番人気に推されていた。

スタートでは積極的にハナを主張する馬がいなかったが、イダテンシャチョウの武豊騎手はすぐに先頭を奪わせる決断を下した。

耳を動かし、ときおり頭を上げ、やや集中を欠く様子を見せていたパイロマンサーと、その外を走るベストグリーンが、それを好位でマークする形。逃げる武豊騎手の馬は最終コーナーで失速し、レースはパイロマンサーとベストグリーンが競り合う形で最後の直線に入った。

残り100m地点、ここでパイロマンサーはようやくライバルを振り切ったが、Jpn3・JBC2歳優駿を制した牝馬、タマモフリージアがそこへ猛然と突っ込んでくる。それでもパイロマンサーは、追撃を抑えきって勝利を手にした。

「(勝てる)能力を秘めていると思っていましたし、勝てて良かったです」と語るのは、勝利ジョッキーの岩田望来騎手だ。「思っていた以上に隊列がすぐ決まって、比較的スローだったのではないかなと思います。ナイター競馬も初めてですし、左回りも初めてだったので、その辺は馬も戸惑ってました」

「その中でよく走ってくれましたし、最後もよく凌いでくれたなと思います。最後抜け出して、気が抜けるような部分はあったので、ゴール寸前に外の馬が見えてヒヤッとはしましたが、先にゴール板を通過することができて良かったです。本当に先が楽しみな馬の一頭になりました」

Pyromancer wins the Jpn1 Zen Nippon Nisai Yushun
PYROMANCER / Jpn1 Zen Nippon Nisai Yushun // Kawasaki /// 2025 //// Photo by @s1nihs

吉村師はレース後の取材の中で、サウジダービーへの遠征の可能性は否定しないものの、現時点では本命ではないことを明かした。

「サウジからドバイというのは決して楽なローテではないですからね。(無理をさせると)そこで終わってしまいますから。サウジダービーも難しいレースですからね」

「その辺はまずオーナーと話し合って、方向性を定めていこうと思います。まあ、嬉しい悩みですよね」

ケンタッキーダービーへの遠征については、「一戦一戦を使って、良い結果を出して、来年5月に繋げられればなと思います」と語った。

デイヴィッド・モーガン、Idol Horseのチーフジャーナリスト。イギリス・ダラム州に生まれ、幼少期からスポーツ好きだったが、10歳の時に競馬に出会い夢中になった。香港ジョッキークラブで上級競馬記者、そして競馬編集者として9年間勤務した経験があり、香港と日本の競馬に関する豊富な知識を持っている。ドバイで働いた経験もある他、ロンドンのレースニュース社にも数年間在籍。これまで寄稿したメディアには、レーシングポスト、ANZブラッドストックニュース、インターナショナルサラブレッド、TDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)、アジアン・レーシング・レポートなどが含まれる。

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フランク・チャン、Idol Horseのジャーナリスト。世界を旅する競馬ファンとして、アメリカ、カナダ、チリ、イギリス、フランス、ドバイ、オーストラリア、香港、そして日本の競馬場を訪れた経験を持っている。

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