近年、多くのスターホースが早々に種牡馬入りし、名勝負の芽が摘まれてしまうことが多くなっているが、アジアにはまだ『ライバル物語』が育つ余地がある。
香港ではほとんどの競走馬がセン馬であることから種牡馬入りの誘惑とは無縁であり、日本でも種牡馬候補が4歳、5歳まで現役を続けるのは珍しくない。
そんな中、ドバイから届いたニュースはファンの心を一気に熱くさせた。ロマンチックウォリアーを管理するダニー・シャム調教師が、2026年のサウジカップへの再挑戦を視野に入れているというのだ。
ご存じの通り、ロマンチックウォリアーは2025年のサウジカップで、日本のフォーエバーヤングにゴール前で交わされ、勝利を逃した。その激闘は、競馬史に残る名レースの一つとして語り継がれることとなった。
4歳馬のフォーエバーヤングは、今週土曜日のG1・ドバイワールドカップでも1番人気に推されている。管理する矢作芳人調教師は、今週の記者会見で「来年も現役を続ける可能性が高い」と明言しており、両雄の再戦に期待が膨らむ。
この夢の再戦には早くも『リヤドの激闘2(The Rumble In Riyadh II)』との呼び名がつけられ、実現の可能性にも現実味を帯びてきた。
とはいえ、まずは目の前の戦いにフォーカスする必要がある。ロマンチックウォリアーは土曜日、G1・ドバイターフに出走し、日本のリバティアイランドらと再び激突する。
両馬が前回対戦した際の決着は、ロマンチックウォリアーに軍配が上がった。勝利したジェームズ・マクドナルド騎手がゴール板を駆け抜けた瞬間、やや振り返るようにして片手を差し出し、『それが全力か?』とでも言わんばかりの仕草を見せたことも話題に。このジェスチャーに対しては、少なくともネット上では一部のファンが反発を示した。
もっとも、SNS上ではちょっとしたことでも騒動が起こるものであり、香港と日本のライバル関係は基本的に友好的なものであるのは補足を入れなくてはいけない。

4月27日の香港チャンピオンズデーでも、スプリント王者対決が話題を呼ぶかもしれない。ジョアン・モレイラ騎手がG1・チェアマンズスプリントプライズに向けてサトノレーヴの可能性を宣伝し続ければ、宿敵のザック・パートン騎手が黙っているはずもない。
そのパートン騎手が手綱を取るカーインライジングは、シャティンでは『手がつけられない』と評されており、現地では次戦のG1よりも、半年以上先のシドニーでのジ・エベレスト出走への期待の声が日に日に高まっている。
今週、ジョアン・モレイラ騎手がIdol Horseの取材に対して放った一言が、カーインライジング陣営に一抹の不安を呼び込んだかもしれない。
「たとえば、人間だって明日急に体調を崩して仕事に行けないことがあるかもしれない。それは競走馬にも同じ事が言えます」
「調子が悪い日もあれば、運に見放されることもあります。もし、カーインライジングにそういうことがあれば、サトノレーヴはその隙を見逃さないでしょう」
口撃合戦というには穏やかすぎるコメントだが、それはモレイラ騎手も分かっているはずだ。もし本格的な『舌戦』になれば、常に切れ味鋭いコメントで知られるザック・パートン騎手には敵わないことを。
パートンは、オーストラリア流に言えば『スレッジ(毒舌)』の達人であり、その発言はたびたび話題を呼んでいる。
香港と日本のライバル関係は比較的穏やかだ。アメリカ流に言うところのトラッシュトークとは無縁であるのに対し、アメリカではまさにそういった『応酬』がストリーミング配信という舞台へと飛び出そうとしている。
4月22日にNetflixで配信予定の新番組『Race For The Crown(原題)』の予告編では、米競馬界で激しく対立する2人のオーナー、大富豪のマイク・リポール氏とジョン・スチュワート氏の確執が前面に押し出されている。
その中でスチュワート氏は、「マイクの大声にはもううんざりだよ」と言い放っており、視聴者の関心を引き寄せるには十分な火花が散っている。
競馬が再び主流な話題となる時が来たのかもしれない。リポール対スチュワートのような人間同士の因縁は、新たなファンを呼び込む『入口』となるだろう。
だが、一度その扉をくぐったファンを一生惹きつけるのは、場外戦よりレースだ。ロマンチックウォリアー対世界のような、競走馬たちが演出する『本物のライバル関係』に敵うものはない。