現在、フランスに滞在して武者修行を行っている田口貫太騎手。
将来有望な若手にとってこの経験は成長に繋がるものだが、まずはこの話に触れなければならない。日々増え続けるファンにとって重要な話題、彼の髪型についてだ。
田口の明るい笑顔、愛嬌のある頬、仏陀のような短髪もしくは坊主頭は、この20歳の若手騎手を日本屈指の人気騎手に押し上げた一因だ。そして、彼の人柄もまた人を惹き付ける魅力がある。よく笑い、遊び心溢れるその性格は、ファンやライバルにとって愛さずにはいられない。
Idol Horseは北海道のセレクトセールで、田口に取材する機会があった。ファンがそのヘアスタイルを気に入っていること、髪を伸ばすプランはあるのかと尋ねられると、トレードマークの笑顔を浮かべて答えてくれた。
「いずれは年を追うごとに、多分30代ぐらいには髪を伸ばすとは思いますけど、皆さんが飽きるまではこの髪型で(笑)」
長いときでも1インチ程度だという髪を触りながら、彼はそう語った。しかし、デビュー後2年間の活躍を見ると、ファンの飽きが来る日は遠いように思える。
栗東のベテラン調教師、大橋勇樹調教師の弟子である田口は、2023年のデビューシーズンで35勝(JRA)を挙げる活躍を収めた。今年、2024年はそれを上回る勢いで勝ち星を重ねており、現在までに31勝を挙げている。そして、シャンティイの小林智厩舎に2ヶ月間滞在する、フランス修行も実現した。
「日本では無い経験がすごくできると思いますし、フランスで多く学べることがあると思って、フランスへ修行に行こうと思いました。やっぱり日本とは違って、ヨーロッパは重たい馬場でしっかり馬を『御して動かす』っていうのが主流かなと思いますし、今自分が足りないところは馬を動かす技術かなと思うので、その技術を盗めればと思っています」
シャンティイの深い森の間を縫うように設けられた調教コースは、岐阜の木曽川沿いに位置する笠松競馬場とは正反対の環境だ。田口はこの地方競馬場で育ち、競馬への情熱を抱いた。
彼の両親、田口輝彦さんと広美さん(旧姓中島)はともに元騎手だ。父親が現在調教師に転身しており、母親は厩舎を手伝っている。
田口にとって子供の頃の憧れは、笠松のリーディングジョッキーを18年連続で獲得し、オグリキャップとのコンビでは7戦7勝の安藤勝己騎手だった。地方競馬のヒーローだった安藤はその後中央競馬に移籍し、『史上最高』に数えられる存在になった。JRAのライセンスを取得したのは2003年、43歳になってからだったが、移籍後1ヶ月以内に中央のG1を勝っている。
「両親が(安藤)勝己さんと昔競馬で乗っていました。それでジョッキーデビューしてからも勝己さんにたまにお会いして、その時アドバイスを受けている感じです」
田口は憧れの騎手とは異なる過程で大舞台に上り詰め、今では落ち着きも見られるが、ダートレースでは笠松の面影が垣間見える。田口は通算66勝のうち、49勝をダートで稼いでいる。ダートでの勝率(7.4%)は、芝の勝率(3.2%)の2倍以上をマークしている。
そして、地方競馬で育ったルーツも忘れておらず、定期的に笠松競馬場や他の地方競馬場で腕を磨いている。先行策が上手いと呼び声高いが、穴馬を持ってくることでも有名だ。
「笠松競馬もよく勝たせてもらっていますし、ダートは先行や逃げなど戦略的に前に残ることが多いですし、それは意識して乗せてもらっています」
「(穴馬を持ってくるコツは?)人気しているのかにかかわらず、一頭一頭馬の個性があるので、返し馬でそれを感じ取りながら、今日はこういうレースをしようって組み立てます」
田口はファンの間では『貫太(カンタ)』と呼ばれ、その名字ではなく名前で呼ぶ文化が幅広い世代に親しまれている。すっかりお馴染みの存在となった彼だが、紛れもなく若手騎手の一人だ。ここ数年でデビューしたJRAの若手は有望株が多く、黄金世代の到来か噂するファンも一定数いる。
永島まなみ騎手は田口より2年先にデビューした先輩だが、彼らは仲が良く、良いライバル関係を築いている。昨年の阪神ジュベナイルフィリーズでともにG1初騎乗を果たし、今年の勝利数もわずか6勝差だ。過去5年以内にデビューした腕の良い若手騎手は数多く、2021年には永島まなみや永野猛蔵、2022年は佐々木大輔や西塚洸二、そして2024年には高杉吏麒がそれぞれ騎手デビューを果たしている。
田口の一番の夢は?それは、凱旋門賞で日本競馬の悲願を叶えることだ。フランスではトップクラスの騎手たちと競い合いながら、現地の芝の特徴を確かめたいと思っている。
「やっぱり日本馬が一番強いと思っているんですけど、その日本馬が凱旋門賞などフランスで結果を残せない理由を知りたいなと思いますし、スミヨン騎手のような名騎手がフランスにはいらっしゃるので、今回フランスに行きたいなと思いました」
彼は皆が知る個性とその覚えやすい特徴に加えて、騎手としてのセンスの高さも持ち合わせている。フランスでも、『貫太』は人気者になるかもしれない。