ブレントン・アヴドゥラ騎手が土曜のシャティン競馬場を後にしたとき、その顔にはまるでG1レースを勝ったかのような満面の笑みが浮かんでいた。
もちろん、香港競馬の今季最後のG1は、先月の時点ですでに終了している。今季47勝という自己ベスト記録を挙げた彼は、騎乗停止により早めの夏休みに入るところだ。しかし、それだけが喜びの理由ではない。
ニコニコ顔で競馬場を去るアヴドゥラだが、実は本当にG1レースを制したばかり。ただし、それは騎手としてはではない。グレイハウンド、『ガスザジェット』のオーナーとしての勝利だ。
彼の故郷、オーストラリアではドッグレースのG1レース、ヴィックピーターズクラシック・ファイナルが行われており、単勝14倍の伏兵として臨んだ同犬が見事に1着で駆け抜けた。
「マジで嬉しいですね」とアヴドゥラはその喜びを語る。スマートフォンを片手に愛犬の勇姿を眺め、レースを見終わってからのインタビューだった。
「騎手という仕事柄、自分で競走馬を所有する馬主になれないので、今はこれが私の趣味です。実は調教師(ハンドラー)のライセンスも持っていて、自分が手がけた愛犬をスターティングボックスに入れたこともあるんですよ」
ガスザジェットの勝利により、アヴドゥラ自身は “犬主” としてこのレースの連覇を果たした。昨年はリンスドザロット号でこのG1を勝っている。また、これで7戦4勝となったガスザジェットの共同オーナーには、シドニーのジョー・プライド調教師と息子のブレイヴ氏も名を連ねている。
✈️ Gus The Jet takes off!
— The Dogs (@Thedogs_com_au) July 5, 2025
He lands the @ladbrokescomau Vic Peters Classic Final in style at @wentyparkgreys tonight!#thedogs @wentyparkgreys @brentonavdulla @PrideRacing pic.twitter.com/936wPzPiPc
これから夏休み期間に入る香港競馬、アヴドゥラは今シーズンを代表する『飛躍を遂げた騎手』で間違いない。“ザ・ガン” の愛称で親しまれる同騎手は、香港での通年免許を取得した昨シーズン、33勝をマークし、騎手リーディングは10位タイの順位でフィニッシュした。
その33勝のうち、トニー・クルーズ厩舎の馬で挙げた勝利は13勝。同厩舎のカリフォルニアスパングルでは国内外のG1レースを制した。
今シーズン、リーディング4位に浮上した大きな要因は、後ろ盾の拡大にある。今季9勝のクルーズ厩舎とは好相性を継続、さらに同郷のジョン・サイズ調教師からも信頼を勝ち取り、サイズ厩舎とのコンビでは17勝を記録した。サイズ師の後ろ盾は、香港騎手にとっては大きな味方だ。
「ジョン(サイズ師)は今シーズンの私にとって欠かせない存在です。カリフォルニアスパングルのトニー(クルーズ師)も大きな後ろ盾となってくれましたが、今シーズンに限って言えば、この躍進はジョンの力が大きかったです」
アヴドゥラがサイズ厩舎の馬で挙げた17勝、これは自身の厩舎別の最多勝というだけでなく、サイズ厩舎にとっても最多勝利騎手だ。ザック・パートン騎手(15勝)やヒュー・ボウマン騎手(11勝)を上回る勝利数、この17勝は数字以上の大きな意味合いを持っている。
「ジョンの馬で最多勝を挙げられるポジションにいるのは、大体はザックやジョアン(モレイラ)といった騎手です。その顔ぶれを考えると、この数字には大きな意味があるのではないかなと思います」
「ジョンが僕に良い馬の手綱を託してくれたおかげで、良い騎乗が増えました。その期待に応えられたことも、私自身の自信に繋がりました。今シーズンは残り3開催ですが、彼が調教師リーディングで7勝差の首位を走っています。それも嬉しいですね」
サイズ厩舎の主戦騎手という立場は、例年であればリーディングジョッキーへの大きな足掛かりとなる。だが、アヴドゥラは最終的にパートンに挑戦できるかと聞かれると、明言は避けた。
もっとも、パートンは土曜開催でも4勝を積み重ね、シーズン通算132勝に到達。2位のヒュー・ボウマン(68勝)にほぼダブルスコアという状況なのだから、大層なことは言えないのも納得できる。
そもそも、アヴドゥラは大言壮語という表現が似合う人物ではなく、謙虚な人柄だ。所有するグレイハウンドでのG1制覇の余韻に浸る中、34歳の彼は9月から始まる3年目のフルシーズンに向けて、大きな目標を掲げるより着実な前進を心掛ける。
「今季の開幕時に『トップ5入りか、44週のシーズンで毎週1勝以上は勝つ』を目標に設定しましたが、47勝なので達成できました」
「今季は騎乗停止が痛かったので、来季は50勝を超えられるかもしれません。香港はすべてがチャンス。ここでは誰もが腕の立つ騎手で、あとは “良いときに良い馬に乗れるかどうか” です。ザックやヒューから馬を奪うのは難しいです、2人とも殿堂入りジョッキーですから。地元の調教師からのさらなる信頼を得ることが、次のステップです。そうすれば成績を伸ばせると思います」